孤高の2人が手を繋ぐとき

 あの場所から帰る途中、春斗と燈矢は偶然に出会った集落の人に洞窟のことを伝えた。老齢の男性は訝しげな表情をしていたが、信じても信じなくても集落の罪が消えることはない。願わくば、集落に住む人達が自分達の責任として対処してくれることを願うばかりだ。そう思いながら、2人はその集落を後にした。

「これで、コノ(・・)人をどうにかすれば、当面の問題は解決するんだけどね」
 山間部と市街地との中間付近にあった食事処に立ち寄った2人は、うどんを啜りながら今後のことについて話し合う。市街地に入ってファミリーレストランに、ということも考えたが万一学校関係者に見付かると面倒なことになるため避けることにしたのだ。
「だな。でも、全く心当たりが無いんだよな」
「だろうね。 コノ人には御札が効かない。それは、御札の結界を作っているはずなのに、部屋の中に普通に入ってくることでも分かる。だから、かなり強力な怨霊だということになるんだよ。当たり前に考えると、殺したいほど怨まれていることに気付いていないはずがない。でも・・・」
「見たことも無い人だな」
 肉うどんの麺を食べ終えた燈矢が、一気に汁を飲み干した。
 春斗も食べかけの月見うどんに箸を付け、残りの麺を啜り込む。そして、すぐ隣で笑みを浮けべている女性を見上げた。

 女性の年齢は、2人の同年代に見える。というか、服装を考えると高校生ではないかと思われる。
 春斗も、燈矢と同様に見たことはないものの、どこかの学校の制服ではないかと考えている。ただ、見たことがないということは、この地域の学校ではない可能性が高い。しかし、そうなれば燈矢との関係性が更に遠くなっていく。

「コノ人の素性を調べたら、燈矢との繋がりが分かると思う。それが分かれば、祓う方法が分かるかも知れない」
 遅れて食べ終えた春斗が、どんぶりをテーブルに置いてコップに冷水を注ぐ。
「まあ、それしかないよな。じゃあ、春斗が制服のイラストを紙に書いて、集ってくる女子生徒に聞いてみるしかないな」
 春斗の手から冷水が入ったポットを奪った燈矢が、自分のコップに冷水を追加しながら口を開いた。
「え?」
「分かってると思うが、今の春斗がオレなんだからな」


 自分が全てやらなければならない事に気付き、納得できない表情を浮かべて春斗がアクセルを回す。しかし、確かに見えるのは今の春斗ではあるし、女子生徒が群がってくるのも今の春斗なのである。
「まあまあ、何かする時にはオレが率先してやるから、そんな顔するなよ」
 後部座席の燈矢が、背中越しに春斗に声を掛ける。
「それ、当然のことだよね?」
 そう答えた春斗が、月花高校の看板を目にしてヘルメットを深く被る。時刻は午後2時。制服を着ていないとはいえ、燈矢の外見は目立つため顔は隠した方がいいだろう。

 ヘルメットを被り直した春斗が前方に、あの日目にした和装の女性が立っていることに気が付いた。見慣れない着物姿であるため、記憶に残っていたのだ。常に着物を着ているということは、そういう関係の仕事に携わっているのだろうか。
「ほら、燈矢。着物の人なんて珍しいよね。祖父も着ているけど、あんなに丁寧に着ることはないんだ。しかも、着こなしを見ても慣れていることが分かる。品があって良いよね、着物って」
「どこだ?」
「ほら、あの店の前だよ」
 春斗の声に反応した燈矢が、一目見ようと身を乗り出した。しかし、場所がよく分からなかったのか、見付けられないまま通り過ぎてしまった。
「まあ、いいわ。久し振りに心愛に会えるし。そっちの方が大事だ」
「それには激しく同意する」
「いや、心愛はオレの(・・・)妹だぞ」
 背中に軽いパンチを受けながらも、春斗は華麗に燈矢の主張を聞き流した。


 2人が幼稚園に到着したのは、まだ15時にもなっていない時間帯だった。お迎えは通常、16時30分から18時の間である。余りにも早く来てしまったために春斗は申し訳ない気持ちでいっぱいだったものの、幼稚園側からすれば何時でも問題がないらしく、笑顔で心愛を呼びに行ってくれた。
 先生が移動していく方向に視線を送ると、いつものようにすべり台の上で外に向かって「やっほー」と叫んでいた。その仕草が愛嬌があって可愛らしい。どうせ「やっほー」をするのであれば、今度山にハイキングにでも連れて行こうか、などと2人が同時に考えた。
「やまびこって、街中でも聞こえるんだな。何に反響してるんだろうな。ビルか?」
 燈矢のつぶやきを拾った春斗が、口を閉じて耳を澄ます。しかし、当然ながら何も聞こえなかった。

「お兄ちゃん!!」

 2人の姿を確認した心愛が、少し離れた場所から叫んだ。
 満面の笑みを浮かべ、先生の前をトコトコと走る。
 全力といっても、大人の早歩きよりも遅いくらいだ。
 その一生懸命は動作が愛くるしくて、2人は思わず笑みを浮かべる。
 息を切らして駆けて来た心愛は3メートルほど手前で立ち止まると、春斗と燈矢を交互に見上げる。そして、右手で春斗、左手で燈矢の手を握ると満面の笑みを浮かべた。