第1章
【#1】
――…ここはどこだろう?
薄紫の花がたくさん咲いている野原。
どこからか女の子の泣き声が聞こえる。
泣いているのは……わたし?
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
「お姉ちゃんがもうすぐ手術するの。ママは〝大丈夫だよ〟って言ってるけど、お姉ちゃんが死んじゃったらどうしようって思うとこわいの」
「そっか。でも、お姉ちゃんの方がきっともっとこわいと思うよ。大丈夫、きっと元気になるよ」
「ホントに?」
「ホントだよ。ぼくも手術したことあるけど、今は元気でしょ?」
「…………」
「大丈夫だから、もう泣かないで」
「……うん」
「ここ、花がたくさん咲いてるんだね」
「このお花、しおんっていうの。わたしと同じ名前なんだよ。このお花大好きだから、お姉ちゃんにあげようと思って、ここに来たの」
「きみの名前、しおんちゃんっていうんだ。かわいい名前だね」
* * *
「紫苑、そろそろ起きなさい!」
お母さんの声が聞こえて目が覚めた。
枕元の時計を見ると、ちょうど6時半。
もう起きないといけない時間だ。
わたしはベッドから起きて、窓のカーテンを開けた。
今日から9月だけど、陽射しはまだまだ夏めいてる。
空は真っ青な快晴で、気持ちがいい。
……また、あの夢見たな……。
紫苑の花が咲く野原で泣いているわたしが、知らない男の子と話をする夢。
前にも何度か同じ夢を見たことがある。
あの夢は、一体なんだろう?
本当にあったことなの?
あの男の子は誰なの?
本当にあったことなのか、ただの夢なのか、わからない。
でも、なぜか懐かしいような感じがする。
下へ降りると、お母さんはキッチンで朝食を作っていた。
「おはよう。ちゃんと起きられたのね。莉苑はもう起きてるわよ」
「おはよう。お父さんはもう仕事行ったの?」
「うん。今日はいつもより早く行ったわよ。ご飯もうすぐできるから、待ってて」
「は~い」
リビングに行くと、莉苑ちゃんがテレビを観ていた。
「莉苑ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう、紫苑 」
「今日から2学期だね」
「そうだね。なんかユーウツだね」
「でも、今日は始業式だけだから、早く帰れるね」
莉苑ちゃんとふたりで話していたら、
「はい、お待たせ。たくさん食べてね」
お母さんが朝食を運んできてくれた。
「いただきます!」
ふたりで声を合わせて朝食を食べる。
これが、わたし・藤咲 紫苑の毎朝のルーティーン。
現在高校1生年のわたしは、少女漫画を読んだり流行の音楽を聴いたり友達とお喋りするのが大好きな、ごく普通の平凡女子。
そして、1歳上の姉・莉苑ちゃんは、わたしと同じ高校に通っている2年生。
人目を引く整ったキレイな顔立ちで、華奢で背が高い。
成績も良くて、優しくて、料理や裁縫が得意で家庭的な完璧女子。
わたしが男の子だったら、結婚したいくらい!
でも、実は莉苑ちゃんは生まれつき体が弱くて、学校も結構休んでいる。
今でも定期的に病院に通っているし、小さい頃に長期入院して、手術したこともある。
だけど、莉苑ちゃんは体が弱いからって甘えたりしない。
自分にできることは頑張りたいって、勉強にも一生懸命取り組んでる。
見た目は華奢で繊細だけど、芯は強くて、しっかりしていると思う。
莉苑ちゃんに憧れてる人はたくさんいるし、当然、男子にも人気がある。
入学してから何度か告白もされているみたいだけど、「本当に好きな人じゃないとつきあえない」と言って、一度も受けたことがないらしい。
そういうところ真面目で、いいと思う。
それから、莉苑ちゃんはいつもわたしの話を親身になって聞いてくれる。
悩んでいるときは相談に乗ってくれるし、落ち込んでいるときは元気づけてくれる。
だから、わたしは莉苑ちゃんのことが大好きなんだ。
お父さんとお母さんも私たちのことよく理解してくれてるし、大事にしてくれている。
お父さんとお母さんは今でも仲がいい。
