折り鶴サマの満つる刻

 長い長い夢を見た。倒れてきた瓦礫に押しつぶされ、誰にも気づかれないまま消えていく寂しい夢だ。
 生きている間も死んだ後も、人を救った気になるのは簡単で、だからいつも胸の真ん中に風穴が空いていた。満たされない、満たしたい、でも満たせないと諦めた空洞が、自分をより薄っぺらい存在にしている。
 あの日屋上の縁で、海斗が本当に自棄になっていたかは知らない。風にあおられた折り鶴を追いかけ、拾おうとしていただけのように見えた。
 追い詰められ、心をすり減らした人間は、日常の延長線上であっさり生きる権利を放棄してしまう。傾いたその体を引き留めようととっさに憑依したが、結果は変えられなかった。

 こんな役立たずを抱え込んで、いいのか――?

 物好き。酔狂。変わり者。
 形容する言葉はたくさんあるが、どれも彼を表すにはそぐわない。そう思う以上に、彼に掴んでもらえた魂が喜びを訴えている。
 生きている価値が欲しかった。一人では見つけられないと知りながら、自分には誰もいないからと一人で探し続けた。諦めながら期待して、最終的にこれは……見つけたといっていいのだろうか。
 気分のいい余生にはきっとならない。罪悪感は一生消えないだろうし、過去がチャラになるなんて虫のいい話もない。自分で言うのもなんだが、明らかに負債だ。
 散々傷ついて一番それをよくわかっているはずなのに、傷つけた相手にこうも固執する海斗はやっぱりどうかしている。
「……これ以上、不幸が起きても責任は取れないよ?」
「いいよ。そのときは道連れになるだけだ」
 遠くに光が見える。誰にも見つけてもらえず朽ちたはずの心臓に手が差し伸べられる。
 ずっと、これを待っていたのだと気づく。
 誰でもいい。どんな形でもいい。戸籍すら持たずに終わった、『満』という個が歩んだ軌跡に意味はあったと、気休めでもいいから実感させてほしい。
 それがたまたま、この手だった。厄介なことに、この手がいいと自分も思っている。人のことはあまり言えない。

 こういうのを、人は『未練』って呼ぶのかな。
 自分にも人並みに、この世にこだわる理由があったことにびっくりだが、考えてみればそうでなきゃ延々と彷徨わないかと納得する。
 永遠にそのままだと思っていた風穴が、こんな形で塞がる日が来るなんて、人間やはり長生きはするものだ。

 まぁ、もうとっくに死んでる命だけどね。