綺麗だ、と思った。
ただの黒ではない、ゆらゆらと様々な色彩が見え隠れする、それはまさにオーロラの浮かぶ夜空のようで。
すらっとした鼻、長いまつ毛、開かれた瞳の色は、むら、さき。
「……!?」
「王子!エルシャ王子!!どこにいるんですか!いるんなら返事をして下さい!!」
「あ、やべっ、ごめんちょっと知らないフリして!」
*
アスタリアは困惑しながらちょっと膨らんだサテンのカーテンを見つめた。
と、そこに、
「エルシャ王子!!!」
ダッダッダッ、と足音が聞こえて、近づいたからか先程よりも大きい声と共に、ここの生徒かと思われる1人の少女が勢いよくドアを開けた。
先の少年と反対方向からやって来たが、一体彼女らは何をしているのだ。
「ッ、ぁ……申し訳ありません!マグニフィセント皇子!!」
その疑問に答えるように、目が合った瞬間、いや、私の頭に生えている角を見た瞬間、彼女は顔色を恐怖に染め、頭を垂れて弁明し始める。
「わたくし、は、ベルルッティ・ニア・ウォーホルと申します。休み時間をお邪魔してしまって、大変、申し訳ありません。えっと、あの、」
しかし、言葉が詰まってしまったようだ。
焦らずとも、言わずとも良い。
そう伝えようとした時、
「ごめんごめん、ちょっとおいたが過ぎたかな」
「エルシャ、さま」
「……」
カーテンから王子――先程王子と呼ばれていたが、初めて見た顔である――が女子生徒を庇うように出てきた。
「んーと、マグニフィセント皇子?お騒がせして申し訳ない。はじめましてだよね?」
そう言いながら、王子は女子生徒に出て行くよう手を振る。
ペコリと軽い礼をして、余程焦っていたのか扉も閉めずに彼女は出て行く。
「そのはずだ。……エルシャ王子、といったか。私はアスタリア・G=マグニフィセント。気軽にアスタリアと呼んでくれ」
「……気軽にアスタリアって、んふ、あははっ、なるほどね、そういうこと」
どこが可笑しかったのか分からないが、私が自己紹介をすると、エルシャ王子は途端に笑い出した。
「……分かったよアスタリア。俺はエルシャ・ネイト・フォニアム。俺のこともよければエルシャって呼んでくれ」
「了解だ、エルシャ。よろしく頼む」
「うん、よろしく」
アスタリア。エルシャ。
名前で呼びあう間柄とはそれすなわち、友達ではなかろうか。
若干の照れ臭さは、声に出ていなかっただろうか。
顔に出ていないことは間違いないのだが。
「……?」
ふと、手が差し出される。
なんの手だろう、と、エルシャの顔と手を交互に見つめてしまう。
ちっとも分かりそうにない。
「え?あ、そっか、魔族の方では握手の習慣がないんだっけ」
「……アクシュ」
気づかぬ内に右手を取られて、エルシャの右手と握り合う。
「んはっ、こうすんの!」
「……なるほど」
これが、アクシュ。
繋がれた手と手を見つめていると、またも急にエルシャが笑い出した。
「クッ、お前、かおが、あははっ!」
「…………なんだ」
人の顔で笑うとは、なんて失礼な奴であるか。
というか、顔を見て笑われたのは初めてで、驚いている。
ひとしきり笑ったあと、エルシャは私の座っている目の前に、つまり机の上に座って口を開いた。
「アスタリアって、表情がころころ変わって面白いな。初めて出会ったタイプだ。てか、もっと彫刻みたいな奴かと思ってた」
「……私も、そんなことを言われたのは初めてだ」
表情の読めない人形のようだと、他称されてきたし、自認も概ね同じである。
青と水色の揺らめく、海のような瞳を見つけて、見つめて、無自覚に瞬きを1つ。
「……ところで、そろそろ手を離して貰ってもいいか」
「ああごめん、忘れてた」
なるほど、初めて出会ったタイプ、だ。
