「よし!」
突然、結衣が両手を叩いた。
嫌な予感しかしない。
和春が眉を寄せる。
「今度は何だよ」
「おにぃ!」
「だから何」
結衣は瀬奈、アリシア、愛華を順番に見回して――満面の笑みを浮かべた。
「みんなでこれからのために親睦を深めるパーティしよ!」
「……は?」
「パーティ!」
「急だな」
「だってこれから一緒に仕事するんでしょ?」
結衣は指を折りながら数えていく。
「おにぃ、愛華ねぇ、瀬奈さん、アリシアさん! で、私も新しい道場やるかもしれない!」
「お前はまず事業計画書作れ」
「それは明日から!」
「今日やれよ」
「今日は親睦会!」
恐ろしくマイペースだった。
さっきまで整骨院の事業計画書を作れと言われていた人間とは思えない。
愛華が小さくため息をつく。
「結衣さん」
「なに?」
「お気持ちは分かりますが、今日はまだ仕事があります」
「えー?」
「えー、ではありません」
愛華は机の資料を見る。
「新事業について確認しなければならないこともありますし、今後の業務予定も――」
結衣がじーっと愛華を見る。
「……何ですか?」
「愛華ねぇ」
「はい」
「今日、外の仕事あるの?」
「……」
一瞬。
愛華が止まった。
「それは……」
「ないでしょ?」
「事務作業があります」
「でも外には行かないんでしょ?」
「それはそうですが」
結衣がニヤッとする。
「だってさ」
嫌な笑顔だった。
「愛華ねぇが、新事業計画の準備の話する日に外の仕事入れるとは思えないけど?」
「…………」
図星。
瀬奈が愛華を見る。
アリシアも見る。
愛華は無表情。
だが返事がない時点で答えだった。
「……愛華?」
和春まで見る。
「何ですか」
「図星?」
「違います」
「じゃあ今日の予定は?」
「……」
「愛華ねぇ?」
「…………事務作業です」
結衣が勝ち誇った。
「ほらぁ!」
「何が『ほら』ですか」
「外の仕事ない!」
「事務作業も立派な仕事です!」
「明日できる?」
「できますが」
「じゃあパーティできる!」
「どうしてそうなるんですか!」
結衣の中では完璧な論理らしい。
瀬奈は笑いを堪えている。
アリシアは完全に楽しんでいた。
「結衣さん、愛華さんの予定よく分かりますね」
「だって愛華ねぇだよ?」
「説明になってねぇぞ」
和春が突っ込む。
すると結衣は和春を指差した。
「そもそもおにぃ!」
「今度は俺かよ」
「新しい会社始めるんだよ?」
「始めるっつーか拡大な」
「細かい!」
「大事だろ」
「瀬奈さんとアリシアさんも入る!」
「ああ」
「私も道場やる!」
「事業計画通ったらな」
「通す!」
「なら作れ」
「だから明日!」
一歩も引かない。
「で! 愛華ねぇと婚約した!」
「それは関係あるか?」
「ある!」
結衣は胸を張る。
「めでたいこといっぱいじゃん!」
「……」
「だったらパーティでしょ!」
あまりにも単純。
だが。
和春は少し考えた。
瀬奈とアリシアはこれから社員になる。
結衣も計画が通れば、新しいビルで事業を持つことになる。
確かに仕事以外で話す機会があっても悪くない。
「まあ……いいんじゃね?」
愛華が勢いよく和春を見る。
「和春?」
「親睦会自体は悪くねぇだろ」
「仕事があります」
「明日できるんだろ?」
「あなたまで結衣さん側につかないでください」
「俺、今日もう仕事終わってるし」
「あなたは仕事が早すぎるんです!」
結衣が和春の隣へ移動する。
「さすがおにぃ!」
「お前と同じ側に立つと不安になるな」
「ひどい!」
瀬奈が恐る恐る手を挙げた。
「あの……私も今日は大丈夫です」
愛華が瀬奈を見る。
「瀬奈まで……」
「いや、その……親睦を深めるっていう目的自体は、結構いいかなって」
アリシアも笑顔で続く。
「私も今日はもうモデルのお仕事はありません」
