そばにいたのはキミだった


「…っは、はぁ、え?」

数秒後、ゆっくり唇が離されて宵衣くんと視線が重なる。俺は口元を手で覆ってよろよろと後退りをしてしまった。顔の熱さが半端ではない。きっと、顔色も真っ赤になっているはず。

「な、なんで…」
「…ごめん、香夜くん」

宵衣くんは俺の顔を見て、我に返ったかのように切なそうな表情をして俯いた。だけどそれ以上何も言ってくれなくて、俺は空き教室を走って出ていった。

「香夜くん!」

どうして…今のは、キス?キスだよな。

クラスメイトや慧人から聞いたことはあるけど、もちろんしたことはなかった。
だってキスって、普通は好きな人とするものだって…。
なのになんで宵衣くんは俺にキスを…?

分からない。俺は顔の熱さを逃がすように、廊下を必死に走った。

だけど、ひとつ確かなことがある。

宵衣くんにキスされて、嫌だとか気持ち悪いとか、そういうことは全く思わなかったってこと。

それどころか…さっきの感触を思い出す度に苦しくて、いても立ってもいられなくなって…。とりあえず走るしかなかった。

小坂くんが言っていた言葉が頭に思い浮かんでくる。

“好きな相手に触れるのって緊張するし、怖さもあるもんだろ”

それを少しずつ頭で理解ができてきたせいか、キスされた時は腕を掴まれた時みたいに怖いと思わなかった。ただただ驚いて、現実味がなくて鼓動が早くなって仕方なかった。

「…っ俺は、やっぱり、?」

こんなの、どうやって日記の返事したらいいんだ…。