そばにいたのはキミだった


“体調悪いのにごめん、今日はもう行くよ。お大事にね”

あれから宵衣くんは、すぐ保健室を出て行った。まだ本調子じゃなかった俺は色んな話を聞いたせいもあって疲れたのか、そこからまた眠ってしまった。

目を閉じても、さっきの名残惜しそうな宵衣くんの背中を思い出す。

そして、次に目が覚めた時は14時頃だった。久しぶりにぐっすり眠れた気がする。先程より熱も下がっていて、症状を聞いた保健の先生も知恵熱ではないかと言っていた。回復はした方だが、ひとまず大事をとって今日は帰ることになった。

俺の鞄は寝ている間に慧人が持ってきてくれていたようだ。後でお礼のメッセージを送っておこう。だいぶ普通に歩けるようにもなっていたので、迎えを呼ぼうかと言う先生に断りを入れ、お礼を告げてから保健室を出た。

父さんに連絡しても仕事で急には帰れないだろうし、昔から学校で急に体調不良になった時は先生に送ってもらうかタクシーを呼んでもらっていた。

体調が悪いからと言って父さんに頼るのも気が引けるし、仕事の邪魔をしてしまうのが気まずい。放置される訳ではなくて、帰りに食べられる物や薬を色々買ってきてくれるからそれだけでありがたかった。

こういう時…どれだけしんどくても心細くても今まで1人で何とかしてきたし、実際何とかなってきた。耐えることだって何ともなかったのに。

なんで今は…こんなに心細くて甘えたい気持ちになるんだろう。

誰でもいい訳じゃない。俺が甘えたいと思うのは…頭に浮かぶのは1人だけだ。

そんなことを考えながら、がらんとしている電車の席に座り何気なく鞄から交換日記を取り出した。パラパラとページをめくると、今まで2人で書いてきた文達が目に映る。

どのページを読んでも、心を包まれるような感覚がする。本当は宵衣くんからだったと知ったせいか、自分の気持ちにカッチリと細かいピースがハマったように、じんわり実感する。

俺がどちらのことを好きなんだと悩んでいたのは、間違っていなかったんだ。

だって、どちらも宵衣くんで…気付いたらいつも近くにいてくれて、文章でも寄りかからせてくれていた。

「そうだ…どっちも宵衣くんだったんだ」

俺は今まで男を好きになったことはないけど、それに対して世間の風当たりが冷たいことはアバウトなりに分かっている。

性別が同じというだけで、恋愛が始まる前から不利になることの方が多いだろう。女の子が好きな人を好きになったら、それこそスタートラインにすら立てないはず。

宵衣くんはどうにかスタートラインに立つために…どれだけ必死で悩んで、考えたんだろう。そしてそれが上手くいくかも分からないし、ダメになる確率の方が高いと思うのに。

自分が宵衣くんの立場だったら…同じことをしてでも好きな人に振り向いてほしいって、行動できたんだろうか。いや、俯瞰して考えてみても怖くて仕方ない。きっと、宵衣くんみたいにできない…。

この嘘は、俺に振り向いてもらいたくて微かな望みに賭けた嘘だったのかもしれない。勇気を出して、気持ちを隠して、考えて…。

日常でも日記でもそばにいてくれて、ずっと俺を想ってくれていた。今までの宵衣くんの行動を思い返してみても、全部俺のためにしてくれたことばかりだ。

さっきの言葉からも痛いほど伝わってきた。

宵衣くんの、必死すぎるくらいの俺への気持ちを…。