高校時代からつきあっていて、大学卒業と同時に結婚して、そのあとすぐに莉苑ちゃんとわたしが生まれたから、ふたりともまだ若い。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、わたしは本当に大好きなんだ。
* * *
「ねぇ、聞いた? うちのクラスに転入生が来るの!」
始業式のあと、体育館から教室に戻る途中で、親友の沙苗(さなえ)が弾んだ声で言った。
「ホントに?」
「ホントだよ。さっき先生が言ってたから」
「そうなんだ」
この時期に転入なんて、珍しいな……。
「あ~EDEN (エデン) の蓮(れん)くんみたいな男の子だったらいいな~」
沙苗が夢見る瞳で呟いた。
蓮くんっていうのは今大人気のアイドル・グループ『EDEN』に所属しているメンバーのこと。
沙苗は小学生の頃からアイドル大好きで、最近はEDENに夢中らしい。
「現実はそんな甘くないと思うよ?」
「もう、紫苑は夢がないな~」
わたしの言葉に沙苗は不満そうに口を尖らせた。
ふたりで話しながら教室に戻って「席は誰の隣になるのかな?」と話を続けていたら、担任の先生が教室に入って来た。
「もうすでに知ってる人もいると思うけど、今日からこのクラスの生徒になる転入生を紹介します」
先生の言葉に、教室中が騒がしくなった。
「葉月くん、中に入って」
先生が廊下で待っていたらしい転入生に声をかけると、男の子が教室に入って来た。
その瞬間、「カッコいい~」「めちゃイケメン」「スタイルいい~」とあちこちからそんな言葉が聞こえてきた。
わたしも一目見てビックリした。
まさかこんなイケメンが転入生なんて、ホントに沙苗の期待通りじゃない。
思わず沙苗の方を見ると、「やったね」っていう笑顔でピースしてきた。
相変わらずミーハーなんだから。
少し呆れながら転入生の方へ視線を戻すと、
「葉月 柊(はづき しゅう)です。よろしくお願いします」
転入生の葉月くんが挨拶をした。
栗色のサラサラの髪に、整った顔立ち。
華奢で背が高くて、育ちが良さそうで、優しそう。
癒し系っていう言葉がピッタリな感じ。
なんとなく、雰囲気が莉苑ちゃんに似てるかもしれない。
「……藤咲さん!」
思わず葉月くんに見とれていたら、突然先生がわたしの名前を呼んだ。
「……はい!?」
「隣の席が空いているから、葉月くんには藤咲さんの隣に座ってもらいます。よろしくね」
慌てて返事をすると、先生が笑顔で言った。
2学期初日から、ラッキーかも……?
【#1】
――…ここはどこだろう?
薄紫の花がたくさん咲いている野原。
どこからか女の子の泣き声が聞こえる。
泣いているのは……わたし?
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
「お姉ちゃんがもうすぐ手術するの。ママは〝大丈夫だよ〟って言ってるけど、お姉ちゃんが死んじゃったらどうしようって思うとこわいの」
「そっか。でも、お姉ちゃんの方がきっともっとこわいと思うよ。大丈夫、きっと元気になるよ」
「ホントに?」
「ホントだよ。ぼくも手術したことあるけど、今は元気でしょ?」
「…………」
「大丈夫だから、もう泣かないで」
「……うん」
「ここ、花がたくさん咲いてるんだね」
「このお花、しおんっていうの。わたしと同じ名前なんだよ。このお花大好きだから、お姉ちゃんにあげようと思って、ここに来たの」
「きみの名前、しおんちゃんっていうんだ。かわいい名前だね」
* * *
「紫苑、そろそろ起きなさい!」
お母さんの声が聞こえて目が覚めた。
枕元の時計を見ると、ちょうど6時半。
もう起きないといけない時間だ。
わたしはベッドから起きて、窓のカーテンを開けた。
今日から9月だけど、陽射しはまだまだ夏めいてる。
空は真っ青な快晴で、気持ちがいい。
……また、あの夢見たな……。
紫苑の花が咲く野原で泣いているわたしが、知らない男の子と話をする夢。
前にも何度か同じ夢を見たことがある。
あの夢は、一体なんだろう?
本当にあったことなの?
あの男の子は誰なの?
