そばにいたのはキミだった

今回のことは、ほとんど賭けだった。

「私が名前貸すのはいいけど、本当にその作戦で大丈夫…?こっちに接触してバレたりしないかな?」
「そこは大丈夫。女子に慣れてないみたいだし、話しかけたりしないと思うから。俺も気にかけるよ」
「ならいいけど…。私も彼女に勘違いされたくないからさ」

香夜くんに近付くため。男の俺が恋愛対象になれるか分からなかったけど、少しでも意識してもらうため。普通に話しかけてただの友達になったら、それこそ対象外になってしまうから。

だからといって、いきなり好意を伝えても恋愛経験のない香夜くんを困惑させてしまうし、一気に引かれて気持ち悪がられるかもしれない。そうしたら二度と関われない。

考えに考えて、バレンタインデーというイベントに乗っかって立てた作戦だったんだ。

「ありがとう園原、少しの間頼む」

高1の時、付き合ってた同い年の彼氏に浮気された。しかも浮気相手は女の子で、俺に対しての言葉は全部嘘だったらしい。俺がイケメンだったからイけそうだったし男と女どっちも経験してみたかっただけと言われて、膝から崩れ落ちそうだったのを覚えている。

ついには、体育館裏で逆ギレした彼氏に殴られて関係は終わった。笑えるくらい呆気なく散々な終わり方。自暴自棄になりそうで、授業が始まってもしばらくその場に座り込んでいた。

体育で来て通りがかった生徒達数人にじろじろと物珍しそうに見られていたが別にどうでもよかったし、先生も早く教室戻れよと言うだけでそれ以上は面倒事に関わらない。

『めんどくさ、重。お前なんかと関わるんじゃなかったわ』

さっき元彼にそう言われた。そうだよ、あいつの言う通り関わらない方がいいんだよ。俺なんか…。

「どうした香夜、早く行くぞ」
「あ、う、うん…」

サボってる生徒なんか珍しくないだろ。さっさと行けよ…。

そうして時間だけが過ぎて、数回目のチャイムに気付いたらいつの間にか昼休みになっていた。こんな時でも腹は減るのか…と自分が嫌になりながらも、そろそろ教室に戻ろうかと顔を上げた。その時だった。

どんどんこちらに足音が近付いてくる。たぶん人数は1人。そしてその足音が止まり、壁から誰かがこちらを覗き込んだ。

「…!あ、まだいた」

1人の男子生徒が驚きながら、恐る恐るこちらに忍び寄ってくる。なんだこいつ、と警戒しながらも小動物のようで危害は無さそうだったからとりあえずそのまま様子を見た。

「…なに?」
「あ!ここ座ってるのさっき見かけて…よ、よかったらこれ!」
「え、」

俺のすぐ隣に置かれたのは、キャンディのように包まれた甘そうな香りのするチョコレートが数個。突然チョコを渡されて意味が分からず固まっていると、その男子生徒はヘラっと微笑んで早口で喋り出した。

「あ、なんか落ち込んでそうに見えたから…嫌いじゃなかったら食べてください。俺が疲れた時によく食べるやつですけど…甘いから癒されるかなって」

なんで見ず知らずのヤツが俺に…?

「香夜〜?どこ行ったー?」
「あっやば、友達置いてきたんでもう行きますね!では…」

立ち上がって歩き出したその生徒に、思わず聞いてしまった。

「あのさ、なんで話したこともない奴にこんなことするの?俺に関わるの怖くなかったの?」

すると、彼はくるっと振り返って目尻を垂らしながら微笑んだ。

「怖い…?よりも、さっき体育で見かけた時無性に気になっちゃって…。なんか放っておけなかったんです。元気無さそうだなって…あっ、ただのお節介ですけどね。あはは」
「…っ」
「あ!じゃあ、俺はこれで…!」

気まずそうだけど、嘘がないような…その時の彼の笑顔が頭から離れなかった。上辺だけを繕う都合のいい言葉じゃなくて、不器用だけど本心が伝わる言葉。

そんな言葉と笑顔を向けられたのは初めてだったかもしれない。

「…あま」

彼が去って行った後、口に放り込んだチョコレートは鼻がツンとしそうなほど甘く感じた。