>ボクがキミということは、キミがボクなんだろうね?
そんな意味不明なメッセージが、2年2組のクラスチャットのメンバーから送られてきた。
ベッドの上で上半身を起こして周囲を確認する。少しずつ記憶が蘇ると同時に、頭部に痛みを感じた。
「イテテ・・・」
恐る恐る頭に手を当てると、包帯が巻いてあることに気が付いた。
この時になって、ようやく記憶が鮮明になってきた。階段の上から人が落ちてきて、それに巻き込まれて一番下まで転がり落ちて―――ああ、そこで意識が途絶えている。
もう一度、送られてきたメッセージを確認する。するとそれは、一番関わりたくないクラスメートからのものだった。
不意に部屋の扉が開き、そこから病院の看護師らしき女性が入ってきた。
「目が覚めたんですね」
「はあ・・・」
「ああ、ここは中央病院の診察室ですよ。もう診療時間は終わっているので、ここに寝かせておいたんです。傷の処置は終わっていますし、特に異常はなかったので大丈夫そうでしたら帰ってもいいですよ。大道寺さん」
「はい・・・・・え?」
自分の名前を呼ばれたはずなのに、大道寺はベッドから降りようとして固まった。そして、看護師の言葉を否定した。
「大道寺ではなく、小金井ですけど?」
すると、今度は看護師が首を傾げた。そして、手元の書類を確認して作り笑顔を浮かべる。
「その様子なら大丈夫ですね。あちらの扉からどうぞ」
小金井は意味が意味が分からず、時刻を確認しようと手元のスマートフォンに視線を落とした。
「は?」
いつの間にか機種が変わっていることに気が付いて驚く。いや、それ以上に画面に微かに写る自分の顔に目を見開いた。少し遅れて、先程のメッセージを思い出す。
>ボクがキミということは、キミがボクなんだろうね?
すると、目の前でスマートフォンから通知音が聞こえてきた。
>キミの自宅がある住所を教えてくれないかな? ひとまず、今すぐはどうにもできないから、今日は一旦それぞれの自宅に帰ろう。話し合いは基本的にはメッセージで。ボクはキミに関わりたくないから。ボクの自宅の住所は地図付きで送るから。
スマホは明日、学校で交換しようね。さすがに他人のものは使えないから。
小金井はマンガのような展開に頭が真っ白になったものの、とりあえず受け止める。思考停止させて受け入れる。考えても分からないことは、考えても仕方ないことだ。そう自分に言い聞かせる。そうしなければ、事態を把握できないことだけは理解できたからだ。
ベッドから立ち上がり、自分の私物を確認するとスマートフォンを始め、クツもカバンも、制服の着こなしも違う。そもそも、身長が違うからなのか視点が低い。いつものクセで髪をかき上げようとするが空振りする。
その時、手元のスマートフォンから再び通知音が鳴った。
確認すると、大道寺の自宅の住所が地図付きで送られていた。
小金井が目を覚ます少し前、大道寺は小金井と同様に病院の一室で気が付いた。診察室ではなく処置室のベッドに寝かされていたようだ。
目を覚ましてすぐに、大道寺は先程の出来事を思い出した。学校の階段を降りているときに、足を踏み外して落ちたのだ。それだけなら自分が怪我をして済んだだけだったのであるが、階下にいた生徒を直撃してしまった―――そうだ、あの生徒は大丈夫だったのだろうか。
そう思うと、いてもたってもいられなくなり身体を起こした。周囲を見渡して、この場所が病院であることを理解する。
ひとまず、病院の関係者に声を掛けて、と思った瞬間に思考が停止した。
明らかに、自分の手ではない。
明らかに、自分の足ではない。
胸ポケットに入れていたはずのスマートフォンが枕元に置いてあったため手を伸ばすが、機種が自分が使用しているものとは違う。
手に取って真っ黒い画面を覗き込むと、そこにはクラスメートである小金井の顔を写っていた。
理解できる状態ではない。ンガでもあるまいし、魂が入れ替わるなんて事が起きるはずがない。しかし、どう考えても、これはそういう状態だ。状況が全く飲み込めない。
10分以上大道寺はそのまま考えていたが、答えが出る問題ではない。
確かに、魂は存在しているとは思う。家業がそういう類なのだから、輪廻転生は信じているし、地獄も極楽もどこなに在るとは思う。それなら、身体はただの器でしかない。そうなると、入れ替わりも有り得るのか?・・・大道寺は面倒臭くなって、思考を放棄した。とりあえず、受け止めるしかないのだ。
記憶を辿ると、巻き込んだのは小金井だけだ。であるならば、入れ替わった相手は、よりにもよって一番関わりたくない小金井ということになる。
大道寺は深いため息を吐き、連絡先を知らない小金井に、クラスチャットのメンバー欄からメッセージを送信した。
>ボクがキミということは、キミがボクなんだろうね?
どういう理屈で入れ替わったのかは分からないが、元に戻る方法を見付けなければならない。その方法がもう1度2人で階段で落ちればいいのか、それとも、時間の経過とともに自然と解消するのか。
ある理由から、2人とも早く元に戻りたかった。



