孤高の2人が手を繋ぐとき

 私立月花高校には、全校生徒から孤高と呼ばれる2人の男子生徒がいる。

 まず1人目は、高校入学以来実施された全てのテスト、全ての科目で1位を取り続けている男子生徒。全国模試でも10位以内という驚異的な順位を維持している天才、大道寺(ダイドウジ) 春斗(ハルト)。家業が苗字と同じ名前の大道寺という寺であるからなのか、短く切り揃えられた黒髪は清潔感とともに静謐さ纏っており、近寄り難いオーラを放っている。実際、彼が誰かと親しげに会話をしている場面を目にした者はいない。外見権的には黒縁メガネに平均的な身長ということもあり特筆する部分はないが、その圧倒的な存在感から「孤高の男子生徒」と呼ばれている。

 もう1人は、モデル並みの容姿と立ち振る舞いから、貴公子と称される女子生徒人気ナンバー1の男子生徒。群がる女子生徒達一人ひとりに紳士的な態度で対応するものの、特定の女性との浮いた話は皆無だ。小金井(lコガネイ) 燈矢(トウヤ)は男子生徒から敵視されているため、男子生徒が会話をすることは有り得ない。肩まである金髪を靡かせ、優雅に歩くその姿は人目を魅き付ける。その凛とした佇まいから「孤高の男子生徒」と呼ばれている。

 要は、スペックが高過ぎるため、公開ボッチになっている2人ということである。


 この「孤高の2人」と呼ばれる男子生徒が、同時に救急車で搬送される事態となったため校内は騒然となった。
 昼休憩の昼休憩のとき、学食に向かおうとしていた大道寺が階段で足を踏み外し落下。ちょうどその下にいた小金井のにぶつかる形で階下まで転がり落ちたのだ。悲鳴が上がる中、頭部から血を流す大道寺と綺麗な顔のまま気を失う小金井。一部の女子生徒は廊下で並ぶように倒れる2人を目にし、不謹慎にも「眼福」と口にしながらスマートフォンを向けていたとか。

 1人は頭部からの出血、1人は気を失っているという状況から保険医が救急車を手配し、2人は最寄の病院に運び込まれた。大道寺は頭部から出血していたものの軽傷で、軽い脳震盪と珍談された。特に問題はなく、明日からは問題なく登校できるとのことだった。小金井は気を失っていたものの特に外傷も無く、そのまま普通に生活しても問題ないと診断された。小金井にしていみれば完全に巻き込まれ損である。

 しかし、本当の問題は怪我ではない。
 どういう理屈かは分からないが、使い古されたマンガのように「魂が入れ替わってしまった」ことである。そして、2人が同じように思ったことがある。「よりにもよって、コイツ入れ替わるとは」、だ。2人とも、お互いに最も関わりたくなかった相手だったのだ。ただ、こうなってしまっては関わらない訳にはいかない。理由や理屈は関係ない。どうにかして元に戻らなければならないのだ。それには、2人とも明確な理由がある。


 小金井の中にいる大道寺は、1つだけ他人と違う能力があった。
 他人に話したことはない。どう考えても信じてもらうことができない能力だったからだ。大道寺の能力、それは「霊の声が聞こえる」というものだ。姿は見えないが、そこにいないはずの人の声が聞こえる。最初は何か分からなかったものの、自分の周囲にいる何者かが、話し掛けてくる、もしくは誰かと話しをしている、ということを理解した。大道寺の祖父は住職である。大道寺も寺に住んでいるため、手伝い等で葬儀や法事等に立ち会うこともある。その時に、聞こえてくる声の正体を知ったのだ。

 聞こえ始めて随分と経つが、未だに慣れることはない。霊に時間感覚などない。そのため、一日中周囲から話し声が聞こえてくるのだ。ノイズキャンセラー無しでは生活ができない。この迷惑な入れ替わり現象で唯一嬉しいことは、何年振りかに霊の声に悩まされないということだ。


 同様に、大道寺の中にいる小金井にも、1つだけ他人と違う能力があった。
 幼い頃、父親に話したことがあったが一笑されて終わった。それ以降、誰にも話したことはない。小金井の能力、それは『霊が見える」といものだ。超えは聞こえないが、そこにいるはずがない人を見ることができる。最初は実在する人だと思って話し掛けたこともあったが、その行動を訝しがる人や、奇異の目で見られたことにより理解した。これは、他の人には見えていないのだと。見えていることが分かると、霊が近付いてきて何かを話し掛けてくるようになった。部屋までついて来て居座られたこともあった。

 見え始めて随分と経つが、未だに慣れることはない。霊が完全な人の形をしているとは限らない。そのため、顔の半分が骸骨といったものや、血塗れの霊もいるのだ。夜中に見ると今でも驚く。この迷惑な入れ替わり現象で唯一嬉しいことは、何年振りかに霊の姿に悩まされないことが。


 こんな相手の心情など、お互いに分かるはずもない。