瀬奈とアリシアは、正式な託児所の図面を見ながらしばらく話していた。
最初の課題としては上出来だった。
和春と愛華も、二人の相性についてはかなり手応えを感じている。
そんな中、瀬奈がふと先ほどの説明を思い出した。
「そういえば和春さん」
「ん?」
「さっき道場のお話ありましたよね?」
「ああ」
「経営を妹さんに任せるって言ってましたけど……」
アリシアも興味を持ったらしい。
「私も気になっていました。和春さんの妹さんって、どんな方なんですか?」
「結衣か?」
和春が答えようとした――その瞬間だった。
玄関の方から。
ドタドタドタドタッ!!
明らかに走ってくる音。
瀬奈とアリシアが同時にそちらを見る。
「え?」
「誰か来ました?」
そして次の瞬間。
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「おにぃいいいいいいいいいいいい!!」
「……」
和春が目を細める。
「うるせぇ」
ものすごい勢いで飛び込んできた一人の女性。
瀬奈とアリシアは完全に固まった。
「……妹さん?」
「たぶんな」
「たぶんって何ですか」
だが。
結衣は確かに。
「おにぃいいいい!!」
と叫んで入ってきた。
なのに。
和春を完全に素通りした。
「愛華ねぇぇぇぇぇ!!」
「え?」
愛華が振り返った瞬間。
ぎゅっ!!
「婚約おめでとおおおおお!!」
「ちょっ……結衣さん!?」
勢いよく抱きつかれ、さすがの愛華も身体が少し後ろへ持っていかれる。
「よかったぁぁぁ! ほんっとよかったぁぁぁ!」
「分かりました! 分かりましたから少し落ち着いてください!」
「だって愛華ねぇだよ!? 愛華ねぇがおにぃのお嫁さんになるんだよ!?」
「まだ結婚はしていません! 婚約です!」
「一緒じゃん!」
「違います!」
和春はその光景を眺めながらコーヒーを飲む。
「……お前さ」
「何!?」
結衣が愛華に抱きついたまま振り返る。
「『おにぃ』って叫んで入ってきたよな?」
「うん!」
「俺、完全に素通りされたんだけど」
「おにぃはいつでもいるじゃん」
「ここ俺ん家なんだから当たり前だろ」
「今日は愛華ねぇに会いに来たの!」
「じゃあ最初から愛華って叫べよ!」
「勢い!」
「意味分かんねぇよ」
瀬奈が口元を押さえている。
アリシアも笑っていた。
つい数秒前。
どんな人なのだろう。
道場を一つ任せるほどなのだから、きっと和春と同じように落ち着いた人なのかもしれない。
そんな想像をしていた。
全部吹き飛んだ。
「……この方が?」
瀬奈が聞く。
和春はため息をついた。
「妹の結衣」
「神代結衣でーす!」
結衣はようやく愛華から離れると、瀬奈とアリシアを見る。
そして。
止まった。
「……ん?」
アリシアを見る。
二度見。
三度見。
「…………アリシア?」
「はい。初めまして」
アリシアが笑顔で頭を下げる。
「アリシアです。和春さんには以前からお世話になっています」
「…………」
結衣が和春を見る。
アリシアを見る。
愛華を見る。
もう一度和春を見る。
「おにぃ」
「何」
「何で芸能界美人ランキング一位が普通に家にいるの?」
「仕事」
「説明が雑!」
「仕事なんだからそれ以外ねぇだろ」
瀬奈が吹き出した。
「あ、こっちは瀬奈」
「相沢瀬奈です。初めまして」
「初めまして! おにぃの彼女?」
「違います!!」
瀬奈がものすごい勢いで否定した。
「違うの?」
「違います!」
結衣がアリシアを見る。
「じゃあアリシアさん?」
「違いますよ」
「じゃあ――」
「何で俺の周りにいる女全員と付き合ってる前提なんだよ」
