気がつかないで

あの日、たったひとつの希望を見つけた。
中学2年生には辛い現実だったけど、生きる希望を見つけられたのだからよかったのだと思う。
どれだけ辛くても。
どんなことが起こっても。
桃乃(ももの)さえいれば、なんでもできるような気がしたから。
俺の宝物、俺の娘。
「ママ!桃乃のお話聞いて!」
かわいくて、いつも俺を癒してくれた。
でもある日母親が——。
「オメガひとりで生きていくのは難しいのよ。やっぱり、頼れるアルファが必要よ」
わかってる。
だから、放っておいてくれ。
アルファなんか大嫌いだ。
いなくなってしまえ。
俺を不幸にしたあいつらが憎くて、トラウマを植えつけたあいつらに怒りが湧いて。
——そう思っていた。
初めて運命の番である君に会った時も、強く拒絶した。
でも、君は今までと違ったから。
俺を“オメガ”としてじゃなく、“一条(いちじょう)とあ”として見てくれる優しい人。
でも、俺はアルファが嫌いなんだ。
神様は意地悪だから、そんな俺の気持ちを煽る。
「俺、人のこと忘れちゃう病気なんだよね」
好き。
君のことが大好きだから。
認めるから、忘れないで…!
どれだけ願っても届かない現実。
桃乃だけだった世界に、いつの間にか(りん)くんがいてくれた。
でも、せっかく見つけたのに君を失ってしまうのだろうか。
「俺がベータだからダメなの?それとも、やっぱり凛のこと?俺が忘れさせるから、だから俺のとこに来てよとあさん」
気持ちが揺らぐ。
これはアルファ嫌いの不器用な俺と、オメガ嫌いの奇病持ちの君との悲しくて幸せな物語。