気がつかないで

「あ!お迎えきたよ、桃乃ちゃん」

俺が桃乃がいる部屋をのぞくなり、保育園の先生が俺を見つけて桃乃に声をかけてくれた。
桃乃は俺の方を見て、パアッと笑顔になった。
お絵描きでもしてたのかな?
机の上にクレヨンが散らばっている。
そして、その隣には仲良しな壮佑くんが座っていた。
一緒に遊んでいたみたいだ。
桃乃は急いでクレヨンを片付けて、荷物を持って俺のところに来た。

「ママー!今日ね、お絵描きしたの!」

そう言って絵を見せてくる。
多分俺と桃乃かな。

「そっか〜。すっごく上手だね!」

「うん!…ねぇ、ママ。この人誰?」

桃乃は笑顔で頷いた後、俺の隣にいる霜降くんを指さす。
そして、保育園の中から先生の声が聞こえる。

「壮佑くん、お兄ちゃん迎えに来たよ?」

「ま、待って…!今片付けてる」

俺は壮佑くんに視線を移す。
保育園に残っているのは桃乃と壮佑くんだけみたいだ。
ということは、もしかして霜降くんの弟って壮佑くん!?
でも、だとしたらどうして苗字が違うんだろう?

「ママ?聞いてる?」

俺がなにも答えなかったせいか、桃乃が少し膨れてそう言った。

「あ、ごめん。この子はママの生徒なんだ。霜降凛くんっていうの」

「へー!」

と、その時壮佑くんも外に出てきた。
そして霜降くんに抱きつく。

「兄ちゃん!帰る!」

「あ、ああ…」

動揺しているのか、少し声を震わせた。
そして、俺を見て言った。

「えっと…もしかして、いつも壮佑と仲良くしてくれてる桃乃ちゃんの親って…」

「あー、うん。俺だよ」

そうして沈黙が訪れる。
なんだろう、すごく気まずい雰囲気だ。
だけど壮佑くんと桃乃はふたりで話をしていて、それに気がついていない。
それどころか、桃乃が俺に爆弾発言をした。

「ねえママ!壮佑くん、一緒にお家でご飯食べたい!」

「えっ…!?」

驚いてそんな声をあげてしまった。
まさかそんなことを言い出すなんて、思ってもなかったから。
霜降くんも俺と同じようにあせった様子で壮佑くんに言った。

「壮佑、さすがにとあさんに迷惑になるし、ダメだよ」

「お願いママ!」

う〜ん、桃乃と壮佑くんが仲良いのは知ってたけど、ここまでとは。
でも俺と霜降くんは教師と生徒という立場だし。
あんまりそういうのはよくないんじゃないかな?
でも——。

***

結局桃乃の頼みを断れなかった俺は、霜降くんと壮佑くんを家に招いてしまった。
霜降くんが断るかなと思ったけど、意外と誘いに乗ってくれた。
もしかしたら、帰りづらい家なのかなと思ったり。
アルファの家系は難しいっていうし。

「桃乃ー、これ運んで」

「はいっ!」

いつものように元気よく返事をして、運んでくれる桃乃。
相変わらずかわいいなぁ。
今日の夕食はタンタン麺とツナマヨ餃子で、桃乃と考えたメニューなんだ。
気に入ってくれるといいな、と思いながら料理を運んでいく。

「とあさん、なんかほんとありがとう」

「うん、平気だよ。こうやって賑やかなの、久しぶりだし」

そう言って俺が笑うと、霜降くんはどうしてか暗い顔をした。
俺は不思議に思いながらも、気にしないようにして席に座った。