笑みを浮かべて、テーブルへご案内す
 る。

 「お決まりになりましたらお呼びください」


 平日の店内はいつもよりすいていた。

 バイト先の小さなレストランは勤め始めてそろそろ半年が経つ。

 「ありがとうございました」

 出ていくお客さまをお見送りし、もしかしたら早く上がれるかもという期待をして、業務に戻った。

 しばらくすると、徐々に混み合ってきた。いそがしく動き回っていると、新規が来店し出迎える。

 その二人の姿を捉えたとき、一瞬伊達の息が詰まる。心の中が騒々しいが、平静を装い対応した。

 「いらっしゃいませ、宜しければ、傘お預かり致します」

 傘を預かり、席へとご案内する。

 伊達はみた。お迎えする際、繋がれていた手を。しかも、預かった傘は、ひとつしか使用されておらず、もう片方は一滴も濡れていない。

 刮目せよ。

 相合傘、されてここまで来られたんですね…。
 顔の微笑みがとまらない。

 おかげで退勤するまで優しい気持ちで接客できそうだ。なんて、無敵オーラにあやかっていたら、入り口の鈴が鳴り、新たなお客さまが来たことを知らせた。

 出迎えに行くとバイトの先輩、明石がいた。…確か今日は休みだったはずだ。

 「え、センパイどうしたんですか?」

 「ああ、シフト確認するのを忘れてな…。来たついでに食事も、と思った次第だ」

 そうですか、といいながら伊達は、外との寒暖差で曇りきった明石の眼鏡を見えてんのかな、と凝視しつつ、こちらへどうぞ、とあいてる席へ案内した。

 先程のカップルの出来上がった料理をテーブルに運ぶ。

 「失礼します。お待たせ致しました、オムライスとハンバーグでございます」

 笑顔で料理を置くと、「ありがとう」
 と仰られたので、ごゆっくりとスマイルとお辞儀をして席を離れる。

 背を向けてすぐ、「半分こ」と聞こえ、今すぐ振り向いてその様子を見たい衝動にかられたが、理性でなんとかおさえる。
 ああ、隣の席に座って傍観者になりたい。
 立ち止まりそうになる足を動かして、明石にも水を届ける。

 「お水置きますね」

 「ありがとう」

 返事はしたが、下を向いて何かを熱心に書いているようだ。

 注文を聞き、出来たサンドイッチとナポリタンを明石の席へ運んで、失礼しますと踵をかえそうとしたが引き留められた。

 相変わらず曇った眼鏡で自分の料理を見たまま伊達に喋ってくる。

 「伊達氏、あのカップルは俺の幻想か」

 「存在してるとおもいます」

 「…ああ、神からのプレゼントに感謝する。ああ直視したい、だが出来ない…あの天国の花園では一体どんな展開を繰り広…、待て、伊達氏。…今日、共に帰るぞ」

 断ろうと口をひらく前に呼びベルがなる。

 「待っている」と明石が伊達を見て言った。

 
 ◇

 後片付けをして、気づけばあっという間に時間がすぎる。
 あがる前に厨房の女主人芦田さんに挨拶をする。

 「お疲れ様です」

 「お疲れ様、ん?何か今日いつもと違うね、イイ事でもあった?伊達ちゃん」

 伊達の顔をみて笑顔で訊いてくる。

 上がる口角そのままに、わかりますか、なんてこたえる。
 今日の出来事に思いを馳せすぎて、ほっこりしていたのが出てたかな…。

 「そういえば明石くんが、萌えを待つって言ってたわよ」

 わすれてた。

 着替える為、ロッカールームに入る。
 そうだ、居たんだった、この人が。

 「待っていた。いや待ちくたびれた、待ちくたびれて妄想と現実のはざまで揺れ動いていたところだ。しかし、ことを詳しく聞きたい」

 「何をですか?」

 「何ってあの…ラブラブオーラバンバンの……、攻めが受けを見つめるあのまなざし…見せつけてんのか、有難うございますのカップルの情報だ。あああ、また来店するかと思うとわくわくとまらぬ。爆発するな。たぶん来たらショートする」

 心の声を素直に出したら自分もこうなるのかなと、楽しそうな先輩をみて伊達はおもう。着替えながら長くなるんだろうなと遠い目をする。

 「しかし伊達氏、君の接客はとても良かった。いい雰囲気の店だと思ったに違いない確実に来るぞ。聞いているか、なんだその顔は。伊達氏、顔がすべてを物語っているぞ、気をつけろ。思考を読み取られるのは接客業にあるまじき」

 誰がいってんだろ…こっちは、何度もとんだり隠れて奇声あげてるセンパイをお客に見られないよう色々フォローしてるのに。正直はやく帰って、腐活したい今日のアウトプットも。そう伊達はおもいながら口を開く。

 「……今日、今じゃなきゃだめですか」

 「そうだ、今日だ………何かが今日あるとして…それが明日もあるなど誰も断言できん。…だから、今だ」

 「………」
 なんかどこかできいたな、どこでだっけと考える。

 「そう、昨日読んだファンタジー小説の攻めが言っていた。こころに刻め。で、どうだったんだ。なるべく詳しくたのむ。だが無理なら明日でもやむを得ん」

 「歩きながらでもいいですか」

 □

 説明は一分で済ませたのに、追及がとまらない。 

 明石は、本来なら腐を語り合うことが出来る人だ。最初に言いだせなかったばかりに、こうした役割にとどまっている。

 悶えるとこも、いみふな声がでるのも同じだけどな…。

 始めに腐り仲間だと言えなかったことを伊達は後悔していた。



 「ありがとう。今日聞いたことは、新たな創作活動へ発散させてもらう。じゃあな、伊達氏」

 手を挙げて帰る、満足そうな背中を見届ける。何だかんだ、明石が語るので自然と情報交換が成りだって、伊達も楽しめた。
 帰りに感想頼むと渡された、腐の発生に関するレポート用紙を手に、伊達は歩きながら明石のメンタルはどう作られてるんだろう、などと考えたりして帰路につく。

 その日の夢に明石が出てきた。
 「……腐ィルターかければ、たとえ火の中森の中…丸くおさまる、っていうだろ」と、ポケットに片手を突っ込み、眼鏡の真ん中を指でを押し上げ芝居がかった仕草で言う。


 □ 


 起きたら、もう新しい一日が始まる。

 学校は大体が寝不足で、だるい。
 気力で来ている所がある。

 朝の照りつける日光が厳しく降り注ぐなか教室になんとか辿り着いた。

 席に着いたらすぐに寝る、体力温存しておかないと。確か今日もシフトが入っていたはずだ。

 目を瞑ったが、頭にチョップされて、だれ、と顔をあげて開いているかもわからない薄目で見上げる。

 「おはよ、伊達。今日もすごい顔で」
 「七瀬くん、おはよ。今日もいかついね」

 オールバックの眉無し小麦兄貴こと七瀬は、手芸が趣味。伊達によく試作のミニクマをくれる、見た目を裏切る人物だ。

 「飴いる?」
 「ください」(ポーチかわいいな。)

 もらった飴を口に放りこみ美味しいと味わってると、もう一個くれた。
 お礼をいうと綺麗な威嚇スマイルをくれた。

 「明日もバイト?」
 「ない、休み……の予定」
 人手不足でヘルプを頼まれることもしばしばあるので予定も付け加える。
 「つくったのが溜まりすぎてな…家寄ってかないか?明日」
 「行く」
 約束ついでに来週の期末試験の勉強もどうか提案する。
 「いいぞ」と快く了承してくれたので、教えてもらう気満々で喜ぶ。

 寝る。