宵衣くんって、友達の前だとこんな感じなんだ。意外と雑に扱うというか、なんというか。仲がいいからこそだと思うけど…。
「あっ!じゃあ香夜って呼んでいいか!?」
「え、う、うん」
「ダメ」
「なぁんで宵衣がダメとか言うんだよ!いいだろ別に!」
「朝からうるさすぎ。それにいきなり呼び捨てって失礼だろ」
「んな事ねーし!その方が仲良くなるだろ!」
突っぱねてる感じあるけど、心許してそうだな。仲良くなるほどこんな感じってこと?
あれ、じゃあ俺はまだそこまで仲良くなれてないってことか…?
「はぁ、ごめんね香夜くん。コイツいつもうるさくてさ。でも危ないヤツじゃないから」
「そうそう、ちょー安全…ってうるさいは余計だ!」
「あ、うん。全然大丈夫!俺も他のクラスに知り合いあんまりいないから嬉しいし」
「ほら見ろー!香夜って良い奴!よろしくな!」
「おい、肩組むな」
「なんでだよ!宵衣は保護者か!?」
なぜ俺はイケメン2人に挟まれて歩いているのだろう…。
しかも、小坂くんがぐいぐい絡んでくるおかげで宵衣くんと隙間なくピッタリくっついてしまっている。俺に肩を組んできている小坂くんの手を掴んだり叩き合ったり背後でしているからか、なんとなく宵衣くんが自分の肩を抱いているような感覚もしてしまう。
「ていうか、柊奈瀬。今日朝のHRまでに数学のノート提出しないとヤバかったんじゃないっけ?」
「…あーーー!やば!忘れてた!!」
「古賀先生、たぶんもう来てるぞ」
「マジやばい!これ忘れたら内申に響くって脅されてんだよ!先行くわ!またな、香夜!」
「あ、うん!また…」
小坂くんは手を振りながら勢いよく走っていった。嵐のような人だったな…。
「急にごめんね」
「ううん!大丈夫、面白い人だったし。宵衣くんってあんなに仲良い人いたんだね」
「友達居なさそうに見えた?」
「ああ!いやっ、そういう訳じゃなくて!」
「ふはっ、分かってるよ。アイツは1年の時に同じクラスになって話すようになってさ。最初からあんな感じで、うるさいけど変に気遣わないから楽なんだ」
「そうなんだ…」
そっか、一緒にいて楽だからあんな風だったんだ。
あれ??じゃあ、俺に対しては気遣ってるってことだよな…いやでも、知り合ったばかりなんだから仕方ないか…。
なんでそんなこと気にしてんだろ。自分は割とアッサリしてる方だと思うし、仲良い友達が自分の知らない人と仲良くしてても何も思わなかったんだけどな。
あれこれ考えて歩いていたら、いつの間にかもう学校が目の前だ。すると校門に入る手前で宵衣くんが足を止めた。
「あ、そうだ。香夜くん手出して」
「え?手…?」
言われるまま手を出すと、その上に小さい紙袋に入った何かが置かれた。
「え、これなに?」
「炊き込みご飯のおにぎり」
「……え!?それって、」
「この前、俺の弁当に入ってたのと同じやつ。昨日作ったからおにぎりにしてみたんだ、よかったら食べて。あ、握ったの素手じゃないから安心して」
えええ!?俺におにぎりを握って…!?
「い、いやいや!素手とか全然気にしないけど…わざわざ作ってきてくれたってこと!?」
「昨日の夜がたまたま炊き込みご飯だったどけだよ。香夜くん、俺の弁当のおかず美味しそうに食べてくれてたから…つい握ってきちゃった。ご飯適当になりがちって言ってたし」
中を見てみるとアルミホイルに包まれたおにぎりが2つ入っている。食べやすそうな大きさで少し温かい。
「ええ…ありがとう!めちゃくちゃ嬉しい!」
「ほんと?よかった…」
お礼を言うと、なんでか宵衣くんはホッと胸を撫で下ろしたように見えた。なんで俺のためにこんなことしてくれるんだろう。
ただの親切心?にしては、男友達にすることじゃないような…。
もしかして、昼休みの時に家庭事情のことを話してしまったから気にかけてくれてるのかな。
「あの、嬉しいけど…気遣わなくてもいいからね」
「え?なにが?」
「いや、俺が親のこと話したから気遣わせてるのかなって…」
「ああ、そんなことないよ」
「…え?」
「ただ、香夜くんがお腹空かせてるかなと思って。食べてほしいなって思ったから作ってきたんだよ。ただそれだけ」
そう言って、宵衣くんは「じゃあ先行くね」と下駄箱の方へ早歩きで向かって行った。
ただ食べてほしいと思ったって…。それだけでおにぎり握ってきてくれるもんなの?
彼女からおにぎりやお弁当を作ってもらうっていうのは聞いた事あるし、憧れてたけど…。まさか男友達に初めて手作りおにぎりを貰うとは思ってなかった。
だけど、なんでだろう。
誰かが自分のために何かを作ってきてくれるって、こんなに嬉しいんだ。あの宵衣くんが、朝からおにぎりを握ってる所を想像したらギャップを感じて、なんだか可愛くて…思わず笑みが溢れ出た。
相手が誰でもこんなに嬉しいものかな…?
こういうこと自体初めてで、よく分からないな。
