【短編】冷徹海軍少佐の、世界に一つだけの溺愛

 黒崎少佐の声で確かに呼ばれた私の名前。
 私は弾かれたように顔を上げた。
 黒崎少佐は私を真剣な眼差しで見下ろしていて。
 その鋭くて綺麗な瞳から目を逸らせなくなってしまった。
 会話は途切れている。
 でも、それが黒崎少佐と感情を交わしているようで。
 二人を包んだまま、静かに夜の空気は濃度が深まっていく。

「……明日から、どのような顔で黒崎少佐とお会いしたらいいのかわかりかねます……」
「自分は五年も前から、そう思ってる」
「……存じませんでした」
「君が優秀だったから、職務上の合理的な判断で足りていただけだ」
「黒崎少佐に速記係として評価いただけていることは心得ておりました。でも、それだけだと……」
「――気づかれぬままでよいと思っていた」

 心臓が一際(ひときわ)、大きく鳴った。
 体の前で重ねていた手に力がこもる。
 夜の空気に吐く息だけがわずかに白く残った。
 春は、すぐそばまで近づいている。
 私は静かに息を整えた。

「――颯真さん……」

 これまでとは違う明日が始まろうとしていた。


 【冷徹海軍少佐の、世界に一つだけの溺愛】end