孤高の2人が手を繋ぐとき

 放課後になった瞬間、大道寺は教室から飛び出した。のんびりしていると、どこからともなく現れる女子生徒達に取り囲まれるからだ。いつもその様子を眺めていた大道寺は、そのことをよく理解していた。だからこその、チャイムと同時のダッシュだ。

 駐輪場に到着し待つこと5分。ようやく小金井が姿を見せた。
「いやあ、ゆっくりできるって素晴らしいな!!」
 のんびり歩いてきた小金井は満面の笑みを見せる。
「どうでもいいから、早く自転車のキーを出してくれ」
「はいよ」
 キーを手渡された大道寺は慣れた手つきで開錠し、素早く自転車に跨った。
 いつもは爪先立ちしていたのに、なぜか余裕で足の裏が地面に着いている。大道寺は身長が169センチであるが、小金井は178センチだ。その現実に打ちひしがれながらも、大道寺は小金井に荷台に乗るように促した。大道寺の自転車は条例で認められている条件に見合った設計である。従って、突っ込むところではない。

 大道寺が乗る自転車は身体が違っていても、昨日の小金井とは違ってスイスイと進んで行く。小金井は後ろに乗っているだけであるため、顔で風を切りながら涼しい顔をしている。

「ちゃんと持ってなよ。急ブレーキをかける可能性もあるんだからさ。その時はボクの背中にぶつかった反動で後頭部から落ちるよ。その身体、ボクのなんだから大事に扱ってくれないと困るんだよね」
「オッケー」
 大道寺の外見に似合わない軽い口調で答え、空いている左手で自転車の車体を掴み、右手を運転している小金井の腰に回す。
「自分の身体にしがみ付くとか、何か変な気持ちだな」
 小金井が漏らすと、ペダルを踏んでいる大道寺が答えた。
「ボクもだよ。自分にしがみ付かれるとか、何とも表現し難い体験だよ」
 2人は苦笑いしながらも、そのままの状態で大道寺へと向かった。

 小金井が45分以上かかった道程を、大道寺は30分で到着した。道に慣れていたこともあるが、小金井の身体能力が高かったことも理由の1つだろう。その証拠に、小金井が悔しそうな表情をしている。


 自転車を押す小金井と大道寺が境内を横断していると、社務所から出て来た住職とバッタリと出会った。一瞬、大道寺は入れ替わりがバレるかとも思ったが、祖父は全く気付くこともなく住職の顔で笑顔を向ける。
「春斗の友達ですか?何も無いけど、ゆっくりして下さい。 では、私はお勤めがありますので」
 複雑な心境で祖父の背中を見送ると、大道寺は小金井の前を歩き始めた。そして、勝手知ったる自宅に足を踏み入れると、ヅカヅカと自室へと向かう。用事があるのは自分の部屋なのだ。一日振りに帰宅した大道寺は、ひとまず勉強机の参考書を数冊カバンに入れて畳に腰を下ろした。

「ひとまず、聞こえるだけのボクの方は、ノイズキャンセラーである程度はどうにかなると思うんだ。愛してる(・・・・)は聞こえるけど」
 それを聞き、小金井の表情が曇る。大道寺には、その気持ちがイヤというほど理解できた。
「だけど、今のボクが見えているという現状はどうにもならないよね?」
「無理だな」
 あっさりと肯定する小金井を睨みながらも、大道寺は話しを続ける。
「そこで、魔除けの御札を作る。魔除けというか、実際には霊除けなんだけどね。御札を作って部屋の四隅に貼っておくと、低級霊は入って来ることができなくなるんだ。間違いなく、この人(・・・)は防げないけど」
 大道寺は自分の右隣を見ながら苦笑する。リアルタイムで「殺してやる」という声が聞こえている小金井は、笑うこともできずに頷いた。

「じゃあ、小金井はあっちの座卓に向かって」
「え?」
「ボクが作っても意味がないんだよ。一応、ボクは毎日写経と読経をしているから、それなりに霊力っていうか法力みたいなものがあるんだ。それを持たない人が作っても、何の効果もないから」
「マジかあ・・・」
 小金井は項垂れながらも、自分の身体のために座卓に向かう。

「とりあえず、ボクが見本を作るから、これと同じように文字を書いて。4枚はボクが持って帰るから、10枚くらい作ってくれればいいかな」
「多くね!?」
 驚いて顔を覗き込む小金井に対し、大道寺は手本の御札を作りながら淡々と答えた。
「ああ、言ってなかったから今言うけど、祖父の、住職の手伝いで、ちょくちょく除霊に行くんだよ。その時には、絶対に御札が必要になるからね。だから、いくつかはストックがあった方がいいんだよ」
「除霊・・・」
 見えるだけの霊について慣れたと口にしたものの、小金井は霊的な存在が苦手だった。だから、面倒臭いと思いながらも女子生徒に囲まれる生活をしていたのだ。周囲に実在する人間がいれば気が紛れるから。

「除霊・・・マジかあ」
 1枚作る度にそう呟きながら、小金井は御札を作り続ける。
 最初の10枚ほどは合格しなかったため、結局20枚以上作ってようやく終了した。