彼の笑顔が誰より可愛い。

自分に向ける優しくて穏やかな笑みが可愛いなと、勇が思った時。彼のこげ茶色のふわふわしたくせ毛の穂先から滴が二滴落ち、優作のピンク色がかった肌の首筋を伝った。
思わず勇は持っていた自分のバスタオルで、優作の首筋を優しく拭う。
「俺のことよりお前、自分の身体をしっかり拭けよ。風邪ひくぞ」
同級生というよりまるで弟の面倒をみるような心境で、勇がタオルを優作の首にそっとあてた、その時。
「んっ……」
優作のぽってりとした唇から艷を含んだ声が漏れ、勇は慌ててタオルを引っ込めた。
「わ、悪い! 滴が付いてたから拭いてやろうと思ったんだが……」
「あ、ううん。僕の方こそ、なんかごめん」
自分が発した変な声に気がついたのか、優作が素直に謝る。
少しの妙な沈黙の後、勇がふいに「そろそろ帰るか」と言いながら立ち上がる。
え、と優作は声を漏らして、スポーツバッグを肩にかける勇を見上げた。
「もう帰るのかい。もっとゆっくりしていけばいいのに。さっき抱きとめてくれたお礼にお茶を淹れるよ」
その彼の言葉に、勇の頬がカッと熱くなる。こいつはさっきの変な声が出たことを覚えているのか、忘れているのか。それとも何も思わないのか。
勇はぎゅっと両手の拳を握ると、
「いや。今日は部活に出ない分、家で復習や予習したいから帰るぜ」
少しだけ睨みたくなるのを抑え、勇は優作から顔を背けた。
そんな彼の態度を気に留めるでもなく、優作は普段通りの穏やかでのんびりした口調で、
「そっか、気を付けて帰ってね。また明日」
その声に勇は原因不明のわずかな苛立ちと、初めて胸が熱くなった。