愛華が黙った。
一対四。
圧倒的不利。
「愛華ねぇ」
結衣が笑顔で近づく。
「…………」
「パーティしよ?」
「…………」
「愛華ねぇ?」
「分かりました」
「やったぁぁぁ!!」
「ただし!」
愛華が人差し指を立てる。
「騒ぎすぎない。片付けまで全員でやる。明日に仕事を残しすぎない。この三つは守ってください」
「はーい!」
「返事が軽いですね……」
和春が笑う。
「じゃあ何食う?」
「ピザ!」
即答だった。
「子供か」
「お寿司も!」
「増えた」
「唐揚げ!」
「まだ増えるのかよ」
「ケーキ!」
「お前ただ腹減ってるだけだろ!」
「パーティだもん!」
愛華は額を押さえた。
「……嫌な予感しかしません」
アリシアが楽しそうに笑う。
「でも、こういうのもいいですね」
瀬奈も頷いた。
仕事の話をして会社の未来を聞いて。
自分たちの役割を考えてその直後に突然始まるパーティ。
普通の会社では、まずないだろう。
「よーし!」
結衣がスマホを取り出す。
「買い出し行こ!」
「待て」
和春が止める。
「何?」
「お前、さっき『パーティしよう』って言ったよな?」
「うん!」
「言い出した奴が幹事な」
「……」
結衣が止まった。
「店探し、買い出し、予算。全部お前」
「え?」
「経営したいんだろ?」
和春がニヤッと笑う。
「ちょうどいい。最初の予算管理だ」
「パーティで経営の勉強させる!?」
「金出してほしいんだろ?」
「おにぃの鬼ぃぃぃ!!」
「兄だよ!」
愛華が吹き出した。
瀬奈もアリシアも笑う。
結衣は頬を膨らませながらスマホを操作し始めた。
「……絶対めちゃくちゃいいパーティにしてやる」
「予算オーバーしたら自腹な」
「おにぃぃぃ!!」
どうやら。
Boundary & Mind最初の親睦会は――
新規事業責任者候補の、最初の予算管理研修も兼ねることになった。
突然、結衣が両手を叩いた。
嫌な予感しかしない。
和春が眉を寄せる。
「今度は何だよ」
「おにぃ!」
「だから何」
結衣は瀬奈、アリシア、愛華を順番に見回して――満面の笑みを浮かべた。
「みんなでこれからのために親睦を深めるパーティしよ!」
「……は?」
「パーティ!」
「急だな」
「だってこれから一緒に仕事するんでしょ?」
結衣は指を折りながら数えていく。
「おにぃ、愛華ねぇ、瀬奈さん、アリシアさん! で、私も新しい道場やるかもしれない!」
「お前はまず事業計画書作れ」
「それは明日から!」
「今日やれよ」
「今日は親睦会!」
恐ろしくマイペースだった。
さっきまで整骨院の事業計画書を作れと言われていた人間とは思えない。
愛華が小さくため息をつく。
「結衣さん」
「なに?」
「お気持ちは分かりますが、今日はまだ仕事があります」
「えー?」
「えー、ではありません」
愛華は机の資料を見る。
「新事業について確認しなければならないこともありますし、今後の業務予定も――」
結衣がじーっと愛華を見る。
「……何ですか?」
「愛華ねぇ」
「はい」
「今日、外の仕事あるの?」
「……」
一瞬。
愛華が止まった。
「それは……」
「ないでしょ?」
「事務作業があります」
「でも外には行かないんでしょ?」
「それはそうですが」
結衣がニヤッとする。
「だってさ」
嫌な笑顔だった。
「愛華ねぇが、新事業計画の準備の話する日に外の仕事入れるとは思えないけど?」
「…………」
図星。
瀬奈が愛華を見る。
アリシアも見る。
愛華は無表情。
だが返事がない時点で答えだった。
「……愛華?」
和春まで見る。
「何ですか」
「図星?」
「違います」
「じゃあ今日の予定は?」
「……」
「愛華ねぇ?」
「…………事務作業です」
結衣が勝ち誇った。
「ほらぁ!」
「何が『ほら』ですか」
