孤高の2人が手を繋ぐとき

 入れ替わって迎える初めての週末、小金井は慣れ始めた和室で目を覚ました。
 耳栓をして就寝するようにしたため騒音は格段に小さくなったものの、やはりアノ(・・)声だけは普通に聞こえ続けている。それも、日々少しずつ大きくなっている。このままでは、この身体のまま呪い殺されるのではないかと、小金井は本気で心配している。

 着替えを済ませ充電をしていたスマートフォンを確認すると、大道寺からメッセージが届いていた。
>今日は母親の仕事が休みみたいで、朝から心愛ちゃんと動物園に行ったよ。誘われたけど断っておいた。これでいいんだよね?
 そのメッセージに短く返信する。
>それで合ってる。

 その後、何もすることがない小金井がSNSを徘徊していると、再びメッセージが届く。
>週末は、たぶん除霊の仕事があると思うから頑張ってね。
「・・・は?」
 その文字を読んだ小金井の口から、間の抜けた反応が漏れる。しかし、大道寺のメッセージが気にはなったものの、意味が分からないため放置した。

 その後、部屋を出て台所で朝食を摂っていると、不意に勝手口のドアが開いた。
「陽斗、今日の現場はここだ」
 そこから姿を現した大道寺の祖父である住職が、メモ書きを差し出す。小金井は席を立つと、近寄って紙を受け取った。
「佐々木さんからの依頼だ。知っているとは思うが一応住所はそこに書いてある。昼前には訪問することになっているから、朝食を済ませたら準備して行ってくれ。どうやら、骨董趣味のご主人が購入した巻物に何か憑いているようだ。そんなに難しいものではないと思うから頼むぞ。ワシは午前中に1件、午後からもう1件葬儀があるからもう行くぞ」
 住職は事も無げにそう言うと、入って来たドアから出て行った。
「・・・マジじゃん」
 メモ書きを手にしたままで、小金井は呆然と立ち尽くした。除霊とか、本物ではない素人である自分にできる訳がない、と絶望しながら。


>除霊に行けって言われたんだが、どうすればいいんだ?
 縋り付く相手が大道寺しかいないため、小金井は即座にメッセージを送る。そうすると、予想していたのか、すぐに大道寺からの返信があった。

>祖父ちゃんが1人で行けって言うことは、質が悪い霊ではないってことだと思うんだよね。だから、前回作った御札を持って行って、対象物に貼れば大丈夫だよ。そうしたら何か聞こえてくるはずだから、それに対処すれば完了ってところかな。

 「何か聞こえるから」とは何が?と思いながらも、大道寺と一緒に作成した御札を取り出して机上に置く。とは言え、根本的に霊が恐い小金井は、自分を威嚇してくる巻物に近付く自信さえない。
 すると、再び大道寺からメッセージが届いた。

>それで、どこに行くの?
>佐々木さんとかいう、骨董好きの人がどうとか言ってたぞ。
>そうなんだ。その佐々木さんっていうのは、門徒の総代なんだ。何かあるといろいろと大変だから、きちんと対応してね。じゃあ、よろしくね!!

 大道寺の返信を読んで愕然とする小金井。門徒の総代がお寺の門徒をまとめる重要な役職だということくらいは、小金井にも理解できた。重大ミッションを任された。そして、見知らぬ霊と対峙しなければならないという二重のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、小金井は除霊に向かう準備を続けた。


 衝撃の依頼を受けてから2時間後、午前11時に小金井はついに除霊に向かった。
 地図アプリで確認したところ、佐々木さんの家は大道寺から2キロほどしか離れていなかった。自転車で行けば3分で着いてしまう距離だ。しかし、それは余りにも心の準備をする時間が不足しているため、小金井は徒歩で向かうことにした。
 大道寺の部屋を家捜ししていると、本人が作成したであろう数枚の御札と数珠を見付けた。大道寺に確認したところ、使っても良いという返事が来たため手首にはめている。これだけで、小金井の精神は少しだけ安定した。

「ああ、着いてしまったかあ・・・」

 目の前には白壁に囲まれた黒瓦の巨大な屋敷。一見するだけで敷地は300坪以上はある。平屋の母屋は歴史が感じられる古い造りではあるが、明らかに「お金持ち」といった雰囲気を漂わせている。そして、土蔵造りの、一般的な住宅より大きいサイズの蔵が建っている。地図アプリの目的地表示と自分の位置が重なっている。この家で間違いない。

 盛大なため息とともに、小金井は項垂れる。進めば地獄。しかし、戻る道は無い。
 小金井は意を決し、古風な家には似つかわしくない近代的なインターフォンを押した。すると、インターフォンのカメラ越しにコチラを確認したのか、「陽斗君いらっしゃい」という声が聞こえてくる。思わず「おおっ」と驚いた小金井は、心臓をバクバクと鳴らしながら敷地の中に足を踏み入れた。木製の引き戸式の門をくぐると、整備された庭の先に母屋の玄関が見えた。小金井は経験したこともない除霊に、ぶっつけ本番でチャレンジする。