「か、かわいい…桃色のほっぺが…顔色いいな、寝不足で気だるげなのも良しだが…やはり本来の愛らしさが倍増されて…あのデカブツに少し感謝だな…イヤ、一沙樹と学校生活を共にして放課後制服デートにあまつさえ女性の服を着させ間近で拝むなど、うらやま…んん゛っ…」

 ……何か、うるさい…折角、気持ちよく寝てたのに。ちょこが起きる…

 「眉が寄ってる…起きた?一沙樹。一沙樹の好きな季節限定和菓子。取り寄せてあるから、起きたら後で食べようね」

 …ううん…好きな限定、…ん?…
 和菓子ってあのお店?もしそうなら
 「いま、たべる…」

 食べ物につられて起きる。

 我ながらどうかと思うが食べてみよ、誰にも文句は言わせない。
 自然な甘さの中に濃厚な餡が口の中で合わさりお抹茶とのは相性はバツグンなのだ。食べてみよ。

 目を擦りながら久々汰の服の端を掴む。

 「起きた、くー兄」
 「擦ったらだめだよ、顔洗ってきて」

 そんな子どもっぽい仕草に久々汰が癒されている事を知らない伊達。

 優しい声で手を掴まれて眼から離される。

 「うん…先に食べちゃだめだよ。ぜったい」
 「…信用ないなあ、待ってるよ。ちゃんと」
 「待ってて」
 「そう何度も言われると、食べろっていう振りに聞こえるよ。一沙樹」
 「違うから。顔洗うまでそのままで居てね、くー兄」

 どうしよっかな、という声を背に戻ってなくなってたらどうしよう、と要らぬ心配をする伊達は相当食い意地がはっている。

 そんな姿を見て、ぷっと久々汰は吹き出す。この一面は久々汰だから見れる。他にも数人いる事はいるが。
 一沙樹を堪能する事が許されるのは今、この瞬間は、自分だけだ。

過ごした年月が違うのだ、他とは。

 いつの間にか目覚めて、一沙樹の後を追うちょこを付き従えて、顔を洗いに行くその眠たげな背中を見送る。

 パシャパシャと顔を洗い、ふかふかのタオルで顔を包む。

 柑橘系の香りに癒される。
 …くー兄の匂いがして、落ち着く。

 さっぱりした後、後ろを向くと、扉の入り口にお行儀よく座って伊達を見るちょこが居た。そんな光景にに頬がゆるむ。

 この後食べれる甘味を想像して伊達の機嫌はこの日最高潮に達した。

 ◆

 「おいしいっ」

 溶けてコクのある豊潤なバニラの味わい、やってくる桃のようなさっぱりとした後味。美味しいとしかいいようがない。

 伊達は今アイスに夢中だ。ちなみにちょこはスヤスヤ眠りの中。

 ご飯を食べるちょこに癒された後、久々汰の入れてくれた抹茶と限定和菓子を頂いて、また甘いものを摂取している。

 そんな伊達の横で言いつけを守り、遠隔操作でシャッターをきる久々汰。

 しかし撮られながら、伊達はこんもりバニラアイスを盛ったスプーンを口に運ぶと思った。

 くー兄はああして一緒に写っているけど、あれ…もしかして、後からいくらでも加工出来るんじゃ…

 はかられた…

 スプーンを持つ手で頭にあちゃーと手を当てる伊達。

 何もかも今更だと当人以外が見れば思うのだろうが。結局納得するのは本人次第なのである。もぐもぐと味わいながら対策を諦めず考える。

 「ねえ…、くー兄」
 「何?一沙樹」
 「俺に、プライベートは無いの?」
 「きゅ、急に…な、何の事だか、はは」
 「……最近も、あったんだ、例の人から」
 「へ、へえ。そう、どんな…?」

 目を泳がせ、白々しく訊いてくる久々汰に合わせて伊達も、あえて知らないフリをして返す。

 「うっかり忘れものをした時、何故か新品で名前入りの、サイズもピッタリな体操着の入った袋が机に掛けられてあったり、お風呂のシャンプー買い忘れたのに気付いて、夜出掛けようとしたら、いつも使ってるのと同じのが玄関先に置いてあったり、他にも…まあ、"助かって"はいるんだけど」

 そう言って久々汰の顔を見ると、目を反らしながら口元を引き締めている。
 僅かに上がる口角が色々と隠しきれていない。

 「ふーん、そうか…」
 「この間は、友達の家で流れでワンピース、試着することになって…そしたらいつもみたいに手紙が入ってて、消すようお願いしたけど…あの時のデータ、ちゃんと消してくれたかな……?」
 「…………消したんじゃないか…?」
 「…流石に、友達の家までとなると、俺も黙ってられないし」
 「………」
 「ねえ、くー兄。どう思う?」
 「…引き伸ばして壁には張ってないと思う、…プリントして終わった後消した、と思います。…あくまで想像でだけど」
 「そっか。…プリントって何?」
 「…さあ……、…」
 「…くー兄、アイス、食べる?」

