結衣が「絶対おにぃから金引っ張ってやる!」と息巻きながら、愛華から事業計画書について簡単な説明を受けていた時だった。
「あ、そうだ」
本当に今思い出したらしい。
結衣が顔を上げる。
「おにぃ」
「今度は何だよ」
「お父さんとお母さん、来月帰ってくるよ」
和春の手が止まった。
「……マジ?」
「うん。じぃちゃんが言ってた」
「来月?」
「そう。やっと帰ってくるって」
「へぇ……」
和春にとっても久しぶりの話だった。
瀬奈が不思議そうに二人を見る。
「ご両親、遠くに住んでいるんですか?」
「いや。実家は普通にこっち」
「じゃあ旅行ですか?」
「旅行っつーか……」
和春が少し考える。
どう説明するのが一番正しいのか。
結衣があっさり答えた。
「お父さん、冒険家なの」
「……冒険家?」
瀬奈が聞き返した。
アリシアも興味を示す。
「冒険家って、あの……世界中を回るような?」
「そうそう!」
結衣が嬉しそうに頷く。
「で、お母さんが考古学者」
「…………」
瀬奈が和春を見る。
和春を見る意味は特にない。
ただ、見てしまった。
「何だよ」
「いえ……」
父親が冒険家。
母親が考古学者。
息子が十ヶ国語以上を扱い、心理学から経営、法律、会計まで手を出しているコンサルタント。
娘が実家の道場を継ぐ予定で、柔道整復師の資格まで取っている。
「……なんとなく和春さんが出来上がった理由が見えてきた気がします」
「親関係ねぇだろ」
「本当にそうでしょうか……」
アリシアが笑った。
「ご両親はずっと海外なんですか?」
「ずっとじゃないよ」
結衣が答える。
「帰ってくる時は帰ってくる。でも二人とも海外飛び回ってること多いかな」
父親は冒険家として各地を巡る。
秘境。
遺跡。
島。
山岳地帯。
文化の違う土地。
そして母親は考古学者として、その旅に同行することも多い。
二人の活動は趣味だけではなかった。
現地で撮影した映像を編集し、ネットへ投稿している。
冒険家と考古学者。
その組み合わせで世界各地を巡り、歴史や文化、遺跡などを紹介する動画はかなり人気があり、登録者も多い。
広告収益なども含め、二人はその活動だけで十分生活できていた。
「動画も出してるよ」
「えっ?」
「結構有名」
結衣がスマホを取り出そうとする。
「おい、今見せなくていいから」
「なんで?」
「話進まねぇだろ」
「いいじゃん!」
「後にしろ」
アリシアが少し笑う。
「なんだか楽しそうなご両親ですね」
「楽しいよ! 自由すぎるけど!」
「お前が言うな」
「おにぃにだけは言われたくない!」
また兄妹で言い合いが始まりそうになったが。
和春はふと。
隣にいる愛華を見た。
「……来月か」
「どうしました?」
愛華が聞く。
和春は少し笑った。
「いや」
これまでなら両親が帰ってくる。
それだけだった。
久しぶりに飯でも食うか土産話でも聞くかまたどこかへ行くのかその程度、だが今回は違う。
「ちょうどいいな」
「何がです?」
「愛華紹介できるじゃん」
「……」
愛華の表情が止まった。
結衣が一瞬遅れて意味を理解する。
「あ!!」
和春が普通に続ける。
「親父さんたちには挨拶したし。今度は俺の親にもちゃんと紹介しねぇとな」
「……そう、ですね」
愛華の返事が僅かに遅かった。
和春が気付く。
「なに緊張すんの?」
「しません」
即答。
「いや、今ちょっと間あったぞ」
「ありません」
「あったよな?」
「ありません」
「愛華ねぇ、緊張してる!」
「結衣さん?」
愛華が笑顔で結衣を見る。
「はい!」
「余計なことを言わないでください」
「絶対緊張してるじゃん!」
「結衣さん」
「ごめんなさい!」
瀬奈が笑いを堪えている。
アリシアも楽しそうだった。
天城グループ社長である父親の前でも企業経営者との交渉でも滅多なことでは動じない愛華。
そんな彼女でも婚約者の両親への挨拶となれば話は違うらしい。
「大丈夫だって」
和春は軽く言った。
「親父も母さんも、そんな堅苦しい奴じゃねぇから」
「それは分かりました」
「会ったことねぇだろ」
「冒険家と考古学者が夫婦で世界中を飛び回り、それを動画にして生活している時点で、少なくとも一般的なご両親ではないことは分かります」
「確かに」
「それに」
愛華は和春を見る。
「あなたを育てたご両親ですよ?」
「何だよ」
「何が出てくるか分からないという意味です」
「俺を何だと思ってんだよ」
「歩く専門書、化け物、異常な仕事量を平然と処理する人、コーヒーをまともに淹れられない人」
「最後いらねぇだろ!」
結衣が吹き出した。
「愛華ねぇ、おにぃの扱い完璧じゃん!」
「毎日一緒にいますから」
「さすが嫁!」
「まだ嫁ではありません」
そう答えながらも。
愛華は少し嬉しそうだった。
和春も笑う。
来月久しぶりに両親が帰ってくる。
そして初めて自分がこの先の人生を一緒に歩こうと決めた女性を、両親へ紹介する。
天城家への挨拶が終わり。
会社も大きく動き始め。
