雨と傘と君と

 校門を過ぎて車通りの少なくない道を歩いているとき、不意に絹本が俺の右肩を指さした。

「え、上崎の肩濡れてんじゃん」

 気付かれたか、と舌打ちしたくなった。これが俺の意地の正体だった。
 学校から駅まではほぼ一本道だ。靴箱を出ようとした時点で、絹本が車道側を歩く位置にいたことがわかっていた。あるいは、傘を持つと言った左利きの俺に配慮をしていた。だから、せめて彼が濡れないようにしたいと思った。

「気にしなくていいよ」

「気にすんなっていうほうが無理だろ。俺が入れてもらってんだし」

「絹本が濡れる方が嫌だから」

 俺がそう言ったところで、絹本が口を閉じた。どうやら言い負かせたらしい。調子に乗った俺は、念を押すように

「絹本、いつも周りばっか見てるから。たまにはこっち側なっとけよ」

と続けてみた。だが、すぐに後悔することになった。

「そんなに俺のこと見てんの」

 絹本は口元に手を添えて顔を背けた。声の感じからして、きっと俺のことを笑ってるんだと思う。
 そうじゃない。いや、そうかも。そうなのか?
 そう言われてしまえば、普段からよく絹本を目で追っていたような気がしてきて、顔が熱くなった。それを誤魔化すように言葉を吐いた。

「見ようとしなくても入ってくんだよ。さすが、女子にモテるのもわかるなって」

 絹本はモテる。面倒見が良くて穏やかで、頭もいい。女子に人気の男子、というと、大体の同級生が思い浮かべるのは彼だと思う。そんな彼が一般生徒である俺の目を引く、というのはおかしな話ではない。

「モテないよ」

「モテてんだよ」

「一億歩譲ってそうだとして、別に嬉しくないし」

 なんということを言うんだ。絹本に好意を寄せている全員と俺に謝ってほしい。
 絹本は絶句している俺に向き直ると、「上崎にはわからないかもしれないけど」と、いつもの人好きのする笑顔を浮かべた。
 ああ、彼くらいの人間になればその境地に達するのか、と思ってムカついた。