そばにいたのはキミだった



「香夜くん、今日ほんとにいいの?一緒に書かなくて…」
「あ、うん!本当に大丈夫、ありがと…」
「そっか…」

放課後になり、宵衣くんと約束していた空き教室まで向かったがやっぱり今日は一人で書くと断った。俯き気味な俺を見て、宵衣くんは少し表情を曇らせながら心配してくれているようだ。

というか、そもそもOKする前段階で交換日記をしていたし相手がどんな人か少しずつ分かってきたんだから…俺も好意的に思っていることは分かってる。だったら返事はひとつに決まってるはずなのに…。何をここまで悩んでいるんだろう。

だめだ、このまま考えてても宵衣くんに心配かけるだけだし…早めに帰ろう。

「今日はもう帰るね、ごめん!また明日…」
「あっ、ちょっと待って!」

歩き出そうとした瞬間、腕を掴まれた。引っ張られるような力強さと大きな手で手首を包まれる感覚。

ただ、それだけなのに。

驚いたのか条件反射か、俺は勢いよく宵衣くんの手を振り払ってしまった。

「っあ、ご、ごめん!」
「…ううん。俺も急に掴んでごめん」

なんで今、振り払っちゃったんだ…。手を掴まれるなんて大したことじゃないはずなのに…。絶対嫌な気持ちにさせてしまった。

「今のはびっくりしたから…!嫌だったとかじゃなくて」
「分かってるよ、大丈夫」

考えることがいっぱいで頭が混乱してる。自分の反射的な行動の理由もハッキリ分からないほど。

ただ、今少し…怖くなったのは分かった。

宵衣くんのことが怖い?いやそんな風には思う訳ないし、前よろけた時掴まれても何も思わなかったのに、なんで今の一瞬だけ怖くなったんだ…。

「これ渡したかっただけなんだ」
「…え?」

差し出されたのは、何かが入った茶色いラッピング袋。口の所が不器用にリボンで縛られている。

「今日、調理実習で作ったカップケーキ。たくさん作って1つ余っちゃったから、もらってほしいな」
「え、ありがとう…」
「それだけ。じゃあまたね」
「…っあ!」

さっき手を振り払ってしまったせいか、宵衣くんはさっさと歩いて行ってしまった。笑っていたけど、相手が誰でも手を振りほどかれるなんて傷付いたに違いない。そういう顔だった。

俺は、いつの間にか宵衣くんの笑顔の違いまで分かるようになってたのか。

「…っはぁ、もうなんで、」

受け取ったラッピング袋のリボンを引っ張ると簡単に解けた。宵衣くんがやったのかな、と思うと料理は得意だけどラッピングとかは苦手なのかなって、少し笑みが零れる。

そして口が開くと、チョコレート焼き菓子の甘い香りが漂ってきた。

「あ、これって」

カップケーキには、チョコペンで俺の好きなアニメのキャラクターがデフォルメされて描かれていた。決して綺麗とは言えない出来だけど、何が描いてあるのかは分かる。前に一緒にガチャガチャをやりに行った時にゲットしたキャラクターだ。

あの時、ずっと被りまくって当たらなくて、宵衣くんがやったらこのキャラクターが出たんだよな。不良にも絡まれたけど助けてくれて…。

そう思い出しながら、鞄についているあの時のキーホルダーを手に取り眺めた。2人でお揃いにしたやつと、宵衣くんが当ててくれた推しのキーホルダーが揺れている。

きっとこのカップケーキも、頑張ってわざわざこのキャラを描いてくれたんだろうな…。出来栄えを見るとこういうのも苦手そうなのに。

余ったって言ってたけど、たぶん俺に渡そうと思って…。

「……っまただ」

宵衣くんが俺のためにこういうことしてくれる度、

嬉しいのに苦しい。