和春が呆れる。
結衣は当然のように言った。
「だっておにぃだし」
「どういう意味だよ」
「でももう愛華ねぇいるからダメだよ?」
「分かってるわ」
「浮気したら殺す」
「急に重てぇよ!」
「安心してください」
愛華が微笑む。
「その時は結衣さんが動く前に私が処理しますので」
「愛華まで怖ぇよ!」
アリシアが堪えきれず笑った。
瀬奈も笑っている。
そして瀬奈は思い出す。
「……あ」
「どうした?」
「今ちょうど結衣さんの話をしていたんですよ」
「私?」
結衣が自分を指差す。
「はい。新しいビルの道場フロアを経営される方が和春さんの妹さんだと聞いて、どんな方なのかなって」
「…………」
結衣の動きが止まった。
今度は。
和春を見る。
「おにぃ」
「何」
「道場フロアって何?」
「そこから説明してなかったわ」
「聞いてないんだけど!?」
「今から話そうと思ってた」
「私に!?」
「ああ」
「経営!?」
「ああ」
「聞いてないよおおおお!!」
再び事務所に結衣の声が響いた。
愛華が額を押さえる。
「結衣、近所迷惑です」
「愛華ねぇ! おにぃが勝手に私の人生決めてる!」
「安心してください。正式にはまだ何も決まっていません」
「ほんと!?」
「はい。和春が勝手に構想へ入れているだけです」
「よかったぁ!」
和春が普通に付け加える。
「まあ、お前ならやると思ってるけど」
「なんで!?」
「道場好きじゃん」
「好きだけど!」
「経営覚えられるぞ」
「……」
結衣が止まった。
「一般の門下生も取る。Boundary & Mindの社員は福利厚生で会社負担。設備は新しく作る。経営は基本お前に任せる」
「…………」
さっきまで騒いでいた結衣が。
急に考え始めた。
瀬奈が小声でアリシアに言う。
「……なんだかんだ興味ありそうですね」
「ですね」
結衣が顔を上げる。
「設備ってどのくらい?」
和春が笑った。
「ほら食いついた」
「まだやるって言ってないからね!」
「はいはい」
「その顔! 絶対私がやると思ってる!」
「思ってる」
「おにぃぃぃ!!」
また騒がしくなった。
瀬奈とアリシアは顔を見合わせる。
そして二人とも笑った。
どうやら。
Boundary & Mindは会社が大きくなるにつれて。
人も増えるが――。
騒がしさも相当増えていきそうだった。
最初の課題としては上出来だった。
和春と愛華も、二人の相性についてはかなり手応えを感じている。
そんな中、瀬奈がふと先ほどの説明を思い出した。
「そういえば和春さん」
「ん?」
「さっき道場のお話ありましたよね?」
「ああ」
「経営を妹さんに任せるって言ってましたけど……」
アリシアも興味を持ったらしい。
「私も気になっていました。和春さんの妹さんって、どんな方なんですか?」
「結衣か?」
和春が答えようとした――その瞬間だった。
玄関の方から。
ドタドタドタドタッ!!
明らかに走ってくる音。
瀬奈とアリシアが同時にそちらを見る。
「え?」
「誰か来ました?」
そして次の瞬間。
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「おにぃいいいいいいいいいいいい!!」
「……」
和春が目を細める。
「うるせぇ」
ものすごい勢いで飛び込んできた一人の女性。
瀬奈とアリシアは完全に固まった。
「……妹さん?」
「たぶんな」
「たぶんって何ですか」
だが。
結衣は確かに。
「おにぃいいいい!!」
と叫んで入ってきた。
なのに。
和春を完全に素通りした。
「愛華ねぇぇぇぇぇ!!」
「え?」
愛華が振り返った瞬間。
ぎゅっ!!
