結局、あの日の日記には無難なお礼しか書けなかった。こんな内容を宵衣くんに話す訳にもいかない。土日のうちに返事を書き終え、月曜日に学校で宵衣くんへ手渡した。
そして俺の返事に、園原さんは「不安なことがあったら、いつでも聞いてください」と書いてくれていた。その日からの日記も、いつも通りで他愛もない話や苦手な教科の話、学校での話をたくさんした。
どんどん気持ちは膨らんでいるようなのに、やっぱりハッキリしない部分がある。
これは宵衣くんに相談してもいいのだろうか…。でも、俺の気持ちのことなんて相談されても分からないよな…と思いつつ聞くことができずに、気が付けばバランタインデーから3週間が過ぎようとしていた。
「香夜くん、どうしたの?ボーッとして」
「え!?ああ、いや大丈夫!」
学校で宵衣くんと過ごす時間も多くなった。放課後に空き教室で日記を書いたり昼休みにご飯を食べたりと、もはや学校生活の一部となっている。
今日も相変わらず穴場になっている屋上で、日記をもらうついでに一緒に昼ご飯を食べていた。
基本的に宵衣くんは弁当を持参してきていつも量が多い。だけど、全部自分一人で食べることはほとんどなくて、よく俺におかずを分けてくれる。最初は申し訳ないからと遠慮していたけど、宵衣くんの作る弁当は美味しいし「いいから」と強引に分けてくれるので、以前よりありがたく頂くようになったけど…。
「はい、今日は春巻き作ったからあげる」
「え!春巻き好き…って、1本丸々!?それはさすがに悪い…」
「いいよ、ほら食べて」
「だって春巻きって弁当のメインじゃん」
さすがにメインをくれるとなると、遠慮が出てしまうな。
でもそんなこと気にせずに、宵衣くんは俺の食べ終わった空のコンビニパン袋に春巻きを置いてくれた。手で掴んで食べられるように、器用に箸で袋の中に挟んでくれている。こういうちょっとした気遣いをよく感じて、感心してしまう。箸は、最初気にして逆向きにして掴んでいたようだけど俺が気にしなくていいと言った。
だって、特に風邪とか引いてなかったら宵衣くんが食べる時に使ってた箸で掴むくらい別に…。
あれ。よく考えたら、それって他の男子でも気にしないんだろうか。例えば慧人相手だったら…?
あれ?
「香夜くんが気にするから言うけど…俺の弁当、いつも多いと思わない?」
「え、うん…。だから沢山食べるために持ってきてると思うのに、俺がメインとかもらったら…」
「違うよ、香夜くんが食べるかなと思って多く持ってきてる」
「……え!?俺のため?」
「そうだよ。俺一人じゃ多いからむしろ食べてほしい」
まさかの解答に目を丸くして宵衣くんを凝視してしまった。いつもの量が多い弁当は、俺に食べさせるためだったなんて…。
「ああ、別に家庭のことに同情してるとか気遣ってるとかじゃないからね。ただ、香夜くんが美味しいって喜んでくれるから…美味しそうにお腹いっぱい食べてる香夜くんが見たいから…ってだけ」
「…っな、」
なんだその理由…。俺が喜ぶから…なんて、そんなこと…。
「…あ、ありがとう!じゃあ、ありがたくもらおうかな!」
「うん。どうぞ」
「…ん!!うま!春巻きめっちゃ美味い!」
どうしよう、なんか本当に…恥ずかしい。顔が見れない。きっと今、宵衣くんは俺を見ながら満足そうに微笑んでいるはず。
さっきの理由を聞いてしまったから、食べてる所も見られてると思うと意識してしまってそっちを向けない。
今絶対、顔赤くなってる俺…。
「こっち見てくれないの?」
「ぐっ、げほ!べ、別に…そういう訳じゃ…」
「あれ、耳赤くなってる」
「え!?そ、そんなことは…!」
赤くなってることがバレてしまった…!?と焦って、思い切り振り返った。
そして、耳を手で隠しながら宵衣くんの方を向いた俺は、息が止まりかけてしまった。
「…っ、あ」
だって、思ったより間近に宵衣くんの顔があったから。
「……っご、ごめん!急に振り返って」
黒くて長い前髪が風に吹かれて、宵衣くんの顔がよく見えた。切れ長の端正な左目の下に、小さいホクロがあるんだって…初めて気が付いた。
宵衣くんの顔をあんなに近くで見たのは初めてで…それだけなのに、なんでこんなにドキドキしてしているんだ。
ずっと自分に理解が追いつかない。
「いや…香夜くん、大丈夫?」
「うううん!平気!あはは、なんか日差しが暑くてさ…!」
いやいや、この人がイケメンだから悪いんだ。
俺がおかしい訳じゃない、きっとこんなのどの男でもドキドキするに決まってる。
「な、なに?」
なんか、まだ視線を感じる…。
「…可愛い」
「……っへ!!?」
「あ、ごめん。深い意味はなくて…」
また可愛いって言った…!深い意味が無くてもそう何回も男友達に言わなくないか!?
「香夜くんって、垂れた目元が…笑うともっと可愛いよね」
え。それって…。
「…い、今なんて、」
「ほら、昼休み終わっちゃうし早く食べよう」
「え、あ、うん…」
そのセリフ、同じようなこと園原さんからの日記にも書いてあったよな…。
え?え?
なんで?ただの偶然?
