再び翌日の放課後、今度は小金井が大道寺について来た。
小金井は心愛のことが気になり、昨夜は眠れなかったようだ。当然、アレの声も原因ではあるだろうが。そんな状態にも関わらず、いつものクールな雰囲気をかなぐり捨て、小金井は満面の笑みでスキップまでしている。その様子を横目に、駅の改札を抜けた大道寺は首を傾げる。
昨日の話では、小金井と妹の心愛には血の繋がりはない。心愛の年齢を考えると、一緒に暮らすようになって5年程度。申し訳ないけど、所詮は義母の連れ子でしかない。その義妹に対し、ここまで感情移入するものなのだろうか。
今日も放課後ダッシュで女子生徒達を引き離した2人は、電車に乗り込んで心愛の待つ「あけぼの幼稚園」に向かった。
「こんにちは。いつもお世話になります」
幼稚園に到着すると、無関係であるはずの小金井が笑顔で挨拶をする。それを目にした先生の動きが止まったため、慌てて大道寺が間に入った。
「すいません、友達なんです!!」
大道寺の登場により安堵したのか、硬直していた先生の身体から力が抜ける。そして、小金井に訝しげな視線を向けた後、大道寺に笑顔を見せた。
「呼んできますので、ちょっと待ってくださいね」
先生は前回訪れた時と同じように、すべり台の上から「やっほー」と叫んでいる少女の元へと歩いて行った。
「ヤッホーって、あのすべり台が山の代わりなのかな」
「はあ?オマエには聞こえないのか、心愛に応える声が。ああ、イヤだ、イヤだ。勉強ばかりしていると、純粋な心が失われてしまうんだなあ」
ムッとした表情を見せる大道寺の耳に、元気な甲高い声が飛び込んできた。
「お兄ちゃん!!」
慌てて振り返ると、いち早く腰を下ろした小金井の胸に心愛が飛び込んだ。
「心愛、元気だったか?」
「うん!!」
学校では見せたこともない表情で心愛を抱き締める小金井。心愛は大道寺と手を繋いだ時とは全く違い、安心しきって身を委ねている。なぜか面白くない大道寺は、顔を背けて園庭のすべり台を眺めた。
それでも、穏やかな時間は長く続かない。
「で、なぜお兄ちゃんは、そのお兄さんの中にいるの?いつ元に戻るの?」
当然の問いに対し、2人は何も答えることができない。2人にも方法が全く分からないのだ。もしかすると階段から「せーの」で一緒に落ちれば元に戻るのかも知れない。しかし、それは命懸けになるため最後の最後に除けておきたいのだ。
「もう少しかな。そんなに長くはならないと思うけど、ちょっとだけ待っててくれるかな。その間は、お兄ちゃんの友達が、心愛のお見送りやお迎えをしてくれるからね」
心愛は「うーん」と少し考えたものの、小金井の頭を撫でながら呟いた。
「仕方ないお兄ちゃんだなあ」
それを見ていた大道寺は、小金井の態度を許した。これは仕方がない、と。
それからすぐに小金井は今の自宅へと帰って行った。余り長居をしてしまうと、離れられなくなるという判断からだった。大道寺は心愛の手を軽く握る。すると、心愛はその手を強く握り返した。驚いてその顔を覗き込むと、その小さな瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。
帰宅した大道寺は心愛を着替えさせ、リビングでお気に入りのアニメを一緒に鑑賞することにした。今日は母親が19時頃には帰宅するとのことだったため、それまでの時間潰しだ。プリ・・・魔法少女が悪者と戦う、という内容であったが大道寺は心愛以上に熱中することになる。
19時過ぎ、予定通りに心愛の母親が帰宅した。
駆け寄る心愛を眺めていると、なぜか母親の驚いた視線が大道寺に突き刺さった。意味が分からずリビングのソファーに座っていると、母親は着替えるためか部屋を出て行った。
その微妙な雰囲気から、大道寺は親子関係が上手くいっていないことを感じ取る。その原因はよく分からないものの、余所者が勝手に変更して良いものではない。大道寺は立ち上がると、2階の自室へと移動した。夕食の用意ができれば、心愛が呼びにくるはずだ。
自室に入ると制服から部屋着へと着替え、大道寺は早速勉強机に向かう。
昨日はほとんど勉強することができなかった。参考書を開かなければ気持ちが落ち着かない。勉強しなければ、自分に力を付けなければ未来は開けない。そのことを、大道寺は身に染みて理解している。だからこそ、確執がある家族がいる小金井のことが、少しだけ羨ましかった。
しばらくすると、自室の扉がゆっくりと開いて心愛が顔を覗かせた。
「お兄ちゃん、ごはんだよ」
「オッケー、一緒に行こうか」
「うん!!」
大道寺は心愛の手を取るとダイニングに向かう。
どんな顔をして母親と対峙すれば良いのか分からない。それでも、一緒にご飯を食べているということは、そこまで関係が破綻してないのだろう。そうでなければ、心愛があれほど小金井に懐くはずがない。
