「昼休み、宵衣くんが園原さんと一緒にいるとこ見たんだ。保健室入って、鍵かけてたよね…?」
話があると空き教室に呼び出されて、もしかしたら奇跡が起きたのかと期待してバカみたいだった。俺達の事情を知らない人があの光景を見たら、勘違いするのは当然だ。それもよりによって香夜くんに見られた。
「…別にただの友達だよ。保健委員の当番で行っただけだよ」
この状況で俺の気持ちを伝えて本当のことを話しても、信じてもらえるだろうか?それに言い訳みたいな状態で気持ちを伝えたいんじゃない。
今この状況でどうするのがベストなのか分からない。目を逸らして否定の言葉を言うことしかできなかった。
「…絶対何か隠してるよね?」
でも香夜くんは引き下がらなかった。混乱してるに決まってる。きっと、園原と親しげにしていたことに動揺している…。やっぱり、予想していた最悪のことが起きてしまったんだ。香夜くんは園原を好きになって、それを横取りしてるように見えた俺に怒っているんだ。
「落ち着けないよ!俺だって悩んで悩んで、たくさん考えてるのに!」
そう思ったのに、香夜くんから飛び出した言葉は予想と真反対だった。
「交換日記も楽しくて、でも宵衣くんのことも頭から離れなくて…!返事どうしようって…!本当はどっちのことが好きなんだろうって悩んでるのに!」
「え…?」
初めて聞く、取り乱したように荒くなった香夜くんの声。今にも泣き出してしまいそうな、抑えていたものが溢れ出したような表情。
そして…嘘みたいな、奇跡みたいな言葉。
俺のことが頭から離れない?
どっちのことが好きなんだろうって悩んでる…?
園原だけじゃなくて、俺のことを恋愛対象として見てくれてるってこと?
香夜くんは…俺を好きかもしれないの?
「それ…本当なの?俺のことが頭から離れないって…」
「ち、ちがっ…今のは…!」
香夜くんは、しまったと言いたげな顔をした後、かなり慌てた様子を見せた。この人は誰かをバカにしたりからかったりするような人じゃない。今のもきっと本心だ。
本当に…?
1ミリの奇跡に賭けたことが、現実になった…?
香夜くん。
香夜くん…。
「…っ!?ん、」
全部溢れ出してしまいそうだった。いや、言葉に出さなかっただけでもう決壊してしまっていた。
俺は、香夜くんの体を引き寄せて唇を重ねた。
体が勝手に…という表現がピッタリハマるほど、もう止められなかった。
「…ごめん、香夜くん」
今の状態でも信じられないくらい嬉しいのに、それと同時にまだ香夜くんは気持ちを迷っていることと、先走ってキスをしてしまった後悔が襲ってきた。
そして教室を走って出て行く香夜くんを追いかけることができないまま、しばらくその場に座り込んだ。
そうだ、香夜くんは俺のせいでずっと悩んでいるんだ。交換日記のことも、本当のことも話さないといけないのに。
さっきの言葉が本当なら、今俺のことを好きなのかどうかで悩んでいるんだ。これ以上悩ませる前に、早く本当のことを、俺の気持ちを伝えなきゃいけない。
でも…こんな状況で話していいのか?
怒られても傷付いても、ちゃんと話すって決心したはずなのに。
分からない。
嫌われてしまうかもと考えたら、怖い。
考えに考えた作戦だったはずなのに。香夜くんのことになると、頭で考えて動けなくなる。
こんなに乱されるような気持ち初めてで、どうしても好きで…
好きだから、怖くて仕方ない。
