ある日

 伊達が移動教室から帰ってくると、机の中に手紙が入っていた。

 折りたたまれた白いメモ用紙。
 ひらいて、中を見る。

 "ワンピ姿引き伸ばして壁に貼る許可求"

 そう書かれた手紙に伊達は返事を書く。

 "アウトですデータは消去して下さい"

 そしてまた元の位置に戻した。

 その日のうちに、いつの間にかそれは机の中から消えていた。

 □

 学校帰り、伊達は七瀬とクレープを食べに行く事になった。

 めったに行かないが、七瀬が珍しく誘うので付き合う。

 あえて周囲に公言して無いが、実は甘党で、内心興奮していた伊達。

 店につく直前、七瀬が提案してきた。

 「ジャンケンで負けたほうが払う…3回戦」

 じゃんけん…弱いんだよなあ。けど、一昨日給料日だったから、懐はまだあたたかい。クレープ…食べれる

 「……のった」

 結果、伊達が3回とも勝って、七瀬が持つことになった。

 伊達は勝った直後、終始「ホントのほんとの、ほんとに?」とたじろいでいた。

 入って早々伊達はメニューに釘付けだ。
 真剣に悩むこと数分。

 「何にする?」

 「おれは……」

 まだ悩む伊達。
 七瀬は決めたようだ。

 「これにしようかな、苺の…。多分全部はたべられない、伊達食べて」

 「えっ、いいの…?」

 見上げた伊達に頷く七瀬。

 予想外の提案。伊達は七瀬に合掌して拝んだ。やめろというので、仕方なく手をおろした。



 「んまいっ」

 スイートポテトクレープ…!

 モンブラン風に巻かれたアイスに語弊力を失う。
 一口食べては、うっとりして、目を閉じてしまう。…美味しっ

 そんな伊達を満足そうに見る七瀬。
 
 はたと伊達は思った。こんなに美味しいものをタダで食べて良いのだろうかと。
 そうだ、やっぱりお代は…

 「さっきのお金、」

 「それは、要らない。こないだのお礼だから」

 お礼って…

 この前…着ただけの、アレ?

