新緑が鮮やかに揺れる五月。
俺は一人、重い気持ちでいた。
今日は待ちに待った遠足。
……なのに、俺は母さんに弁当をお願いするのを忘れていたのだ。
朝になってそのことに気づき、でも今更言っても怒られるだけだと、泣く泣く自分のお小遣いで、コンビニのパンを買った。今日はそれが弁当代わりだ。
お昼になって、広い草原でみんなが弁当を見せ合いっこしている中、俺はパンの入ったビニール袋を片手に「いーなー」と羨ましく眺めていた。
その時、少し離れた場所で、数人の男子が、クラスでも小柄な男子一人を取り囲んでいるのが見えた。
「なに、その弁当!」
「しょぼ!」
「全然美味しそうじゃねー!」
昔から、こういういじめが大嫌いだった。俺の足は、迷わずいじめっ子の元へ向かっていた。
「おい! 何やってんだよ」
一対三なんてせこすぎる。男ならタイマンだろ。
「なんだよ、転校生!」
「お前には関係ねーよ!」
転校してもう2ヶ月は経つっつーのに、人の名前も覚えらんねーのかよ。まぁ俺も、お前らの名前覚えてないけど。
「こいつの弁当があまりにしょぼいから教えてやってんの! ほら!」
一人の、背の高い吊り目のいじめっ子が、小柄男子の弁当箱を、俺の前に差し出した。
そこには、歪な形のおにぎりが二個と、焼いただけのウィンナーが三本、そして卵焼きが詰められていた。
「…………」
「ほら、転校生も思わず黙っちゃったぜ」
ニヤニヤするいじめっこたちをよそに、俺は小柄男子に目を向けた。
「……すげぇ」
「え?」
「これ、お前が作ったのか? すっげぇな!」
言われた相手は目を丸くして固まっていた。
「俺なんて、弁当あるの親に言い忘れてよー。仕方なくパン買ったのに。お前、自分で作ったんだ? この中の誰よりも偉いじゃんか」
っていうか、弁当を自分で作るなんて考えたことなかった。だって俺たちまだ小三だぜ? 火とか危なくね?
俺はいじめっこたちに、向き直った。
「あのさ、お前らダサいぞ! お前らは、自分で卵焼き焼いたことあんのかよ? ちなみに俺は無い!」
俺のあまりに堂々とした態度に気押されたいじめっ子たちは、
「なんでこいつ、こんな偉そうなわけ」
「……もう行こーぜ」
と言いながら、すぐにどこかへ去っていった。
「……ありがと」
小さな声で囁かれ、俺は小柄男子に目を向けた。
「え? 何が? ってか、一緒に飯食っていい?」
そろそろ俺もお腹が空いた。いじめっ子たちと話した分、もっと空いた。
「うん!」
目一杯の笑顔に嬉しくなって、俺はそいつの隣にシートを並べた。
こいつの名前、なんだったっけ? 確か――
「あの……俺、秋定。秋定 慧っていうんだ」
「そうだ、秋定! 明石と仲良いやつだよな」
「まぁ仲良いっていうか、明石と秋定で、いつも出席番号前後だから」
「そうなんだ。あ、俺の名前は――」
「知ってる。綿谷 夏生くんでしょ」
名前を覚えてもらえて嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
「俺のことは、夏生って呼んでよ!」
「あ、じゃぁ、俺のことは、アッキーって呼んで。晴路とか、みんなもそう呼んでるから……」
「おっけ! アッキーな! それにしても、アッキーすげぇな! 自分で弁当作るなんて」
パンの袋を開けながらそう口にすると、アッキーは少し目を伏せた。
「俺んち、母さんが看護師で、夜勤あって。今日ちょうど夜勤明けだったから、弁当作ってって、言えなくて……」
「……お前、すごいやつの上に、いいやつなのかよ!」
勝手に自分と同じかと思っていたが、全く違う。俺のはドジ。アッキーのは、優しさだ。全然違う。
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあるって! そもそも、俺、卵焼きなんて作ったこともねーよ」