小金井は心愛のことが気になり、昨夜は眠れなかったようだ。当然、アレの声も原因ではあるだろうが。そんな状態にも関わらず、いつものクールな雰囲気をかなぐり捨て、小金井は満面の笑みでスキップまでしている。その様子を横目に、駅の改札を抜けた大道寺は首を傾げる。
昨日の話では、小金井と妹の心愛には血の繋がりはない。心愛の年齢を考えると、一緒に暮らすようになって5年程度。申し訳ないけど、所詮は義母の連れ子でしかない。その義妹に対し、ここまで感情移入するものなのだろうか。
今日も放課後ダッシュで女子生徒達を引き離した2人は、電車に乗り込んで心愛の待つ「あけぼの幼稚園」に向かった。
「こんにちは。いつもお世話になります」
幼稚園に到着すると、無関係であるはずの小金井が笑顔で挨拶をする。それを目にした先生の動きが止まったため、慌てて大道寺が間に入った。
「すいません、友達なんです!!」
大道寺の登場により安堵したのか、硬直していた先生の身体から力が抜ける。そして、小金井に訝しげな視線を向けた後、大道寺に笑顔を見せた。
「呼んできますので、ちょっと待ってくださいね」
先生は前回訪れた時と同じように、すべり台の上から「やっほー」と叫んでいる少女の元へと歩いて行った。
「ヤッホーって、あのすべり台が山の代わりなのかな」
「はあ?オマエには聞こえないのか、心愛に応える声が。ああ、イヤだ、イヤだ。勉強ばかりしていると、純粋な心が失われてしまうんだなあ」
ムッとした表情を見せる大道寺の耳に、元気な甲高い声が飛び込んできた。
「お兄ちゃん!!」
慌てて振り返ると、いち早く腰を下ろした小金井の胸に心愛が飛び込んだ。
「心愛、元気だったか?」
「うん!!」
学校では見せたこともない表情で心愛を抱き締める小金井。心愛は大道寺と手を繋いだ時とは全く違い、安心しきって身を委ねている。なぜか面白くない大道寺は、顔を背けて園庭のすべり台を眺めた。
それでも、穏やかな時間は長く続かない。
「で、なぜお兄ちゃんは、そのお兄さんの中にいるの?いつ元に戻るの?」
当然の問いに対し、2人は何も答えることができない。2人にも方法が全く分からないのだ。もしかすると階段から「せーの」で一緒に落ちれば元に戻るのかも知れない。しかし、それは命懸けになるため最後の最後に除けておきたいのだ。
「もう少しかな。そんなに長くはならないと思うけど、ちょっとだけ待っててくれるかな。その間は、お兄ちゃんの友達が、心愛のお見送りやお迎えをしてくれるからね」
心愛は「うーん」と少し考えたものの、小金井の頭を撫でながら呟いた。
「仕方ないお兄ちゃんだなあ」
それを見ていた大道寺は、小金井の態度を許した。これは仕方がない、と。
それからすぐに小金井は今の自宅へと帰って行った。余り長居をしてしまうと、離れられなくなるという判断からだった。大道寺は心愛の手を軽く握る。すると、心愛はその手を強く握り返した。驚いてその顔を覗き込むと、その小さな瞳には涙がいっぱいに溜まっていた。
帰宅した大道寺は心愛を着替えさせ、リビングでお気に入りのアニメを一緒に鑑賞することにした。今日は母親が19時頃には帰宅するとのことだったため、それまでの時間潰しだ。プリ・・・魔法少女が悪者と戦う、という内容であったが大道寺は心愛以上に熱中することになる。
19時過ぎ、予定通りに心愛の母親が帰宅した。
駆け寄る心愛を眺めていると、なぜか母親の驚いた視線が大道寺に突き刺さった。意味が分からずリビングのソファーに座っていると、母親は着替えるためか部屋を出て行った。
その微妙な雰囲気から、大道寺は親子関係が上手くいっていないことを感じ取る。その原因はよく分からないものの、余所者が勝手に変更して良いものではない。大道寺は立ち上がると、2階の自室へと移動した。夕食の用意ができれば、心愛が呼びにくるはずだ。
自室に入ると制服から部屋着へと着替え、大道寺は早速勉強机に向かう。
昨日はほとんど勉強することができなかった。参考書を開かなければ気持ちが落ち着かない。勉強しなければ、自分に力を付けなければ未来は開けない。そのことを、大道寺は身に染みて理解している。だからこそ、確執がある家族がいる小金井のことが、少しだけ羨ましかった。
しばらくすると、自室の扉がゆっくりと開いて心愛が顔を覗かせた。
「お兄ちゃん、ごはんだよ」
「オッケー、一緒に行こうか」
「うん!!」
大道寺は心愛の手を取るとダイニングに向かう。
どんな顔をして母親と対峙すれば良いのか分からない。それでも、一緒にご飯を食べているということは、そこまで関係が破綻してないのだろう。そうでなければ、心愛があれほど小金井に懐くはずがない。