「外の仕事ない!」
「事務作業も立派な仕事です!」
「明日できる?」
「できますが」
「じゃあパーティできる!」
「どうしてそうなるんですか!」
結衣の中では完璧な論理らしい。
瀬奈は笑いを堪えている。
アリシアは完全に楽しんでいた。
「結衣さん、愛華さんの予定よく分かりますね」
「だって愛華ねぇだよ?」
「説明になってねぇぞ」
和春が突っ込む。
すると結衣は和春を指差した。
「そもそもおにぃ!」
「今度は俺かよ」
「新しい会社始めるんだよ?」
「始めるっつーか拡大な」
「細かい!」
「大事だろ」
「瀬奈さんとアリシアさんも入る!」
「ああ」
「私も道場やる!」
「事業計画通ったらな」
「通す!」
「なら作れ」
「だから明日!」
一歩も引かない。
「で! 愛華ねぇと婚約した!」
「それは関係あるか?」
「ある!」
結衣は胸を張る。
「めでたいこといっぱいじゃん!」
「……」
「だったらパーティでしょ!」
あまりにも単純。
だが。
和春は少し考えた。
瀬奈とアリシアはこれから社員になる。
結衣も計画が通れば、新しいビルで事業を持つことになる。
確かに仕事以外で話す機会があっても悪くない。
「まあ……いいんじゃね?」
愛華が勢いよく和春を見る。
「和春?」
「親睦会自体は悪くねぇだろ」
「仕事があります」
「明日できるんだろ?」
「あなたまで結衣さん側につかないでください」
「俺、今日もう仕事終わってるし」
「あなたは仕事が早すぎるんです!」
結衣が和春の隣へ移動する。
「さすがおにぃ!」
「お前と同じ側に立つと不安になるな」
「ひどい!」
瀬奈が恐る恐る手を挙げた。
「あの……私も今日は大丈夫です」
愛華が瀬奈を見る。
「瀬奈まで……」
「いや、その……親睦を深めるっていう目的自体は、結構いいかなって」
アリシアも笑顔で続く。
「私も今日はもうモデルのお仕事はありません」
愛華が黙った。
一対四。
圧倒的不利。
「愛華ねぇ」
結衣が笑顔で近づく。
「…………」
「パーティしよ?」
「…………」
「愛華ねぇ?」
「分かりました」
「やったぁぁぁ!!」
「ただし!」
愛華が人差し指を立てる。
「騒ぎすぎない。片付けまで全員でやる。明日に仕事を残しすぎない。この三つは守ってください」
「はーい!」
「返事が軽いですね……」
和春が笑う。
「じゃあ何食う?」
「ピザ!」
即答だった。
「子供か」
「お寿司も!」
「増えた」
「唐揚げ!」
「まだ増えるのかよ」
「ケーキ!」
「お前ただ腹減ってるだけだろ!」
「パーティだもん!」
愛華は額を押さえた。
「……嫌な予感しかしません」
アリシアが楽しそうに笑う。
「でも、こういうのもいいですね」
瀬奈も頷いた。
仕事の話をして会社の未来を聞いて。
自分たちの役割を考えてその直後に突然始まるパーティ。
普通の会社では、まずないだろう。
「よーし!」
結衣がスマホを取り出す。
「買い出し行こ!」
「待て」
和春が止める。
「何?」
「お前、さっき『パーティしよう』って言ったよな?」
「うん!」
「言い出した奴が幹事な」
「……」
結衣が止まった。
「店探し、買い出し、予算。全部お前」
「え?」
「経営したいんだろ?」
和春がニヤッと笑う。
「ちょうどいい。最初の予算管理だ」
「パーティで経営の勉強させる!?」
「金出してほしいんだろ?」
「おにぃの鬼ぃぃぃ!!」
「兄だよ!」
愛華が吹き出した。
瀬奈もアリシアも笑う。
結衣は頬を膨らませながらスマホを操作し始めた。
「……絶対めちゃくちゃいいパーティにしてやる」
「予算オーバーしたら自腹な」
「おにぃぃぃ!!」
どうやら。
Boundary & Mind最初の親睦会は――
新規事業責任者候補の、最初の予算管理研修も兼ねることになった。