「……一つ食べる? 卵焼き」
「いいの?」
そう訊ねると、アッキーはコクリと頷いた。
「じゃあ、ちょうだい。アーン」
「え、ええ? ア……アーンして良い……の?」
アッキーはなぜか目を見開いていた。俺は口を開けたまま、こくりと頷く。
「じ、じゃあ……アーン」
アッキーが卵焼きを箸で掴み、俺の口に放った。
一口食べて、驚いた。
「へぇ、これしょっぱいんだ!」
卵焼きといえば、甘いのが一般的かと思っていたけど、これはなんというか、塩味だ。
「え? 嘘?」
アッキーは目を丸くすると、卵焼きを一口食べて顔を歪めた。
「あ、ごめん……。これ砂糖と塩を間違えて入れちゃったみたい……。しょっぱい卵焼きなんて美味しくないよね」
「ううん、うまいよ!俺、甘い卵焼き苦手だからちょうどよかった!」
だって、本当に美味しかったのだ。
「俺、アッキーの作る卵焼き好き!」
「ほんと? ……じゃぁ、あのさ、次の遠足では、俺が夏生の分まで、お、お弁当作るよ! あ、……こんな弁当でよかったらだけど」
「まじ? ありがとう! 嬉しい! 約束だな!」
俺が笑うと、アッキーは本当に嬉しそうに笑った。
……アッキーって男なのに、すごい可愛く笑うな。
そんなことを思っていると、アッキーが顔を赤らめてポツリ、ポツリと話し始めた。
「俺、ずっと夏生と話してみたかったんだ。あの、名前に季節が入ってるから、一緒だって思ってて……」
「ほんとだ。じゃぁ、俺とアッキーは季節同盟だな」
「……季節同盟?」
「うん。他に誰かいるなら入れようぜ! あ、明石は? あいつ確か名前ハルミチだよな?」
冬もいれば全員揃うんだけど。
「だ、だめだよ!」
「……え?」
あまりに必死の否定に、思わず固まる。
「あ、だって、ハルミチの〝ハル〟は、天気の晴れだから……。だから、季節同盟は俺ら二人だけ……じゃだめかな?」
「確かに。それなら、二人だけの、秘密の季節同盟だな!」
「……うん!」
それから、アッキーとは仲良くなった。
でも、父親の転勤が決まって、また転校することになって、俺はアッキーに何も言わずに転校した。
……言えなかったんだ。
仲が良すぎて、お別れするのが辛くて、涙を見せたくなくて。
だって、どれだけ悲しいお別れをしても、どうせいつか忘れられてしまう。きっとそうだ。これまでもそうだった。
手紙を書くって言っても、いつしか徐々に減っていくんだ。
だから俺は、なにも言わずに、転校した。
そして、もう友達を作ることをやめて、これまでの楽しい過去さえ、もう二度と思い出さないように記憶に蓋をした。
「思い出した……?」
宮成の声がして、俺は、ハッと我に返った。
「……思い出した。お前、アッキー? え、でも、宮成だよな?」
小柄だった身長も、あの頃の可愛らしい雰囲気も、もうほとんど残っていない。それでも、あの卵焼きは、アッキーの卵焼きだった。
「……実は、親が離婚したんだ。だから今は母親の旧姓で宮成。だからもう、季節同盟じゃなくなっちゃった」
宮成は眉毛を下げて笑った。
季節同盟は二人だけの秘密。それを知っているということは本当に目の前の人物はアッキーらしい。
「じゃ、じゃぁもしかして、お前が俺に弁当毎日作って、食わせたがったのって……」
「約束したから。また作るって、約束したから」
まっすぐに俺を見る宮成の瞳が、僅かに揺れた。
その言葉に、涙が溢れてしまいそうで、俺は我慢する代わりに声を出した。
「ってか、じゃぁもっと早くに同じ小学校だって言えよ! だったら俺も――」
「言えなかった」
宮成は、僅かに目を伏せた。
