孤高の2人が手を繋ぐとき

 春斗が伸ばした手を燈矢が握った瞬間、バチバチッという音が響き、繋いだ手が青白く発光した。
 何が起きたのか分からず、2人は繋いだ手を見詰めて動きを止める。そして、お互いの顔を見合わせて目を見開いた。

 春斗の目には、自分の身体にしがみ付く半分崩れた霊が写り、耳からは「愛してる」の声が聞こえた。
 燈矢の目には、自分の身体の寄り添う穏やかに微笑む女性が写り、耳からは「殺してやる」の声が聞こえた。

「もしかして・・・」
 春斗が燈矢の手を放すと、その瞬間に声が聞こえなくなった。
「これ、マジ?」
 春斗が燈矢の手を放すと、その瞬間に女性が見えなくなった。

 2人は再びお互いの顔を見合わせる。
「見えるだけ、聞こえるだけのボク達が手を繋げば」
「2人とも、見えて、聞こえるって訳だな」
 燈矢の言葉を聞き、春斗がムッとした表情に変わる。
「ボクの話しを途中で盗らないでくれるかな」
「はあ? 代わりに口にしてやったんだから、礼を言われても良いと思うんだけどな」
 春斗の反応が面白くて、燈矢が故意に挑発的な言葉で言い返す。それが分からない春斗は、ますます不機嫌そうな顔になった。

 その時、玄関のチャイムが鳴り、元気な声が聞こえてきた。
「ただいまあー!!」
 その声にいち早く反応したのは、春斗ではなく燈矢だった。当たり前に考えれば、他人の燈矢が出迎えることはおかしい。しかし、なぜか心愛は2人が入れ替わっていることを認識している。燈矢に続き、春斗も急いで階段を下りて行った。

 階段の下で心愛を抱き上げた燈矢は、玄関でクツを脱いでいる母親に気が付いて表情を消した。
「燈矢君の友達の大道寺です」
 心愛を下ろすと、自分の母親に向かって冷めた挨拶をする。母親はそんな燈矢を前にしても、穏やかな笑顔で頭を下げた。
「燈矢君がいつもお世話になっています。これからも仲良くして下さいね」
 燈矢は返事をすることもなく、母親とすれ違うようにクツを履くと春斗に向き直る。
「じゃあな。夜にでも電話する」
 春斗は眉根を下げながら頷いた。
 燈矢と母親の間にどんなわだかまりがあるのか知らないが、その身体で悪態をつかれると自分の印象が悪くなるんだけど。と、内心で愚痴ったのは言うまでもない。


 その日の22時過ぎ。
 春斗が夕食や風呂そ済ませて勉強をしていると、宣言通りに燈矢から電話がかかってきた。
「もしもし。勉強のジャマなんだけど」
 第一声から無愛想な春斗の対応を、燈矢は笑いながら聞き流した。
「悪いな。どうしても話し合っておかないといけないことがあるだろ。それを決めておかないと、と思ってな」
 燈矢の話を聞き、春斗は持っていたシャープペンシルを置いた。それは、春斗自身も考えていたことだったからだ。
「それは、お互いに憑いている霊のことだよね?」
「当然、そうだ。最終的な目的は入れ替わりを解消することだが、それ平行してお互いに憑いている霊をどうにかしないとな。オレのはともかく、春斗の身体に憑いてるコイツはかなりヤバイぞ。元に戻る前に、オレが死んでしまいそうだ。いや、マジで」

 春斗も燈矢も、今日、改めて春斗の身体に憑いている霊の危険度を認識した。霊の細い指先は、とっくに春斗の身体を這っている。いつ突き刺さってもおかしくない状況だ。「愛してる」の言葉も、ノイズキャンセラーを突き破って重低音で鼓膜を震わせている。時間的な猶予を感じない。近日中に、憑き殺される可能性は高い。

「確かに。ソレはどうにかしないと、ボクの帰る身体が無くなってしまうかも知れない。ボクがどうにかするよ、と言いたいところだけど、1人だと失敗する可能性もあるし。手伝ってもらうよ?」
「おう。そもそも、このままだとオレが死ぬ訳だしな」
 それを聞いた春斗が笑う。
「運命共同体ってヤツだね」
「強制的にな」
 燈矢がため息混じりに応える。

「とりあえず、ソレをどうにかしてから、コレをどうにかする順番で」
「だな。 で、ちょっとだけ話しを聞いて欲しいんだ」
 春斗の結論に同意した後、燈矢が話しを続けた。
「オレは最初から霊が見えていた訳ではないんだ。きっかけになる事件があってな。それも、もしかしたらソレが憑いている理由なのかも知れない。だから、話したくはないが、聞いて欲しいんだよ」

 燈矢の申し出に、春斗は素直に了承した。そして、春斗も同様の話しをする。
「実は、ボクも生まれた時から霊の声が聞こえていた訳ではないんだよ。ボクも理由があってさ。キミと違うのは、ボクはほぼ100パーセントその事件が関連していると思っている。だから、ボクの方が原因を見付けることは簡単だと予想する。 ただ、祓えるかどうかは別だけど」


 燈矢が電話にすることを決めたのは、話す姿を見られたくなかったのかも知れない。
 しかし、それは春斗も同じであったため、お互いの利害が一致したと言えた。