二回戦も順調に勝ち、残すところは決勝戦だけになった。
男子は全ての球技で初戦敗退。女子もドッジボールは二回戦までいったものの、そこで敗退。
となれば、クラスの期待は男子バスケに集中する。
どうやらクラス全員で応援に来てくれるらしい。
決勝戦というだけあって、みんな力が入ってるようだ。
俺も気合いを入れる。……得点係だけど。
俺たちの対戦相手は、宮成と同じバスケ部の幸田率いる八組。
「なんで宮成ばっかりモテるんだよ……。俺だって、ここで優勝して、モテてやるんだからな!」
「俺はむしろモテたくない」
無意識で火に油を注ぐ宮成の発言に、幸田はむきぃぃぃと敵対心をむき出しにしていた。
敵だけど、男として、幸田の怒りがよくわかる……。
ホイッスルがなり、宮成と幸田がジャンプしてボールを奪い合う。大きな男たちのジャンプに会場中が沸く。
宮成、がんばれ。声には出さずとも、思わず手に力が入る。
宮成の指が幸田よりわずかに早くボールをかすめとり、こちら側のコートにボールが落ちた。それを明石がすかさず取り、そのままドリブルをして、敵を引き寄せる。その隙に、宮成にボールをパス――するも、幸田にカットされてしまう。
宮成をしっかりとマークしていた幸田は、ニヤリと微笑み、挑発するように、宮成を見た。
「確かにお前の方がモテるかもだけどな、バスケの技術は断然、俺の方が――」
ドリブルをしながら話す幸田の横を、宮成が通り抜けた。瞬きの間に、幸田の持っていたボールが宮成の手に移り、宮成はまるで重力を忘れたかのような軽い足取りで、ゴールまで向かいシュートを決める。ボールはリングに吸い込まれるように落ちた。
一瞬の出来事に、何が起きたか分からなかったが、静寂の体育館にボールのバウンド音が聞こえた瞬間、わぁっと会場が沸く。
「な……、ま、まだ俺が喋ってただろうがよ!」
怒りに震える幸田に、宮成は髪をかき上げる。
「お前は喋りすぎなんだよ。だからモテないんだ」
クールに告げた言葉に、幸田が地団駄を踏む。
なんというか、幸田には同情しかない。ほとんどの男子がお前の味方だ。安心しろ。
その後も、三組と八組の一進一退の攻防が続く。
中盤、幸田の味方へのパスを、宮成が華麗にカットした。
ボールを奪った宮成は、そのまま一気に加速して、誰よりも早くコートを走った。
やってきたディフェンスを避けるように、右に体を傾けたかと思うと、背中を相手に向け、くるりと回って左へ抜ける。
リズミカルにステップが踏まれ、レイアップシュートの体勢に入った宮成が大きく跳ねた時。
「宮成ぃー!いけー!」
俺は思わず声を出して応援していた。
ボールがリングのふちをぐるりと回転し、ストンと中に落ちる。
歓声が沸いたその瞬間、宮成がこちらを見た。
得点を入れるのを忘れるなって意味だろう。わかってる。
そう思って、点数をめくろうと手を伸ばして、止まった。
宮成が、俺のいる方向へ、イタズラっぽく目を細めながら、右手でピースを作って見せたのだ。
誰にしているのだろう。
ふと後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
ってことは。そう思って、前を見ると、宮成が、お前だよ、と言わんばかりにこちらを見て、笑っていた。
たくさんの観客に囲まれたこの熱気熱気の中で、宮成の視界に、今、俺だけが映っている。
たくさんの歓声が響き渡るこの体育館の中の中で、宮成の耳に、俺の声がちゃんと届いている。
それがどうしても嬉しくて、鼻の奥がツンと熱くなった。
試合は進み、終盤に差し掛かった頃。
点数は30−30。かろうじて、勝っているが、まだ分からない。
その時、宮成のシュートを焦ったディフェンスの手が、宮成の手を思い切り払いのけてしまった。
鋭い笛の音が体育館に響き渡る。
「ファウル! フリースロー」
ここで、フリースローを2本とも決めて、そのまま逃げ切れれば勝てる。
そう思った時、宮成が、審判の元へ走り、何かを一生懸命告げていた。
何やら話がまとまったようで、審判が頷くと、振り返った宮成が、こちらに向かって駆けてきた。
え? ……何?