「だって、綿谷は俺になにも言わずに転校しただろ? 俺、すごくショックだったんだ。 自分は綿谷にとってそんなものだったんだって。でも、途中で思ったんだ。もしかしたら、綿谷は、俺のことが嫌だったんじゃないかって。本当は俺が嫌だったから、転校することを言わなかったのかもって。……俺にとってはいい思い出だったけど、綿谷にとっては苦しい思い出だったのかもと思うと……思い出させてはいけない気がして、言えなかった」
自分が傷つかないためにとった行動で、誰かが傷ついていたなんて。小学生の頃の俺は、あまりにもガキで、あまりにも想像力が足りていなかった。
今なら、わかる。アッキーなら、きっとその後も友達でいられた。
「俺、あれから誰かのことを好きになったこと、無いんだ」
宮成は、昔を思い出すように、遠くを見た。
「あ、別にずっと綿谷のことを想っていたわけじゃないよ? でも、誰かに告白されるたびに、思い出してた。小学生の頃の綿谷を」
渇いた笑い声が、美術室に響く。
俺はただ、何も言えず、宮成を見ていた。
「……それで、思い出しては、もう一回綿谷に会いたいって思ってた」
宮成の潤んだ瞳から、一筋の雫がこぼれ落ちた。
そんな綺麗な涙は初めてで、俺は目が離せなかった。
「だから、久しぶりに会えた時、すぐに気づいたし、すぐに好きだって思ったよ。……あの、改めて言わせてほしい」
宮成は、俺に向かい合って、大きく息を吸った。
「ちょ、ちょっと待って!」
その言葉が続く前に、俺は、宮成の口を手で塞いだ。男として、俺が先に言いたい。
「お、俺に、……言わせて」
宮成は小さく笑うと、確かに頷いた。
告白なんて初めてで、心臓がすごい速さで脈をうつ。どこまでが心臓なのかわからないほどだ。
それでも、俺はもう逃げない。だって、宮成がそばにいるから。
「……俺、宮成が好きだ。つ、付き合って、ください」
「よろこんで」
宮成はそう言って――俺のおでこにキスをした。
「……っな!」
デコを抑え、顔を真っ赤に染める俺に、宮成は少年のような可愛い笑顔で笑った。それはあの頃のアッキーと同じ笑顔だった。
俺は一人、重い気持ちでいた。
今日は待ちに待った遠足。
……なのに、俺は母さんに弁当をお願いするのを忘れていたのだ。
朝になってそのことに気づき、でも今更言っても怒られるだけだと、泣く泣く自分のお小遣いで、コンビニのパンを買った。今日はそれが弁当代わりだ。
お昼になって、広い草原でみんなが弁当を見せ合いっこしている中、俺はパンの入ったビニール袋を片手に「いーなー」と羨ましく眺めていた。
その時、少し離れた場所で、数人の男子が、クラスでも小柄な男子一人を取り囲んでいるのが見えた。
「なに、その弁当!」
「しょぼ!」
「全然美味しそうじゃねー!」
昔から、こういういじめが大嫌いだった。俺の足は、迷わずいじめっ子の元へ向かっていた。
「おい! 何やってんだよ」
一対三なんてせこすぎる。男ならタイマンだろ。
「なんだよ、転校生!」
「お前には関係ねーよ!」
転校してもう2ヶ月は経つっつーのに、人の名前も覚えらんねーのかよ。まぁ俺も、お前らの名前覚えてないけど。
「こいつの弁当があまりにしょぼいから教えてやってんの! ほら!」
一人の、背の高い吊り目のいじめっ子が、小柄男子の弁当箱を、俺の前に差し出した。
そこには、歪な形のおにぎりが二個と、焼いただけのウィンナーが三本、そして卵焼きが詰められていた。
「…………」
「ほら、転校生も思わず黙っちゃったぜ」
ニヤニヤするいじめっこたちをよそに、俺は小柄男子に目を向けた。
「……すげぇ」
「え?」
「これ、お前が作ったのか? すっげぇな!」
言われた相手は目を丸くして固まっていた。
「俺なんて、弁当あるの親に言い忘れてよー。仕方なくパン買ったのに。お前、自分で作ったんだ? この中の誰よりも偉いじゃんか」
っていうか、弁当を自分で作るなんて考えたことなかった。だって俺たちまだ小三だぜ? 火とか危なくね?
