女子高生の霊が、なぜ燈矢に取り憑いているのか―――――その全体像を理解した春斗が振り向くと、燈矢が空き家となった家を見詰めていた。余り好ましい場所ではないため、ひとまず別の場所に移動しようと声を掛ける。
しかし、燈矢の反応が無い。
春斗は燈矢の表情を確認した瞬間、その異変に気が付いた。焦点が定まらない視線。全身から力が抜けてフラフラしている。更に、半開きの口元からは同じ言葉が溢れ出していた。
「燈矢、燈矢!!」
春斗が燈矢の両肩を掴み、前後に身体を振る。しかし、同じ言葉を繰り返すだけで反応が鈍い。春斗は口元に耳を近付け、その言葉を聞き取った。
「オレが悪い。オレが悪い。この家の幸せを壊したのはオレだ。オレが悪い。オレが悪い。オレには生きている価値が無い。オレが悪い。オレが悪い。オレは今すぐ死んだ方が良い。オレが悪い。オレが悪い。オレが責任を取って一緒に行く。オレが悪い。オレが悪い―――――」
春斗は顔を上げると、隣に佇む女子高生を見る。
笑っていた。
いつもの微笑みとも違う。
先ほどまでの険しい表情とも違う。
同情を誘うウソ泣き。
ポロポロと涙を溢しながら笑っている。
ドス黒い笑み。
顔が暗闇に染まり始めている。
彼女に母親の声は届かなかったのか。
もう、遅かったのか。
必死に声を掛けていた春斗が、放心している燈矢の手を握る。その瞬間、ずっと燈矢の耳元で聞こえていた声が、春斗の耳にも響いた。
「オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで私は死んだ。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は仕事を失った。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は倒れた。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は死んだ。オマエのせいだ。オマエのせいだ―――――」
霊と対峙する時、例え、どんなに悲しい身の上話を聞かされたとしても、絶対に同情してはいけない。例え、目の前でどんなに哀しい表情で泣かれたとしても、絶対に信じてはいけない。生者に悪意も持って憑いている霊に、善意など存在しない。だから、霊の言動を気にしてはいけないのだ。
だから、春斗は除霊の時には容赦しない。話しは聞かない。善悪は判断しない。祓うのみだ。しかし、一般人は違う。経験の無い者は強い霊には飲み込まれてしまう。実際に、燈矢は完全に飲まれている。放置しておくと、1日もしないうちにビルから飛び降りてしまうかも知れない。霊は目的を果たすことができる。
しかし、ターゲットは春斗の身体に入っている燈矢ではない。
残念ながら、燈矢として立っている春斗なのだ。
春斗は燈矢のカバンから数枚の御札を取り出す。このレベルの霊を御札では祓うことができない。それならば、そこまで弱体化させれば良い。春斗は燈矢の手を握り締めたまま、霊に向き直った。
「ボクは悪くない。なぜ、ボクに責任があると思うんだ?そもそも、飲酒運転さえしていなければ、交通事故を起こすこともなかったと思わないの?飲酒をせずに仕事をしていれば、僕をはね飛ばすこともなかったし、会社を解雇されることもなかったはずだ。せめて、最初から本当のことを証言していれば、罪が重くなることもなかっただろう。どうなんだ?」
春斗の問いに、霊の言葉が止まる。
「キミだってそうだ。被害者面しているけど、刃物を持ってボクの母親を襲ったよね。もし、本当に心臓に刺さっていたら死んでいたかも知れない。異常だよキミは。キミが周囲から責められたのは自業自得だ。ボクは全く同情しない。今からでも、気が済むまでキミを責め続けたいよ。だって、ボクは母親を刺されそうになったんだよ。当然の権利だよね?」
春斗の苛烈な言葉の数々によって、放心していた燈矢の意識が覚醒してくる。
そんな燈矢に対し、春斗は霊を対峙する場合の基本的な知識を植え付けていく。
そして、春斗自身の思いを伝える。
「霊に対しては、どんな場合でも絶対に同情してはいけない。
どんな状態であっても、絶対に信じてはいけない。
そして、一番大事なこと・・・燈矢は悪くない。
祝福されたし、今もずっと思われている。
だから、もう自分を赦してあげて欲しい。
世界中が燈矢を責めたとしても、ボクはキミを信じるよ。
この世の全てが燈矢の敵ではないんだ」
燈矢が顔を上げて春斗を見る。
「オレは、オレはずっと母親に捨てられたとばかり思って・・・」
「うん、違ったよね」
春斗の言葉に、燈矢が握り締められている手を自分の顔に宛てて蹲った。
陽斗は女子高生に向き直ると、決着の時が訪れたことを告げる。
「もう、終わりにしようね」
次の瞬間、女子高生の背後から1人の男性が現れる。
そして、その男性は背後から女子高生の霊を抱き締めた。
春斗は母親が話しをしている途中から、ずっと父親の気配を感じていた。しかし、我を失っている状態では何の意味も無いため、敢えて気が付いていないふりをしていたのだ。今の彼女は、母親から事実を聞かされ、春斗には諭された上で拒絶された。この状態であれば、もしかすると父親の存在で祓うことが可能かも知れないと思ったのだ。それが一番、苦しまずに逝ける方法でもある。
春斗の願いの通り、女子高生は父親の腕の中で泣いた。
身体を包み始めていた闇は消え去り、無防備な後姿を見せている。
家族に対する深い愛情が、逆に仇になって周囲に牙を剥いた。やはり、それは非難されるべきことであり、罪は罰せられるべきだ。それでも、いつか、誰かが赦さなければならない。