宮成は俺の目の前にくるなり、にこりと微笑んだ。
「綿谷、出番だぞ」
「……へ?」
突然の出来事に、俺は目をぱちくり開いた。
「フリースローだけなら、指も大丈夫だろ」
「え……。でも、こんな大事な場面では……。俺、下手だし」
っていうか、入れれる自信がない。
だって、こんなたくさんの人に見られて、絶対応援してるみんなだって、俺のフリースローなんて見たくないはず。
「外してもいいから。絶対誰も怒んないし」
いや、宮成はそうかもしれないけど、他のみんなはどうなんだろう。明石なんて、相当気合い入っていたし。
悩む俺に、たくさんの人たちの視線が刺さる。
だめだ、こんな中でフリースローなんて。
断ろう。そう思った時、宮成が俺の手を握った。
「綿谷と一緒に、勝ちたいんだ」
まるで指先に心臓があるかのように、宮成の鼓動が触れたところから伝わってくる。
泣きそうな顔で懇願されたら、もう、断ることなんかできないじゃんか……。
小さく頷くと、宮成はまた少年のようなニカッとした笑顔で、俺の手を握ったまま、コートへ入っていく。
「ナツっきー、俺と代わろ。俺、もう他競技の応援で、正直へとへとなんだ」
明石はへへと笑うと、右手を俺に向かって伸ばす。
伸ばされた手の意味がわからず、「ん?」と首を傾げると、「ハイタッチ!」ともっと笑われた。
こういう時、友達はハイタッチをするらしい。
パアンッと手と手が合わさる音がして、俺は人生初めてのハイタッチを経験した。
「ナツっきー。俺、実は今日、一回もシュート入れてないんだよね」
瀬田が徐に近づいてきて、自嘲するように笑った。
「だから、全然外しても大丈夫よ。俺と一緒。むしろ入れないでほしいまである」
ギャラリーから、ちらほらと声が聞こえる。
「綿谷ー、がんばれー!」
「綿谷くんー! ファイトー!」
明石に、瀬田、そしてクラスメイトのみんなの応援に、少しだけ胸が熱くなる。気を緩めたら、目の縁から何かが溢れてしまいそうだ。
ゴールの前に立つ。
体育館にいる全員の視線が刺さって、緊張で体がこわばる。
逃げ出したいようなそんな衝動に駆られながらも、どこかで一緒に戦いたい思いもある。俺も、みんなのクラスメイトの一員だから。
宮成がボールを渡しにきてくれた時に、耳元で小さく囁いた。
「外したら罰ゲームな」
「は?!」
さっき、外してもいいって言ってたのに、とんだ手のひら返しだ。
ってか、罰ゲームってなんだよと睨むと、宮成は意地悪そうにニヤリと笑った。
「俺と昼飯、ずっと二人」
なんだそれ。それなら俺はずっと罰ゲームの最中じゃないか。
思わず、笑ってしまう。
笑顔が、こわばっていた身体を徐々にほぐれていくようだった。
ついさっきまで、俺はモヤモヤしてた。
宮成が女子に告白されてるところ見て、宮成の好きな人が翠だって気づいて。
でも、もうそんなことがどうでもいい。
こうやって、俺をみんなの輪の中に入れてくれて。
緊張を笑ってほぐしてくれて。
いつだって、俺を気がけてくれて。
悔しいけど、もう認めるしかない。
俺、宮成が好きだ。
たとえ宮成にとっては、なんてことのない言動だとしても。
たとえ宮成に、他に好きな人がいても。
それでも、俺は、宮成が好きだ。
認めたら、今まで枷をつけたように重かった体が、ふわりと軽くなって、今なら、どこまでもボールを飛ばせそうな気がした。
俺は想いを込めるように、ゴールに向かって、ボールを投げた。
指先を離れたボールが放物線を描いて、リングに向かっていく。
入ってくれ。そうしたらきっと、この想いも――。
そう思いながら、ボールの行方を見つめていた。
男子は全ての球技で初戦敗退。女子もドッジボールは二回戦までいったものの、そこで敗退。
となれば、クラスの期待は男子バスケに集中する。
どうやらクラス全員で応援に来てくれるらしい。