俺はいじめっこたちに、向き直った。
「あのさ、お前らダサいぞ! お前らは、自分で卵焼き焼いたことあんのかよ? ちなみに俺は無い!」
俺のあまりに堂々とした態度に気押されたいじめっ子たちは、
「なんでこいつ、こんな偉そうなわけ」
「……もう行こーぜ」
と言いながら、すぐにどこかへ去っていった。
「……ありがと」
小さな声で囁かれ、俺は小柄男子に目を向けた。
「え? 何が? ってか、一緒に飯食っていい?」
そろそろ俺もお腹が空いた。いじめっ子たちと話した分、もっと空いた。
「うん!」
目一杯の笑顔に嬉しくなって、俺はそいつの隣にシートを並べた。
こいつの名前、なんだったっけ? 確か――
「あの……俺、秋定。秋定 慧っていうんだ」
「そうだ、秋定! 明石と仲良いやつだよな」
「まぁ仲良いっていうか、明石と秋定で、いつも出席番号前後だから」
「そうなんだ。あ、俺の名前は――」
「知ってる。綿谷 夏生くんでしょ」
名前を覚えてもらえて嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
「俺のことは、夏生って呼んでよ!」
「あ、じゃぁ、俺のことは、アッキーって呼んで。晴路とか、みんなもそう呼んでるから……」
「おっけ! アッキーな! それにしても、アッキーすげぇな! 自分で弁当作るなんて」
パンの袋を開けながらそう口にすると、アッキーは少し目を伏せた。
「俺んち、母さんが看護師で、夜勤あって。今日ちょうど夜勤明けだったから、弁当作ってって、言えなくて……」
「……お前、すごいやつの上に、いいやつなのかよ!」
勝手に自分と同じかと思っていたが、全く違う。俺のはドジ。アッキーのは、優しさだ。全然違う。
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあるって! そもそも、俺、卵焼きなんて作ったこともねーよ」
「……一つ食べる? 卵焼き」
「いいの?」
そう訊ねると、アッキーはコクリと頷いた。
「じゃあ、ちょうだい。アーン」
「え、ええ? ア……アーンして良い……の?」
アッキーはなぜか目を見開いていた。俺は口を開けたまま、こくりと頷く。
「じ、じゃあ……アーン」
アッキーが卵焼きを箸で掴み、俺の口に放った。
一口食べて、驚いた。
「へぇ、これしょっぱいんだ!」
卵焼きといえば、甘いのが一般的かと思っていたけど、これはなんというか、塩味だ。
「え? 嘘?」
アッキーは目を丸くすると、卵焼きを一口食べて顔を歪めた。
「あ、ごめん……。これ砂糖と塩を間違えて入れちゃったみたい……。しょっぱい卵焼きなんて美味しくないよね」
「ううん、うまいよ!俺、甘い卵焼き苦手だからちょうどよかった!」
だって、本当に美味しかったのだ。
「俺、アッキーの作る卵焼き好き!」
「ほんと? ……じゃぁ、あのさ、次の遠足では、俺が夏生の分まで、お、お弁当作るよ! あ、……こんな弁当でよかったらだけど」
「まじ? ありがとう! 嬉しい! 約束だな!」
俺が笑うと、アッキーは本当に嬉しそうに笑った。
……アッキーって男なのに、すごい可愛く笑うな。
そんなことを思っていると、アッキーが顔を赤らめてポツリ、ポツリと話し始めた。
「俺、ずっと夏生と話してみたかったんだ。あの、名前に季節が入ってるから、一緒だって思ってて……」
「ほんとだ。じゃぁ、俺とアッキーは季節同盟だな」
「……季節同盟?」
「うん。他に誰かいるなら入れようぜ! あ、明石は? あいつ確か名前ハルミチだよな?」
冬もいれば全員揃うんだけど。
「だ、だめだよ!」
「……え?」
あまりに必死の否定に、思わず固まる。
「あ、だって、ハルミチの〝ハル〟は、天気の晴れだから……。だから、季節同盟は俺ら二人だけ……じゃだめかな?」
