「センパイ」
 「どうした伊達氏、恋煩いか」
 「ちがいます、これ二番に持っていくので、ドリンクお願いします」
 「ああ、承知した、任せろ」

 今日は明石と一緒のシフトだ。

 接客中は明石も極力絡んでこない。
 真面目気味に黙々と業務をこなしている。
 腐が絡むとなると話は別だが。

 閉店間近。客の居なくなった店内。
 後片付けをしている最中、明石に話しかけられた。

 「なんだか今日はそわそわしているようだな、伊達氏」

 「おれがですか?」

 「そうだ。説明すると、今日は特に笑顔が普段の1.5倍増し、そして何度も時計を見返している。それに何だか俺に優しい気もするんだが…」

 「気の所為です」

 とは言いつつも、今日は祝日で、昼間のみの営業だ。なので、この後伊達は予定を入れていた。

 あと十分程で終わるため、時計をチラチラと見てはいた。

 気取られるくらいわかり易く態度に出てたかな…気をつけよう。

 「初めてのデートか…」

 洗い物を終えた明石がぼやく。

 食器を拭いていた伊達が、本気なのか冗談なのかわからない明石に、不服そうに訂正を入れる。

 「違います、あと初めてって決めつけないでください」

 「照れることはないぞ、相手がどんな人物か詳しく、イヤとことん教えてくれてかまわない。例えば一匹狼、チャラ男、転校生、保険医、もしくは生徒会で言うと誰にあたるかでもいい。…どれも捨てがたいな」

 と脱線し始めた。
 見当違いな方向へ向かう明石に、伊達はつい口を滑らせた。

 「この後、久しぶりに会う人と約束をしてるだけです」

 「ブフォッ、デ…デートじゃないか?!キタコレ」
「弟(みたいな人)です」

 間髪入れずに伊達が言うと「そうか、弟か…」と一気に鎮火した。

 もっと突っ込んで来るかと思ったのに、明石はそれ以上追及してはこなかった。

 そういえば…先輩から家族の話、聞いたことないような…

 ふと浮かんだそれは「閉めよっか」
 という店主の言葉で何処かへ消えた。

 ◆

 久しく見ていなかった学ラン。伊達は頬を緩ませ手を挙げた。

 「遥!」

 「久しぶり、いーくん」

 「待たせた?」

 「今来たとこ」

 「そっか…行くか。そう言えば、何で制服?」

 「コレは…昨日友達の家に泊まってそのままここに来た、から?」

 「…」

 バイト帰り、家の近所にある公園で二人は待ち合わせをしていた。

 これから食材を買い足しに出かける所だ。

 元気だったか、などとお互いの近況を喋っているとき、何気なく遥が言った。

 「いー君、オレ原チャリの免許取った」

 「…遥何歳だっけ」
 「もうすぐ14」
 「確か…取れるの16、俺の年から」
 「うん、先輩の本免に合格した」
 「……危ないことはするなよ」
 「うん、今度乗せるね」
 「遥…」
 「何?」 

 どう言えば伝わるだろうか、と考えて伊達は立ち止まる。

 そんな伊達に気づき振り向いた遥と目が合う。

 遥は俺の事を信頼して気を張らず何でも話してくれてる、とは思う。そういう存在でありたい。けど。

 遥のことをある程度、信じているけど…言わないと、伝わらない事もあると思う。

 「俺、遥が心配…。遥が元気でいれば、何も言わない。けど、そうじゃなくなったら泣く。ご飯も喉を通らない…ほんとに」

 伊達と背丈はほぼ同じで、学ランを着てはいるが中身が小学生の子どもに話しかける。

 「……、車は?くるまだったらいい?」
 「よくありません」
 「……」
 「今俺が言ったこと、おぼえて」
 「車はよくない…」
 「その前」
 「オレが元気だと、ご飯が美味しく食べれる…」

 何かちょっと違うけど、その通りなので伊達は頷いた。そしてまた話しかける。

「そう。もし…俺が、事故ったり怪我したら、遥はどう思う…?」

 「やだ」

 即答した遥に、それと同じだと伊達は伝える。

 「俺、ずっと遥に元気でいて欲しい。こうやって、一緒にご飯作ったり食べたり、これからもしたい。だから…大切にして欲しい、自分の事」
 「……」

 無言なのは考えてる証拠だな、良いことだと人知れず頷く伊達。

 「…死ぬ気で回避する」
 「何か言った?」
 「うん、危ない事はしない」
 「…」

 遥の聞き分けが良すぎるのが逆に怪しい…
スーパーの中に入り、目の前の品を見ている内にそれも隅へと追いやられて行く。

 後でもう一度念押しをしておこう。
 決めていたのに、結局伊達は伝え忘れた。