リビングは静かだった。
ソファに預けられた重さが、ゆっくりと肩にかかっている。
天城愛華は完全に眠っていた。
呼吸は穏やかで、体はわずかにこちらへ傾いている。
神代和春は動かなかった。
動けなかった、と言った方が正しい。
隣にあるのは、相方兼メイドとしての彼女ではない。
ただ、無防備に眠る一人の女性だった。
銀髪が肩に落ちる。
少し着崩れたメイド服。
上着のボタンが一つ緩み、胸元がわずかに開いていた。
視線が一瞬だけ止まる。
――すぐに逸らした。
(……見るな)
自分に言い聞かせる。
体温が近い。
服越しでも分かる、確かな熱。
普段なら絶対に感じない距離だった。
愛華の指先が、無意識に和春の袖を掴んでいる。
眠ったままの仕草。
頼るような、離したくないような。
その小さな力に、胸の奥が静かに揺れた。
(……困るな)
誰に言うでもない独り言。
境界線。
それは守るためにある。
相手を守り、自分を守り、関係を壊さないための線。
今は、その線が曖昧だった。
肩に預けられた体は軽い。
折れてしまいそうなほど細く、柔らかい。
女性特有の甘い匂いが、静かに近い。
意識するなと言う方が無理だった。
和春はゆっくり息を吐く。
視線を天井へ逃がす。
(……大人だろ)
衝動で動く年齢じゃない。
だからこそ、選ばなければいけない。
彼女をここに寝かせたままでは、風邪を引く。
それだけの理由。
それだけでいい。
「……愛華」
小さく呼ぶ。
反応はない。
呼吸が深くなるだけだった。
和春は静かに体勢を変える。
腕を背中へ回す。
膝の下にもう片方の手を差し入れる。
――軽い。
想像していたよりも、ずっと。
抱き上げた瞬間、銀髪が揺れ、胸元の布がさらにわずかにずれる。
視線を横に逸らしたまま歩き出す。
見ない。
意識しない。
ただ運ぶだけ。
それなのに、腕に伝わる体温がやけに近かった。
廊下を進む。
愛華の部屋のドアを足で軽く押し開ける。
ベッドは整えられていた。
メイドらしい几帳面さ。
和春はゆっくりと彼女を寝かせる。
髪がシーツの上に広がる。
小さく寝息が漏れた。
胸元が少しだけ見えそうになり、和春は素早く視線を外した。
掛け布団を手に取り、そっとかける。
それだけの動作なのに、妙に神経を使う
距離が近い。
呼吸が触れそうなほど。
――危ない。
和春は一歩下がった。
愛華の寝顔を見る。
安心しきった表情。
毒舌も、冷静さもない。
ただ穏やかな顔。
(……こんな顔、外じゃ見せないよな)
小さく思う。
胸の奥が、わずかに温かい。
守りたいと思ってしまう自分がいる。
それが何なのか、まだ言葉にはできない。
和春は静かに背を向けた。
ドアノブに手をかける。
振り返らない。
境界線を越えないために。
「……おやすみ」
小さな声。
眠っている彼女には届かない言葉。
それでも、自然に出ていた。
ドアを閉める。
廊下に戻ると、空気が少し冷たく感じた。
自室の扉を開く。
ベッドに腰を下ろし、天井を見る。
心臓がまだ少し速い。
(……何やってるんだ)
苦笑が漏れる。
相方だ。
それ以上でも、それ以下でもないはずなのに。
ソファに預けられた重さが、ゆっくりと肩にかかっている。
天城愛華は完全に眠っていた。
呼吸は穏やかで、体はわずかにこちらへ傾いている。
神代和春は動かなかった。
動けなかった、と言った方が正しい。
隣にあるのは、相方兼メイドとしての彼女ではない。
ただ、無防備に眠る一人の女性だった。
銀髪が肩に落ちる。
少し着崩れたメイド服。
上着のボタンが一つ緩み、胸元がわずかに開いていた。
視線が一瞬だけ止まる。
――すぐに逸らした。
(……見るな)
自分に言い聞かせる。
体温が近い。
服越しでも分かる、確かな熱。
普段なら絶対に感じない距離だった。
愛華の指先が、無意識に和春の袖を掴んでいる。
眠ったままの仕草。
頼るような、離したくないような。
その小さな力に、胸の奥が静かに揺れた。
(……困るな)
誰に言うでもない独り言。
境界線。
それは守るためにある。
相手を守り、自分を守り、関係を壊さないための線。
今は、その線が曖昧だった。
肩に預けられた体は軽い。
折れてしまいそうなほど細く、柔らかい。
女性特有の甘い匂いが、静かに近い。
意識するなと言う方が無理だった。
和春はゆっくり息を吐く。
視線を天井へ逃がす。
(……大人だろ)
衝動で動く年齢じゃない。
だからこそ、選ばなければいけない。
彼女をここに寝かせたままでは、風邪を引く。
それだけの理由。
それだけでいい。
「……愛華」
小さく呼ぶ。
反応はない。
呼吸が深くなるだけだった。
和春は静かに体勢を変える。
腕を背中へ回す。
膝の下にもう片方の手を差し入れる。
――軽い。
想像していたよりも、ずっと。
抱き上げた瞬間、銀髪が揺れ、胸元の布がさらにわずかにずれる。
視線を横に逸らしたまま歩き出す。
見ない。
意識しない。
ただ運ぶだけ。
それなのに、腕に伝わる体温がやけに近かった。
廊下を進む。
愛華の部屋のドアを足で軽く押し開ける。
ベッドは整えられていた。
メイドらしい几帳面さ。
和春はゆっくりと彼女を寝かせる。
髪がシーツの上に広がる。
小さく寝息が漏れた。
胸元が少しだけ見えそうになり、和春は素早く視線を外した。
掛け布団を手に取り、そっとかける。
それだけの動作なのに、妙に神経を使う
距離が近い。
呼吸が触れそうなほど。
――危ない。
和春は一歩下がった。
愛華の寝顔を見る。
安心しきった表情。
毒舌も、冷静さもない。
ただ穏やかな顔。
(……こんな顔、外じゃ見せないよな)
小さく思う。
胸の奥が、わずかに温かい。
守りたいと思ってしまう自分がいる。
それが何なのか、まだ言葉にはできない。
和春は静かに背を向けた。
ドアノブに手をかける。
振り返らない。
境界線を越えないために。
「……おやすみ」
小さな声。
眠っている彼女には届かない言葉。
それでも、自然に出ていた。
ドアを閉める。
廊下に戻ると、空気が少し冷たく感じた。
自室の扉を開く。
ベッドに腰を下ろし、天井を見る。
心臓がまだ少し速い。
(……何やってるんだ)
苦笑が漏れる。
相方だ。
それ以上でも、それ以下でもないはずなのに。