「確かに。それなら、二人だけの、秘密の季節同盟だな!」
「……うん!」
それから、アッキーとは仲良くなった。
でも、父親の転勤が決まって、また転校することになって、俺はアッキーに何も言わずに転校した。
……言えなかったんだ。
仲が良すぎて、お別れするのが辛くて、涙を見せたくなくて。
だって、どれだけ悲しいお別れをしても、どうせいつか忘れられてしまう。きっとそうだ。これまでもそうだった。
手紙を書くって言っても、いつしか徐々に減っていくんだ。
だから俺は、なにも言わずに、転校した。
そして、もう友達を作ることをやめて、これまでの楽しい過去さえ、もう二度と思い出さないように記憶に蓋をした。
「思い出した……?」
宮成の声がして、俺は、ハッと我に返った。
「……思い出した。お前、アッキー? え、でも、宮成だよな?」
小柄だった身長も、あの頃の可愛らしい雰囲気も、もうほとんど残っていない。それでも、あの卵焼きは、アッキーの卵焼きだった。
「……実は、親が離婚したんだ。だから今は母親の旧姓で宮成。だからもう、季節同盟じゃなくなっちゃった」
宮成は眉毛を下げて笑った。
季節同盟は二人だけの秘密。それを知っているということは本当に目の前の人物はアッキーらしい。
「じゃ、じゃぁもしかして、お前が俺に弁当毎日作って、食わせたがったのって……」
「約束したから。また作るって、約束したから」
まっすぐに俺を見る宮成の瞳が、僅かに揺れた。
その言葉に、涙が溢れてしまいそうで、俺は我慢する代わりに声を出した。
「ってか、じゃぁもっと早くに同じ小学校だって言えよ! だったら俺も――」
「言えなかった」
宮成は、僅かに目を伏せた。
「だって、綿谷は俺になにも言わずに転校しただろ? 俺、すごくショックだったんだ。 自分は綿谷にとってそんなものだったんだって。でも、途中で思ったんだ。もしかしたら、綿谷は、俺のことが嫌だったんじゃないかって。本当は俺が嫌だったから、転校することを言わなかったのかもって。……俺にとってはいい思い出だったけど、綿谷にとっては苦しい思い出だったのかもと思うと……思い出させてはいけない気がして、言えなかった」
自分が傷つかないためにとった行動で、誰かが傷ついていたなんて。小学生の頃の俺は、あまりにもガキで、あまりにも想像力が足りていなかった。
今なら、わかる。アッキーなら、きっとその後も友達でいられた。
「俺、あれから誰かのことを好きになったこと、無いんだ」
宮成は、昔を思い出すように、遠くを見た。
「あ、別にずっと綿谷のことを想っていたわけじゃないよ? でも、誰かに告白されるたびに、思い出してた。小学生の頃の綿谷を」
渇いた笑い声が、美術室に響く。
俺はただ、何も言えず、宮成を見ていた。
「……それで、思い出しては、もう一回綿谷に会いたいって思ってた」
宮成の潤んだ瞳から、一筋の雫がこぼれ落ちた。
そんな綺麗な涙は初めてで、俺は目が離せなかった。
「だから、久しぶりに会えた時、すぐに気づいたし、すぐに好きだって思ったよ。……あの、改めて言わせてほしい」
宮成は、俺に向かい合って、大きく息を吸った。
「ちょ、ちょっと待って!」
その言葉が続く前に、俺は、宮成の口を手で塞いだ。男として、俺が先に言いたい。
「お、俺に、……言わせて」
宮成は小さく笑うと、確かに頷いた。
告白なんて初めてで、心臓がすごい速さで脈をうつ。どこまでが心臓なのかわからないほどだ。
それでも、俺はもう逃げない。だって、宮成がそばにいるから。
「……俺、宮成が好きだ。つ、付き合って、ください」
「よろこんで」
宮成はそう言って――俺のおでこにキスをした。
「……っな!」
デコを抑え、顔を真っ赤に染める俺に、宮成は少年のような可愛い笑顔で笑った。それはあの頃のアッキーと同じ笑顔だった。