「婚約おめでとおおおおお!!」
「ちょっ……結衣さん!?」
勢いよく抱きつかれ、さすがの愛華も身体が少し後ろへ持っていかれる。
「よかったぁぁぁ! ほんっとよかったぁぁぁ!」
「分かりました! 分かりましたから少し落ち着いてください!」
「だって愛華ねぇだよ!? 愛華ねぇがおにぃのお嫁さんになるんだよ!?」
「まだ結婚はしていません! 婚約です!」
「一緒じゃん!」
「違います!」
和春はその光景を眺めながらコーヒーを飲む。
「……お前さ」
「何!?」
結衣が愛華に抱きついたまま振り返る。
「『おにぃ』って叫んで入ってきたよな?」
「うん!」
「俺、完全に素通りされたんだけど」
「おにぃはいつでもいるじゃん」
「ここ俺ん家なんだから当たり前だろ」
「今日は愛華ねぇに会いに来たの!」
「じゃあ最初から愛華って叫べよ!」
「勢い!」
「意味分かんねぇよ」
瀬奈が口元を押さえている。
アリシアも笑っていた。
つい数秒前。
どんな人なのだろう。
道場を一つ任せるほどなのだから、きっと和春と同じように落ち着いた人なのかもしれない。
そんな想像をしていた。
全部吹き飛んだ。
「……この方が?」
瀬奈が聞く。
和春はため息をついた。
「妹の結衣」
「神代結衣でーす!」
結衣はようやく愛華から離れると、瀬奈とアリシアを見る。
そして。
止まった。
「……ん?」
アリシアを見る。
二度見。
三度見。
「…………アリシア?」
「はい。初めまして」
アリシアが笑顔で頭を下げる。
「アリシアです。和春さんには以前からお世話になっています」
「…………」
結衣が和春を見る。
アリシアを見る。
愛華を見る。
もう一度和春を見る。
「おにぃ」
「何」
「何で芸能界美人ランキング一位が普通に家にいるの?」
「仕事」
「説明が雑!」
「仕事なんだからそれ以外ねぇだろ」
瀬奈が吹き出した。
「あ、こっちは瀬奈」
「相沢瀬奈です。初めまして」
「初めまして! おにぃの彼女?」
「違います!!」
瀬奈がものすごい勢いで否定した。
「違うの?」
「違います!」
結衣がアリシアを見る。
「じゃあアリシアさん?」
「違いますよ」
「じゃあ――」
「何で俺の周りにいる女全員と付き合ってる前提なんだよ」
和春が呆れる。
結衣は当然のように言った。
「だっておにぃだし」
「どういう意味だよ」
「でももう愛華ねぇいるからダメだよ?」
「分かってるわ」
「浮気したら殺す」
「急に重てぇよ!」
「安心してください」
愛華が微笑む。
「その時は結衣さんが動く前に私が処理しますので」
「愛華まで怖ぇよ!」
アリシアが堪えきれず笑った。
瀬奈も笑っている。
そして瀬奈は思い出す。
「……あ」
「どうした?」
「今ちょうど結衣さんの話をしていたんですよ」
「私?」
結衣が自分を指差す。
「はい。新しいビルの道場フロアを経営される方が和春さんの妹さんだと聞いて、どんな方なのかなって」
「…………」
結衣の動きが止まった。
今度は。
和春を見る。
「おにぃ」
「何」
「道場フロアって何?」
「そこから説明してなかったわ」
「聞いてないんだけど!?」
「今から話そうと思ってた」
「私に!?」
「ああ」
「経営!?」
「ああ」
「聞いてないよおおおお!!」
再び事務所に結衣の声が響いた。
愛華が額を押さえる。
「結衣、近所迷惑です」
「愛華ねぇ! おにぃが勝手に私の人生決めてる!」
「安心してください。正式にはまだ何も決まっていません」
「ほんと!?」
「はい。和春が勝手に構想へ入れているだけです」
「よかったぁ!」
和春が普通に付け加える。
「まあ、お前ならやると思ってるけど」
「なんで!?」
「道場好きじゃん」
「好きだけど!」
「経営覚えられるぞ」
「……」
結衣が止まった。
「一般の門下生も取る。Boundary & Mindの社員は福利厚生で会社負担。設備は新しく作る。経営は基本お前に任せる」
「…………」
さっきまで騒いでいた結衣が。
急に考え始めた。
瀬奈が小声でアリシアに言う。
「……なんだかんだ興味ありそうですね」
「ですね」
結衣が顔を上げる。
「設備ってどのくらい?」
和春が笑った。
「ほら食いついた」
「まだやるって言ってないからね!」
「はいはい」
「その顔! 絶対私がやると思ってる!」
「思ってる」
「おにぃぃぃ!!」
また騒がしくなった。
瀬奈とアリシアは顔を見合わせる。
そして二人とも笑った。
どうやら。
Boundary & Mindは会社が大きくなるにつれて。
人も増えるが――。
騒がしさも相当増えていきそうだった。