本当にあったことなのか、ただの夢なのか、わからない。
でも、なぜか懐かしいような感じがする。
下へ降りると、お母さんはキッチンで朝食を作っていた。
「おはよう。ちゃんと起きられたのね。莉苑はもう起きてるわよ」
「おはよう。お父さんはもう仕事行ったの?」
「うん。今日はいつもより早く行ったわよ。ご飯もうすぐできるから、待ってて」
「は~い」
リビングに行くと、莉苑ちゃんがテレビを観ていた。
「莉苑ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう、紫苑 」
「今日から2学期だね」
「そうだね。なんかユーウツだね」
「でも、今日は始業式だけだから、早く帰れるね」
莉苑ちゃんとふたりで話していたら、
「はい、お待たせ。たくさん食べてね」
お母さんが朝食を運んできてくれた。
「いただきます!」
ふたりで声を合わせて朝食を食べる。
これが、わたし・藤咲 紫苑の毎朝のルーティーン。
現在高校1生年のわたしは、少女漫画を読んだり流行の音楽を聴いたり友達とお喋りするのが大好きな、ごく普通の平凡女子。
そして、1歳上の姉・莉苑ちゃんは、わたしと同じ高校に通っている2年生。
人目を引く整ったキレイな顔立ちで、華奢で背が高い。
成績も良くて、優しくて、料理や裁縫が得意で家庭的な完璧女子。
わたしが男の子だったら、結婚したいくらい!
でも、実は莉苑ちゃんは生まれつき体が弱くて、学校も結構休んでいる。
今でも定期的に病院に通っているし、小さい頃に長期入院して、手術したこともある。
だけど、莉苑ちゃんは体が弱いからって甘えたりしない。
自分にできることは頑張りたいって、勉強にも一生懸命取り組んでる。
見た目は華奢で繊細だけど、芯は強くて、しっかりしていると思う。
莉苑ちゃんに憧れてる人はたくさんいるし、当然、男子にも人気がある。
入学してから何度か告白もされているみたいだけど、「本当に好きな人じゃないとつきあえない」と言って、一度も受けたことがないらしい。
そういうところ真面目で、いいと思う。
それから、莉苑ちゃんはいつもわたしの話を親身になって聞いてくれる。
悩んでいるときは相談に乗ってくれるし、落ち込んでいるときは元気づけてくれる。
だから、わたしは莉苑ちゃんのことが大好きなんだ。
お父さんとお母さんも私たちのことよく理解してくれてるし、大事にしてくれている。
お父さんとお母さんは今でも仲がいい。
高校時代からつきあっていて、大学卒業と同時に結婚して、そのあとすぐに莉苑ちゃんとわたしが生まれたから、ふたりともまだ若い。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、わたしは本当に大好きなんだ。
* * *
「ねぇ、聞いた? うちのクラスに転入生が来るの!」
始業式のあと、体育館から教室に戻る途中で、親友の沙苗(さなえ)が弾んだ声で言った。
「ホントに?」
「ホントだよ。さっき先生が言ってたから」
「そうなんだ」
この時期に転入なんて、珍しいな……。
「あ~EDEN (エデン) の蓮(れん)くんみたいな男の子だったらいいな~」
沙苗が夢見る瞳で呟いた。
蓮くんっていうのは今大人気のアイドル・グループ『EDEN』に所属しているメンバーのこと。
沙苗は小学生の頃からアイドル大好きで、最近はEDENに夢中らしい。
「現実はそんな甘くないと思うよ?」
「もう、紫苑は夢がないな~」
わたしの言葉に沙苗は不満そうに口を尖らせた。
ふたりで話しながら教室に戻って「席は誰の隣になるのかな?」と話を続けていたら、担任の先生が教室に入って来た。
「もうすでに知ってる人もいると思うけど、今日からこのクラスの生徒になる転入生を紹介します」
先生の言葉に、教室中が騒がしくなった。
「葉月くん、中に入って」
先生が廊下で待っていたらしい転入生に声をかけると、男の子が教室に入って来た。
その瞬間、「カッコいい~」「めちゃイケメン」「スタイルいい~」とあちこちからそんな言葉が聞こえてきた。
わたしも一目見てビックリした。
まさかこんなイケメンが転入生なんて、ホントに沙苗の期待通りじゃない。
思わず沙苗の方を見ると、「やったね」っていう笑顔でピースしてきた。
相変わらずミーハーなんだから。
少し呆れながら転入生の方へ視線を戻すと、
「葉月 柊(はづき しゅう)です。よろしくお願いします」
転入生の葉月くんが挨拶をした。
栗色のサラサラの髪に、整った顔立ち。
華奢で背が高くて、育ちが良さそうで、優しそう。
癒し系っていう言葉がピッタリな感じ。
なんとなく、雰囲気が莉苑ちゃんに似てるかもしれない。
「……藤咲さん!」
思わず葉月くんに見とれていたら、突然先生がわたしの名前を呼んだ。
「……はい!?」
「隣の席が空いているから、葉月くんには藤咲さんの隣に座ってもらいます。よろしくね」
慌てて返事をすると、先生が笑顔で言った。
2学期初日から、ラッキーかも……?