決勝戦というだけあって、みんな力が入ってるようだ。
俺も気合いを入れる。……得点係だけど。
俺たちの対戦相手は、宮成と同じバスケ部の幸田率いる八組。
「なんで宮成ばっかりモテるんだよ……。俺だって、ここで優勝して、モテてやるんだからな!」
「俺はむしろモテたくない」
無意識で火に油を注ぐ宮成の発言に、幸田はむきぃぃぃと敵対心をむき出しにしていた。
敵だけど、男として、幸田の怒りがよくわかる……。
ホイッスルがなり、宮成と幸田がジャンプしてボールを奪い合う。大きな男たちのジャンプに会場中が沸く。
宮成、がんばれ。声には出さずとも、思わず手に力が入る。
宮成の指が幸田よりわずかに早くボールをかすめとり、こちら側のコートにボールが落ちた。それを明石がすかさず取り、そのままドリブルをして、敵を引き寄せる。その隙に、宮成にボールをパス――するも、幸田にカットされてしまう。
宮成をしっかりとマークしていた幸田は、ニヤリと微笑み、挑発するように、宮成を見た。
「確かにお前の方がモテるかもだけどな、バスケの技術は断然、俺の方が――」
ドリブルをしながら話す幸田の横を、宮成が通り抜けた。瞬きの間に、幸田の持っていたボールが宮成の手に移り、宮成はまるで重力を忘れたかのような軽い足取りで、ゴールまで向かいシュートを決める。ボールはリングに吸い込まれるように落ちた。
一瞬の出来事に、何が起きたか分からなかったが、静寂の体育館にボールのバウンド音が聞こえた瞬間、わぁっと会場が沸く。
「な……、ま、まだ俺が喋ってただろうがよ!」
怒りに震える幸田に、宮成は髪をかき上げる。
「お前は喋りすぎなんだよ。だからモテないんだ」
クールに告げた言葉に、幸田が地団駄を踏む。
なんというか、幸田には同情しかない。ほとんどの男子がお前の味方だ。安心しろ。
その後も、三組と八組の一進一退の攻防が続く。
中盤、幸田の味方へのパスを、宮成が華麗にカットした。
ボールを奪った宮成は、そのまま一気に加速して、誰よりも早くコートを走った。
やってきたディフェンスを避けるように、右に体を傾けたかと思うと、背中を相手に向け、くるりと回って左へ抜ける。
リズミカルにステップが踏まれ、レイアップシュートの体勢に入った宮成が大きく跳ねた時。
「宮成ぃー!いけー!」
俺は思わず声を出して応援していた。
ボールがリングのふちをぐるりと回転し、ストンと中に落ちる。
歓声が沸いたその瞬間、宮成がこちらを見た。
得点を入れるのを忘れるなって意味だろう。わかってる。
そう思って、点数をめくろうと手を伸ばして、止まった。
宮成が、俺のいる方向へ、イタズラっぽく目を細めながら、右手でピースを作って見せたのだ。
誰にしているのだろう。
ふと後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
ってことは。そう思って、前を見ると、宮成が、お前だよ、と言わんばかりにこちらを見て、笑っていた。
たくさんの観客に囲まれたこの熱気熱気の中で、宮成の視界に、今、俺だけが映っている。
たくさんの歓声が響き渡るこの体育館の中の中で、宮成の耳に、俺の声がちゃんと届いている。
それがどうしても嬉しくて、鼻の奥がツンと熱くなった。
試合は進み、終盤に差し掛かった頃。
点数は30−30。かろうじて、勝っているが、まだ分からない。
その時、宮成のシュートを焦ったディフェンスの手が、宮成の手を思い切り払いのけてしまった。
鋭い笛の音が体育館に響き渡る。
「ファウル! フリースロー」
ここで、フリースローを2本とも決めて、そのまま逃げ切れれば勝てる。
そう思った時、宮成が、審判の元へ走り、何かを一生懸命告げていた。
何やら話がまとまったようで、審判が頷くと、振り返った宮成が、こちらに向かって駆けてきた。
え? ……何?
