それは、音もなく近づいて…

第三章:幼体消失・初期統計…名付けられない数

【静岡県中部保健所・相談受付記録(19██年 6 月上旬)】「昨夜まで元気だったウサギの 仔が、今朝になったら一羽もいなくなっていました。檻の鍵はかかったままで、網が破られた形跡もありません。不思議なのは、血の一滴も落ちていないことです。ただ、床板が 雨漏りでもしたように、黄色く、ベタベタと濡れていました。【保健所対応】:野生動物に よる捕食の可能性を説明。

【静岡県警 ██署・相談票(要旨:6 月 10 日)】「池で飼っていた数えきれないほどのオタマジャクシが、一晩で全滅しました。網ですくったような跡もなく、水は澄んだまま。 ただ、池の縁にある石に、見たこともない『黄色の網目』のような模様がこびりついていました。【警察対応】:事件性なし。

【保健所職員の備忘録(6 月 15 日)】 相談件数が異常だ。今週だけで 15 件。すべて『幼い個体』だけが消えている。 我々は、何か『名付けられない数』を数え始めているので はないか。

粘菌にとっての「エサ」とは、彼らとの境界を持たない、未発達で柔らかい細胞そのもの だった。 そして今、この統計の矛先は、ウサギやカエルから、さらに「柔らかい対象」へ と向きつつある。 私は、資料の山から「小児科医院」の文字が記された次のページを、 恐る恐るめくった。