燈矢と春斗が見守る中で、女子高生と父親の霊は光の粒子になって消えていった。
2人がそっと手を合わせる。
願わくば、来世では幸せになってもらいたい―――と。
しかし、燈矢の反応が無い。
春斗は燈矢の表情を確認した瞬間、その異変に気が付いた。焦点が定まらない視線。全身から力が抜けてフラフラしている。更に、半開きの口元からは同じ言葉が溢れ出していた。
「燈矢、燈矢!!」
春斗が燈矢の両肩を掴み、前後に身体を振る。しかし、同じ言葉を繰り返すだけで反応が鈍い。春斗は口元に耳を近付け、その言葉を聞き取った。
「オレが悪い。オレが悪い。この家の幸せを壊したのはオレだ。オレが悪い。オレが悪い。オレには生きている価値が無い。オレが悪い。オレが悪い。オレは今すぐ死んだ方が良い。オレが悪い。オレが悪い。オレが責任を取って一緒に行く。オレが悪い。オレが悪い―――――」
春斗は顔を上げると、隣に佇む女子高生を見る。
笑っていた。
いつもの微笑みとも違う。
先ほどまでの険しい表情とも違う。
同情を誘うウソ泣き。
ポロポロと涙を溢しながら笑っている。
ドス黒い笑み。
顔が暗闇に染まり始めている。
彼女に母親の声は届かなかったのか。
もう、遅かったのか。
必死に声を掛けていた春斗が、放心している燈矢の手を握る。その瞬間、ずっと燈矢の耳元で聞こえていた声が、春斗の耳にも響いた。
「オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで私は死んだ。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は仕事を失った。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は倒れた。オマエのせいだ。オマエのせいだ。オマエのせいで父は死んだ。オマエのせいだ。オマエのせいだ―――――」
霊と対峙する時、例え、どんなに悲しい身の上話を聞かされたとしても、絶対に同情してはいけない。例え、目の前でどんなに哀しい表情で泣かれたとしても、絶対に信じてはいけない。生者に悪意も持って憑いている霊に、善意など存在しない。だから、霊の言動を気にしてはいけないのだ。
だから、春斗は除霊の時には容赦しない。話しは聞かない。善悪は判断しない。祓うのみだ。しかし、一般人は違う。経験の無い者は強い霊には飲み込まれてしまう。実際に、燈矢は完全に飲まれている。放置しておくと、1日もしないうちにビルから飛び降りてしまうかも知れない。霊は目的を果たすことができる。
しかし、ターゲットは春斗の身体に入っている燈矢ではない。
残念ながら、燈矢として立っている春斗なのだ。
春斗は燈矢のカバンから数枚の御札を取り出す。このレベルの霊を御札では祓うことができない。それならば、そこまで弱体化させれば良い。春斗は燈矢の手を握り締めたまま、霊に向き直った。
「ボクは悪くない。なぜ、ボクに責任があると思うんだ?そもそも、飲酒運転さえしていなければ、交通事故を起こすこともなかったと思わないの?飲酒をせずに仕事をしていれば、僕をはね飛ばすこともなかったし、会社を解雇されることもなかったはずだ。せめて、最初から本当のことを証言していれば、罪が重くなることもなかっただろう。どうなんだ?」
春斗の問いに、霊の言葉が止まる。
「キミだってそうだ。被害者面しているけど、刃物を持ってボクの母親を襲ったよね。もし、本当に心臓に刺さっていたら死んでいたかも知れない。異常だよキミは。キミが周囲から責められたのは自業自得だ。ボクは全く同情しない。今からでも、気が済むまでキミを責め続けたいよ。だって、ボクは母親を刺されそうになったんだよ。当然の権利だよね?」
春斗の苛烈な言葉の数々によって、放心していた燈矢の意識が覚醒してくる。
そんな燈矢に対し、春斗は霊を対峙する場合の基本的な知識を植え付けていく。
そして、春斗自身の思いを伝える。
「霊に対しては、どんな場合でも絶対に同情してはいけない。
どんな状態であっても、絶対に信じてはいけない。
そして、一番大事なこと・・・燈矢は悪くない。
祝福されたし、今もずっと思われている。
だから、もう自分を赦してあげて欲しい。
世界中が燈矢を責めたとしても、ボクはキミを信じるよ。
この世の全てが燈矢の敵ではないんだ」
燈矢が顔を上げて春斗を見る。
「オレは、オレはずっと母親に捨てられたとばかり思って・・・」
「うん、違ったよね」
春斗の言葉に、燈矢が握り締められている手を自分の顔に宛てて蹲った。
陽斗は女子高生に向き直ると、決着の時が訪れたことを告げる。
「もう、終わりにしようね」
次の瞬間、女子高生の背後から1人の男性が現れる。
そして、その男性は背後から女子高生の霊を抱き締めた。
春斗は母親が話しをしている途中から、ずっと父親の気配を感じていた。しかし、我を失っている状態では何の意味も無いため、敢えて気が付いていないふりをしていたのだ。今の彼女は、母親から事実を聞かされ、春斗には諭された上で拒絶された。この状態であれば、もしかすると父親の存在で祓うことが可能かも知れないと思ったのだ。それが一番、苦しまずに逝ける方法でもある。
春斗の願いの通り、女子高生は父親の腕の中で泣いた。
身体を包み始めていた闇は消え去り、無防備な後姿を見せている。
家族に対する深い愛情が、逆に仇になって周囲に牙を剥いた。やはり、それは非難されるべきことであり、罪は罰せられるべきだ。それでも、いつか、誰かが赦さなければならない。
燈矢と春斗が見守る中で、女子高生と父親の霊は光の粒子になって消えていった。
2人がそっと手を合わせる。
願わくば、来世では幸せになってもらいたい―――と。



