それは、音もなく近づいて…

第六章:東京駅・最初の国民的目撃…見えてしまったもの

【東京駅施設管理センター・異常報告書(19██年 7 月 18 日)】 発生時刻:午前 5 時 32 分 場所:丸の内地下連絡通路 始発前の静まり返った通路に、それは立っていた。施設管 理員の証言によれば、それはわずか一晩で、一メートル八十センチを超える高さまで膨れ 上がっていたという。

[現場清掃員・独白(後日の聞き取りより)] 「…最初は、工事用の資材か何かが、ブルーシートに包まって置かれているんだと思いました。でも、近づくにつれて、空気が震えているのがわかったんです。誰にも聞こえないはずの地下で、あれは確かに、自分たちと 同じように呼吸をしていました。 怖くなって逃げようとしたとき、通路の隅で、誰かが落としたと思われる子供用の帽子が、あの黄色い糸に絡め取られ、ゆっくりと…本当にゆっくりと、構造物の中へ沈み込んでいくのを見たんです」

[目撃者の SNS 投稿ログ(19██年 7 月 18 日 07:12)] 「東京駅地下。やばい。巨大なキノコみたいなのが生えてる。警察が規制してるけど、隙間から見える。何かが、あの中か らこっちを呼んでる気がするんだ」



しかし、記録が示す事実は残酷だ。東京駅という巨大な胃袋に、粘菌はすでに深々と根を張っていた。構造物は、ただのオブジェではない。それは、何百万人という「柔らかい肉体」が集まる 東京に向けられた、粘菌の巨大な「口」だった。

私は、さらに絶望的な「同時多発」の記録…第七章へと、ページをめくった。