それは、音もなく近づいて…

第四章:小児病院・中庭…発見されたもの

私は意を決して、報告書とポラロイド写真をめくった。

【静岡市西部医療センター・施設管理課 報告書(19██年 7 月 3 日)】早朝の巡回中、中 庭の中央に、巨大な「構造物」が立っているのを警備員が発見。 それは高さ約 2 メート ル、幅約 1.5 メートルに及ぶ、不気味な淡褐色のキノコ状の物体であった。表面は粘液質 で、いくつもの細い管のようなものが脈打ち、地面から「吸い上げている」かのような異 様な迫力がある。

【看護師へのヒアリング記録(7 月 3 日 10:00)】 「昨日までは確かに何もなかったんで す。でも、今朝になって…。あれを見た瞬間、吐き気がしました。巨大なキノコというよ り、何かもっと別の…生き物の『臓器』が地面から突き出しているような感じでした。

【小児科医の私記(同日 夜)】 異様な一日だった。中庭に出現したあの物体を、子ども たちは怖がらなかった。 それどころか、重症で寝たきりの子までもが窓際に這い寄り、うっとりとした表情であれを見つめている。 「お母さんの匂いがする」と、一人の幼児が 言った。 病院中に、甘く、腐った花のような匂いが充満している。
粘菌図鑑では「子実体」を「マッチ棒のような突起」と呼んでいる。だが、謎のイエロー 菌にとって、それは人間を凌駕する巨大な塔になるのだ。
この構造物は、終わりではなかった。次なる拡散のための「発射台」に過ぎなかったのだ。