 「……」「……」
 伊達はポケットに入ったスマホを掴む。
 その手を七瀬に抑えられ、それでも出そうとした。

 静かな攻防のすえ、伊達は、七瀬くんにかなうわけない、と折れた。

 「もしかして…」
 「なんだ?」
 「…ううん、ありがとう」

 「「また来よう」」

 目を合わせて笑う。

 「一緒に」
 「うん」

 それから七瀬のぶんも美味しい美味しいと平らげ、笑顔でごちそうさまでしたと七瀬に再度手を合わせた。


 …たぶん、おれの食べたかったものを頼んで、くれた。

 渡すとき、七瀬くんとクレープを交互に見て困惑ぎみだったお姉さんにも、七瀬くんの優しさを教えてあげたい。

 七瀬くんみたいなさりげない気遣いのできる兄貴になりたい…。
 見習お。

 □

 先日家に来た友人の伊達。

 抵抗感もあったはずだが、服を着てくれとダメ元で頼んだら、案外あっさり承諾してくれた。

 その後勉強してる最中、ふと伊達に
『意外と押しに弱いんだな』と言うと
『違う。七瀬くんだから』と見返され、
…そうか、としか返せなかった。

 見た目で遠ざかる人も少なくない中、いつの間にか近くにいる存在。

 話す前は、ぼんやりとした印象しか無かったが、話してみると案外楽しい。

 七瀬の趣味を知った時も「つくったの?ほお…」と感情の乗った表情をする。普段がややあれなので、見ていて面白い。

 二人でいる時、無言で過ごすこともある。七瀬は趣味に没頭し、伊達は窓の外を見たり、寝てたり。
 
 接していく内に気付いた。本人は自覚していないだろうが、時々、淋しそうだ。

 七瀬はその瞳を見るのが嫌いではない。
と言ったら何か色々誤解されそうだが。
 ほんの少しだけ魅入ってしまう。

 伊達はよく、ぼんやりしている。
 この前家に来た時もそうだ。

 いつも眠そうに隈を携え登校してくる。

 最近夢見がどうとか言ってたな、…それも関係あるのかもしれない。


 礼は後日談と言っていたがそういうわけにもいかない。
 一つは決まったが…

 何がいいか、中にラベンダーを入れたサシェを作りながら考えこんでいると、ドアをノックする音で我に返った。

 「兄貴、オレだけど」

 「順か…どうした入れ」

 ドアが開いて順が顔を出す。

 「あのさ、この前の…服まひろが礼言いたいって…」

 順の横からまひろが、ひょいと顔を出した。

 「お兄さん、おじゃましてます」

 「ああ、いらっしゃい」

 「服、ありがとうございました。早速着て、じゅんくんとクレープ屋さんに行って来ました」

 そう言ってスカートの部分を引っ張り見せてくる。

 順が「おい、まひろ…、」といって止めようとしたが、服を着て喜ぶまひろを見て黙った。

 「お、着てくれたのか。少しだけ見せてくれないか?」

 そう言って作りかけのサシェを机に置くと、丸椅子を寄せて近寄った。

 「もちろん!あ、おじゃましまーす」

 そう言って入ると、くるっとまわってみせた。

 「かわいいですよね、これ。ここのボタンもキラキラしててお気に入りです」

 「はは、お世辞でも嬉しいな」

 「お世辞じゃないですよ!順くんにも、似合うって言われて。…もう最高でした、今日はクレープも食べれて…見ます?」

 これ、ここです!と、いつも以上に喋るまひろについ笑みがこぼれる。

 そんなまひろを見たこともない顔で弟が見ていることにも。

 幸せそうだ…。
 二人から溢れ出るオーラに思わず七瀬もホッコリする。

 それじゃあ、失礼しましたー。と言って出ていく順とまひろ。

 帰り際に順がありがと、ぼそっと言って出ていった。

 ………あ、伊達甘いもの好きだ。確か

 それから次の日の放課後、伊達を誘ってみた。

 いつもより表情筋が豊かに、通常の倍にこにこする伊達に、誘ってよかったと七瀬は胸をなで下ろした。

 店に着くと、伊達は真剣な表情で悩みだした。

 さっきからずっとメニューの同じところに目線が行き来している。

 七瀬は少し考えて提案した。

 全部は食べれないから食べて、と伝えた後の伊達の顔。

 ついさっきの顔を思い出して笑いそうになった。

 抑えきれていなかったらしく、伊達に七瀬くんどした?と問われる。

 「いや、…なんでも。あ、伊達、手出して」

 「…?」

 「それ、枕元に置くとよく眠れるらしいぞ」

 「きれい…いい匂い」

 ラベンダーの刺繍が施されたその袋に鼻を近づけてそう言うと七瀬を見た。

 「もらっても、いい?」

 「伊達に作ったやつだしな」

 と七瀬は頷いた。

 「大事に使う」

 と伊達は存外穏やかな声で言うと、嬉しそうに微笑んだ。

 「…おう」
 「帰ろっか」
 「…、ああ。…そういえば、この店。まひろちゃんに教わったんだ」
 「え…!そうなの?」
 「順とこの前の服着て、食べに来たらしい」
 「そ、…そうなんだ…」
 「写真も見せてくれたな…仲良さそうだった」
 「…どんな風に、げふん」
 「どうした?」
 「…、んーん。」

 帰り道を伊達と喋りながら歩く。

 こころなしか、話を聞いている間、クレープが届いた時のように伊達の瞳が輝いて見えた。

 伊達との時間はあっという間に過ぎてしまった。

 いつもと違い、無邪気な伊達の一面を見た七瀬はまたどこか誘おう、と静かに湧き立つ想いを感じながら思った。