「遥…やめて」

 朝、遥を家に泊めて三連休二日目の今日。
 洗面台で遥と並んで歯を磨く。
 まだ半寝の状態で伊達は頭を触ってくる遥に静止を求めた。

 「だって、…ふはっ、いー君の髪面白い何コレ。」

 そう言ってオカメインコの様に、ひょっこり跳ねた寝癖をつまむ。

 伊達からは見えないので、毛先をサワサワされて落ち着かない。

 頭を振ると、やっと放したが遥はまだ笑うのをやめない。

 「遥も付いてるよ」
 「うそっどこ?」

 焦ったように鏡をみた遥は、寝癖を確認出来ずに伊達を見た。

 そんな遥のおでこを指して「ここ」と伊達は言った。

 「え…、ほんとだ何でこんな所に」

 遥は鏡をみて、自分のおでこに付いた四角い赤い跡をまじまじ見ると言った。

 そんな遥を差し置いて、口に含んだ水をぺっと吐き出し顔をざぶざぶ洗うと朝ご飯を食べに向かう伊達。

 トースターに2枚パンを入れて焼く。
 これだけでは足りないので、目玉焼きを作っていると、「これ、どーしたら直る?」と遥がおでこを抑えてやって来た。

 伊達は冷蔵庫から保冷剤を取り出した。

 「これあてとけば?」

 「えー、これで直る?」

 「うーん、…わからない。でもとりあえずやって」

 「…わかった」

 「遥おれオレンジ」

 「はーい」

 伊達は遥に飲み物を準備させつつ、フライパンの蓋を開け具合をみてレタスとトマトが盛り付けてある皿に焼けたトーストを置くと完成した目玉焼きも乗せる。

 遥はケチャップなので伊達は自分のに醤油をたらすと出来たご飯をテーブルに持っていく。

 ケチャップ片手に保冷剤をおでこに当てて待つ遥の前に皿を置く。

 「見せて」
 「どう?」
 「う、すくなってるカモ」
 「ほんと?良かったー」

 食べよ、と言う遥にぎこちなく頷く伊達。手を合わせる遥に伊達も頂きますと食べ始めた。



 「ね、いーくんさ、最近いい事あった?」

 遥の唐突な質問にモグモグと口を動かしていた伊達は口の中にあったものをごくんと飲み込んで少し悩んだ後こたえた。

 「最近?…今日」

 思ってなかった伊達の返答に遥は思わず笑った。

 「何ソレ」
 「遥と会ってご飯久しぶりだし」

 伊達の言葉に遥の口元が引き結ばれる。

 「いーーくん…、オレもオレも!ちょー嬉しい」
 「ちょ、ジュースこぼすぞ…」

 何でそんな事を訊くんだろうと伊達が思っていると遥は言った。

 「いっつも寝不足ですって顔が、だいぶいいから」

「そう?」

 伊達は自分の顔を触った。

 …ああ、あれかな七瀬くんから貰った香り袋。

 枕もとに置いて寝るようになった。

 アレのおかげかも…

 意識せず顔が綻ぶ。

 そんな伊達の顔をみてニコニコする遥。

 遥に見られているとも知らず、残りの朝食を平らげる。

 「あ、そだ。遥また寄付頼んでい?」
 「いーよ」
 「いつも、ありがと」
 「いつもお礼言ってるのはこっち、女の子達に人気らしーよ」
 「ほー。…七瀬くん作だからね」

 そうだろうなと納得して、伊達はどこか誇らしげに頷く。
 
 七瀬からつくり過ぎたと譲ってもらった品々を、遥経由で子ども食堂ほか必要な所に渡して貰っている。

 その辺のコミュニティは遥の方が詳しいので一任してお願いしている。

 朝ごはんを食べた後、ウキウキとした様子を隠しもせず、伊達は遥に誘いをかけた。

しかし、オレはイイ。と言うので、伊達は一人向かうことにした。

 伊達の家から歩いて20分程に位置する閑静な住宅街。
 目的の場所に着いて、インターホンを押す。

 待っていると、中から微かに鳴き声が聞こえてきた。

 扉が開いて、中からぬっと出てきた人影。

 「くー兄」
 「一沙樹」

 目もとを和らげメガネをかけた人物が伊達の名を呼ぶ。

 伊達の従兄、久々汰。
 伊達は幼い頃からよくこの家にお世話になった。
 途中から遥も一緒にここに来ていた。

 伊達が何か言う前に、子犬が久々汰の前に飛び出してきた。

 「あ、こら」

 そう言って久々汰が腕に乗せて抱き寄せる。

 腕の中に収まった子犬はきゅうんと小さく鳴いている。伊達はその可愛さに魅了され、目じりを下げた。

 「名前なに?」
 「まだ決まってない…何がいいと思う?ちなみに女の子」
 「まだ決まってないの…?」
 
 そう言いながら、子犬をみつめる。

 垂れた三角の耳、白の毛並みに所々ある薄茶の模様、つぶらな瞳。あ、二重だ。
 思わずそのぷにぷにの肉球を触りたくなる。

 「うーん、ちょこ?」
 「ちょこ?」
 「うん、チヨコさんが飼うから…あとサイズ?」
 「…ちょこ。気に入ったか?」

 久々汰が子犬に話しかける。
それに指を舐めて返事をするように鳴いた。

 …激かわ。連れて帰りたい
 伊達はそんな子犬に釘付けだ。