 こてんと首を少し傾けアイスを乗っけたスプーンを口元へ持っていく。

 久々汰は無反応だが目だけはこちらをしっかり見ているので、続けて「ハイ、あーん」と開くよう促す。

 あざといと声が聞こえるが、これが久々汰には効く、はずだ…たぶん。

 こうなれば…アイスの力で割ってみせよう…、その口。ふふふ

 と目論む伊達。アイスじゃなく、どれだけやれるか伊達の力にかかっているのだが、本人は知る由もない。

 そこら辺は無自覚でたちが悪い。

 ◆

 結局、久々汰はゲロった。

 特製の抱き枕カバーになっている、らしい、と。

 「そっか、くー兄…その筋の人と仲いいから何でも知ってるんだね」

 伊達の言葉にソファで座りながら返事をかろうじてする久々汰。

 「…、ああ。…ブフっ」

 興奮冷めやらぬまま、止まらない鼻血をティッシュで押さえ、上を向く残念な美形、久々汰。

 …普通にアイス食べさせただけなのに…

 いや、少しだけ…、よくお邪魔する創作サイトを参考にさせてもらった…

 そこに描かれてるキャラが、くー兄に瓜二つ、というか良く似て…激似だ。

 思わず試してみたが、恥じらいを捨ててやった甲斐があった。
 伊達は思いの外うまく聞き出せて、24時間以内に破棄する約束もしたのでご満悦だ。

 「よし、確認も出来たし、ちょこにも会えたから、俺帰るね」
 「え、待って一沙樹」
 「上向いてなきゃ、またぶり返すよ?」
 「うん…ってそうじゃなくて、やだ。帰らないで」
 「俺も帰りたくないけど…バイトあるし、お金稼がなきゃ」

 …腐活の為、萌えを頂くにもお金が要るんだ

 「それに、くー兄も忙しいでしょ。ほんとは」

 実は久々汰の方がきっと忙しい日々を送っているはずなのだ。

 今日だって、寮から帰ってきて、確か会うのは三週間ぶりだ。

 委員会に、進学の準備、そしてもうすでに自ら稼ぎ口も作っているみたいだし。

 学校で配布された、校内新聞をくれたりして、伊達が久々汰の通う学校事情に意外と詳しいのは、また別の話。

「隈、出来てるよ…ちゃんと寝てね…」

 目の下、ややお疲れ気味の目元を優しく撫でる。

 久々汰の事を少なからず伊達は尊敬していた。身近すぎる存在故にその事を時々忘れそうになる。
 本人がそれを感じさせないのもあるが。

 こうして自分の為に時間を割いてくれている、ということを伊達なりに理解していた。

 だからこそ、長居は出来ない。したくても出来ない、といった所である。

 「一沙樹、卒業したら俺と一緒に棲も?それで俺と…け、けけ、」
 「え、やだ」
 「秒速で断…ぐっダメージが、うう゛」

 少しぐらい考えてくれても…と鼻にティッシュを詰めて俯いている。久々汰の残念な姿。

 「面白いね、くー兄」
 「本気なのに…俺は毎日でも一沙樹の事見ていられるのに。考えてよ、一沙樹」

 伊達を真っすぐ見つめ手を握る久々汰。そんな風にされても冷静な伊達。
 このやり取りは何回目だろうか。

 そんな風に約束して、縛っておく気はない。…簡単にこたえられないし、割と本気で言ってるような気もするし。どのくらい本気かはわからないが…。

 毎日見ていられるのは…ほんとだろうな…変な所で確信が持てるのがやだ…

 でも今はここから出る事が先だ。

 「くー兄、俺くー兄の事"好き"だよ、それじゃだめ?」
 「ずる、い」

 "好き"、という言葉を吐くときだけ、伊達の表情が僅かにはにかんで久々汰の心を射止めた。

 ◆

 久々汰の腕の中に居るちょこに手を振る。

 「バイバイ、ちょこ」
 「一沙樹のバイバイはいつ聞いてもいいな」
 「なんだそれ…じゃあ、また来るね」
 「あ、そうだ一沙樹。来月文化祭があるから…良かったら来ない?」
 ……え、
 「行くっ!」
 「そんなに目を煌やかせて…可愛いっ」
 「おっと、バイバイくー兄。詳しいこと、また後で連絡してね。楽しみにしてる」

 ハグしようとしてきた腕を避けて素早い身のこなしで遠ざかる。

 「つれない…でも、好きっあ、今度チャイナ服着てくれないか訊くの忘れた」と背後からきこえたきがした。

 最後の方は幻聴だと思いたい。