第九章:民間対策と二次被害…善意と恐怖の市場
国家が安全を宣言した裏で、人々は得体の知れない不安に突き動かされ、自ら破滅の種を 蒔き始めていたのだ。
[民間除去業者「クリーン・プロテクト」社 内部研修資料(19██年 9 月)] 「…不安は 金になる。政府が『大丈夫』と言えば言うほど、人々は疑う。高出力の送風機による床下 の乾燥、および次亜塩素酸の大量噴霧。粘菌の残骸(粉末)が舞い上がっても気にする な。客の前では『無害化した証拠です』と言い切れ」
[ある除去作業員の証言(後日の聞き取りより)] 「…現場は地獄でしたよ。教授たちの 言う『忌避反応』なんて冗談じゃない。我々が乾燥した風を送り込むと、あいつらは死ぬ どころか、猛烈な勢いで『粉』を吐き出した。 その粉は、換気扇やエアコンのダクトを通 じて、建物中の、それこそ赤ん坊の寝ている部屋にまで送り込まれたんです。あの時、俺 が撒き散らしたのは、ただの粉じゃなかった。あれは、奴らの『意志』そのものだったんだ」
[自治体・市民相談センター 受付記録(10 月 2 日)] 「…業者の人に家中を消毒してもらいました。でも、その夜から、生後三ヶ月の娘が、泣くのをやめてしまったんです。部屋 の隅から聞こえる空気清浄機の音と、あの子の喉の音が、いつの間にか重なって聞こえる んです。

科学班が「忌避」と呼んだものは、粘菌にとっては「別の宿主を探せ」という号令に過ぎ なかった。追い立てられた胞子たちは、乾燥した風に乗って、より「柔らかく、湿った抵抗力のない」場所…すなわち、人間の幼体の呼吸器へと吸い込まれていったのだ。
粘菌図鑑では「繊細で、乾燥が苦手です」と教えている。人々はその「苦手」という言葉 を「弱点」だと誤認した。
私は、もはや「数えることさえ許されなかった」犠牲者たちの記録…第十章へと、逃げる ようにページをめくった。
国家が安全を宣言した裏で、人々は得体の知れない不安に突き動かされ、自ら破滅の種を 蒔き始めていたのだ。
[民間除去業者「クリーン・プロテクト」社 内部研修資料(19██年 9 月)] 「…不安は 金になる。政府が『大丈夫』と言えば言うほど、人々は疑う。高出力の送風機による床下 の乾燥、および次亜塩素酸の大量噴霧。粘菌の残骸(粉末)が舞い上がっても気にする な。客の前では『無害化した証拠です』と言い切れ」
[ある除去作業員の証言(後日の聞き取りより)] 「…現場は地獄でしたよ。教授たちの 言う『忌避反応』なんて冗談じゃない。我々が乾燥した風を送り込むと、あいつらは死ぬ どころか、猛烈な勢いで『粉』を吐き出した。 その粉は、換気扇やエアコンのダクトを通 じて、建物中の、それこそ赤ん坊の寝ている部屋にまで送り込まれたんです。あの時、俺 が撒き散らしたのは、ただの粉じゃなかった。あれは、奴らの『意志』そのものだったんだ」
[自治体・市民相談センター 受付記録(10 月 2 日)] 「…業者の人に家中を消毒してもらいました。でも、その夜から、生後三ヶ月の娘が、泣くのをやめてしまったんです。部屋 の隅から聞こえる空気清浄機の音と、あの子の喉の音が、いつの間にか重なって聞こえる んです。

科学班が「忌避」と呼んだものは、粘菌にとっては「別の宿主を探せ」という号令に過ぎ なかった。追い立てられた胞子たちは、乾燥した風に乗って、より「柔らかく、湿った抵抗力のない」場所…すなわち、人間の幼体の呼吸器へと吸い込まれていったのだ。
粘菌図鑑では「繊細で、乾燥が苦手です」と教えている。人々はその「苦手」という言葉 を「弱点」だと誤認した。
私は、もはや「数えることさえ許されなかった」犠牲者たちの記録…第十章へと、逃げる ようにページをめくった。