宮成は俺の目の前にくるなり、にこりと微笑んだ。
「綿谷、出番だぞ」
「……へ?」
突然の出来事に、俺は目をぱちくり開いた。
「フリースローだけなら、指も大丈夫だろ」
「え……。でも、こんな大事な場面では……。俺、下手だし」
っていうか、入れれる自信がない。
だって、こんなたくさんの人に見られて、絶対応援してるみんなだって、俺のフリースローなんて見たくないはず。
「外してもいいから。絶対誰も怒んないし」
いや、宮成はそうかもしれないけど、他のみんなはどうなんだろう。明石なんて、相当気合い入っていたし。
悩む俺に、たくさんの人たちの視線が刺さる。
だめだ、こんな中でフリースローなんて。
断ろう。そう思った時、宮成が俺の手を握った。
「綿谷と一緒に、勝ちたいんだ」
まるで指先に心臓があるかのように、宮成の鼓動が触れたところから伝わってくる。
泣きそうな顔で懇願されたら、もう、断ることなんかできないじゃんか……。
小さく頷くと、宮成はまた少年のようなニカッとした笑顔で、俺の手を握ったまま、コートへ入っていく。
「ナツっきー、俺と代わろ。俺、もう他競技の応援で、正直へとへとなんだ」
明石はへへと笑うと、右手を俺に向かって伸ばす。
伸ばされた手の意味がわからず、「ん?」と首を傾げると、「ハイタッチ!」ともっと笑われた。
こういう時、友達はハイタッチをするらしい。
パアンッと手と手が合わさる音がして、俺は人生初めてのハイタッチを経験した。
「ナツっきー。俺、実は今日、一回もシュート入れてないんだよね」
瀬田が徐に近づいてきて、自嘲するように笑った。
「だから、全然外しても大丈夫よ。俺と一緒。むしろ入れないでほしいまである」
ギャラリーから、ちらほらと声が聞こえる。
「綿谷ー、がんばれー!」
「綿谷くんー! ファイトー!」
明石に、瀬田、そしてクラスメイトのみんなの応援に、少しだけ胸が熱くなる。気を緩めたら、目の縁から何かが溢れてしまいそうだ。
ゴールの前に立つ。
体育館にいる全員の視線が刺さって、緊張で体がこわばる。
逃げ出したいようなそんな衝動に駆られながらも、どこかで一緒に戦いたい思いもある。俺も、みんなのクラスメイトの一員だから。
宮成がボールを渡しにきてくれた時に、耳元で小さく囁いた。
「外したら罰ゲームな」
「は?!」
さっき、外してもいいって言ってたのに、とんだ手のひら返しだ。
ってか、罰ゲームってなんだよと睨むと、宮成は意地悪そうにニヤリと笑った。
「俺と昼飯、ずっと二人」
なんだそれ。それなら俺はずっと罰ゲームの最中じゃないか。
思わず、笑ってしまう。
笑顔が、こわばっていた身体を徐々にほぐれていくようだった。
ついさっきまで、俺はモヤモヤしてた。
宮成が女子に告白されてるところ見て、宮成の好きな人が翠だって気づいて。
でも、もうそんなことがどうでもいい。
こうやって、俺をみんなの輪の中に入れてくれて。
緊張を笑ってほぐしてくれて。
いつだって、俺を気がけてくれて。
悔しいけど、もう認めるしかない。
俺、宮成が好きだ。
たとえ宮成にとっては、なんてことのない言動だとしても。
たとえ宮成に、他に好きな人がいても。
それでも、俺は、宮成が好きだ。
認めたら、今まで枷をつけたように重かった体が、ふわりと軽くなって、今なら、どこまでもボールを飛ばせそうな気がした。
俺は想いを込めるように、ゴールに向かって、ボールを投げた。
指先を離れたボールが放物線を描いて、リングに向かっていく。
入ってくれ。そうしたらきっと、この想いも――。
そう思いながら、ボールの行方を見つめていた。