今度は神代家、四月から始まった変化は、まだまだ続きそうだった。
「あ、そうだ」
本当に今思い出したらしい。
結衣が顔を上げる。
「おにぃ」
「今度は何だよ」
「お父さんとお母さん、来月帰ってくるよ」
和春の手が止まった。
「……マジ?」
「うん。じぃちゃんが言ってた」
「来月?」
「そう。やっと帰ってくるって」
「へぇ……」
和春にとっても久しぶりの話だった。
瀬奈が不思議そうに二人を見る。
「ご両親、遠くに住んでいるんですか?」
「いや。実家は普通にこっち」
「じゃあ旅行ですか?」
「旅行っつーか……」
和春が少し考える。
どう説明するのが一番正しいのか。
結衣があっさり答えた。
「お父さん、冒険家なの」
「……冒険家?」
瀬奈が聞き返した。
アリシアも興味を示す。
「冒険家って、あの……世界中を回るような?」
「そうそう!」
結衣が嬉しそうに頷く。
「で、お母さんが考古学者」
「…………」
瀬奈が和春を見る。
和春を見る意味は特にない。
ただ、見てしまった。
「何だよ」
「いえ……」
父親が冒険家。
母親が考古学者。
息子が十ヶ国語以上を扱い、心理学から経営、法律、会計まで手を出しているコンサルタント。
娘が実家の道場を継ぐ予定で、柔道整復師の資格まで取っている。
「……なんとなく和春さんが出来上がった理由が見えてきた気がします」
「親関係ねぇだろ」
「本当にそうでしょうか……」
アリシアが笑った。
「ご両親はずっと海外なんですか?」
「ずっとじゃないよ」
結衣が答える。
「帰ってくる時は帰ってくる。でも二人とも海外飛び回ってること多いかな」
父親は冒険家として各地を巡る。
秘境。
遺跡。
島。
山岳地帯。
文化の違う土地。
そして母親は考古学者として、その旅に同行することも多い。
二人の活動は趣味だけではなかった。
現地で撮影した映像を編集し、ネットへ投稿している。
冒険家と考古学者。
その組み合わせで世界各地を巡り、歴史や文化、遺跡などを紹介する動画はかなり人気があり、登録者も多い。
広告収益なども含め、二人はその活動だけで十分生活できていた。
「動画も出してるよ」
「えっ?」
「結構有名」
結衣がスマホを取り出そうとする。
「おい、今見せなくていいから」
「なんで?」
「話進まねぇだろ」
「いいじゃん!」
「後にしろ」
アリシアが少し笑う。
「なんだか楽しそうなご両親ですね」
「楽しいよ! 自由すぎるけど!」
「お前が言うな」
「おにぃにだけは言われたくない!」
また兄妹で言い合いが始まりそうになったが。
和春はふと。
隣にいる愛華を見た。
「……来月か」
「どうしました?」
愛華が聞く。
和春は少し笑った。
「いや」
これまでなら両親が帰ってくる。
それだけだった。
久しぶりに飯でも食うか土産話でも聞くかまたどこかへ行くのかその程度、だが今回は違う。
「ちょうどいいな」
「何がです?」
「愛華紹介できるじゃん」
「……」
愛華の表情が止まった。
結衣が一瞬遅れて意味を理解する。
「あ!!」
和春が普通に続ける。
「親父さんたちには挨拶したし。今度は俺の親にもちゃんと紹介しねぇとな」
「……そう、ですね」
愛華の返事が僅かに遅かった。
和春が気付く。
「なに緊張すんの?」
「しません」
即答。
「いや、今ちょっと間あったぞ」
「ありません」
「あったよな?」
「ありません」
「愛華ねぇ、緊張してる!」
「結衣さん?」
愛華が笑顔で結衣を見る。
「はい!」
「余計なことを言わないでください」
「絶対緊張してるじゃん!」
「結衣さん」
「ごめんなさい!」
瀬奈が笑いを堪えている。
アリシアも楽しそうだった。
天城グループ社長である父親の前でも企業経営者との交渉でも滅多なことでは動じない愛華。
そんな彼女でも婚約者の両親への挨拶となれば話は違うらしい。
「大丈夫だって」
和春は軽く言った。
「親父も母さんも、そんな堅苦しい奴じゃねぇから」
「それは分かりました」
「会ったことねぇだろ」
「冒険家と考古学者が夫婦で世界中を飛び回り、それを動画にして生活している時点で、少なくとも一般的なご両親ではないことは分かります」
「確かに」
「それに」
愛華は和春を見る。
「あなたを育てたご両親ですよ?」
「何だよ」
「何が出てくるか分からないという意味です」
「俺を何だと思ってんだよ」
「歩く専門書、化け物、異常な仕事量を平然と処理する人、コーヒーをまともに淹れられない人」
「最後いらねぇだろ!」
結衣が吹き出した。
「愛華ねぇ、おにぃの扱い完璧じゃん!」
「毎日一緒にいますから」
「さすが嫁!」
「まだ嫁ではありません」
そう答えながらも。
愛華は少し嬉しそうだった。
和春も笑う。
来月久しぶりに両親が帰ってくる。
そして初めて自分がこの先の人生を一緒に歩こうと決めた女性を、両親へ紹介する。
天城家への挨拶が終わり。
会社も大きく動き始め。
今度は神代家、四月から始まった変化は、まだまだ続きそうだった。


