初恋は永遠に

 「(えっ?小学校の同窓会?なぜ今?)」

 ――俺の元に届いたのは小学校の同窓会のお知らせだった。

 
 詳細を読み進めると、どうやら先日オリンピックで金メダルを獲得した星空さんを祝う会も兼ねているみたいだった。

 もちろん今の俺がそんなものに出たいわけがない。


 こんな酷い有り様の生活をしている自分が順風満帆な彼女を心から祝えるのか…。

 もちろん行かないという選択肢一択だと言いたいのだが…

 ――待てよ。もう何年も目の前で見てない彼女がもう一度見られるかも知れない。

 そう。何年も会うことすらなかった彼女が主役としてその場に必ずやってくる。
 
 こんなチャンスは二度と無いかも知れない。


 考え抜いた俺は……同窓会へ行くことにした。

 「うわっ」

 担任の先生髪なくなってるじゃん。

 会場に着くなりそう周りを見渡していると――


 「おい、久しぶり!柿沢!お前いま何してんの?」

 「えっ…まぁ普通の会社で――」

 こうやって嘘をつくのは疲れる。

 だから来たくなかったんだけど、今日は星空さんの姿を久々に眺めることが出来る日だから我慢しないと……

 オシャレなパーティー会場で俺は、久しぶりにスーツに身を包みシャンパンを片手に必死に作り笑顔を振りまいていた。

 「さぁお待たせしました!本日のパーティーの主役でもあるこの方に出てきて頂きましょう!世界の氷上の姫である星空雪菜さんです!」
 
 そう紹介され華麗に出てきたのは、いつもとは違った大人っぽい黒のドレス姿に身を包んだ星空さんであった。

 「やっぱり今でも綺麗で可愛いねー」

 「うわっ本物を見ちゃったよ」

 「あとで写真撮ってもらおう」

周りが一気にザワつき会場は一番の盛り上がりを見せる。


 本当にあの頃の面影がそのまま残っている。
 透き通るような白い肌、スラリと伸びた手足、黒く煌びやかな長い髪、流石に臭いまではわからないけど。

 そうやって彼女を眺める時間はあっという間に過ぎていった。

 これでは小学校の頃と全く一緒の状況ではあるが、これもまた懐かしい状況ではあった。


「(あーやっぱりお酒呑むとトイレ近くなるって本当だなぁ)」

 トイレを済ませた俺はそう呑気に考えて会場に戻ろうとしていたその時だった。

――バサッ!!――

 誰かが勢いよくぶつかってきて、ぶつかった相手が倒れこんだのがわかった。

 
 「だ…大丈夫ですか?」

そう言って俺が手を差し伸べた相手は…

 「…ありがとう…って柿沢くん?」

 …そう。


 まさかの星空さんだった。

 その瞬間俺の体温が一気に上がり鼓動が今にも爆発しそうなぐらいに跳ね上がっていた。

 
 「うん。柿沢だけど…そんなに――」
 
 「ごめんなさい…ちょっと急いでいて。手を貸してくれてありがとう」

 若干大人びていたが当時と変わらない可愛らしい声だった。

 そんな彼女は俺の差し伸べた手を温かい手で握り返して足早に去っていった。


 彼女に手を握ってもらったのなんて初めてなこともあり、ニヤケたまま会場内に戻る俺だった。

 「あのさ星空さん何かあったの?」

ニヤケた顔を戻しつつ仲のよかった同級生に聞いてみた。

 「あぁ。何か急用みたいだって。血相を変えて出ていったよ」

 「心配だよな」

 
 そう話しているうちに、同窓会はお開きになり星空さんの居ない二次会になどもちろん興味はなく、この日の俺は家に帰ることにした。


 「よっしゃ!ラスボス倒したぜ」

 あの同窓会から数日が経過したある日。

 「拓哉~買い物~」
 
 あれ以降は再び自宅警備員を続けていた俺にまたしても買い物の指令が入った。

 足取り重くリビングに入ると……。


 「けさ元オリンピック金メダリストの星空雪菜さんが――」

 また星空さんのニュースか…。

 今度はどんなめでたいニュースが――


 「自宅のマンションで自殺しているのを――」


 俺は一気に顔が青ざめていった。

 「う…そ…だろ」

 
 「星空さんのお腹には――」


 彼女は自宅のマンションで自殺をした。
 彼女のお腹の中には赤ちゃんが居たようだ。
 さらに数日前に旦那さんが事故で亡くなっていたとニュースで報じられていた。


 俺はその場に崩れ落ちた。

 あの時――最後に握った彼女の手はあんなに温かかったのに…。

 彼女をあのまま行かせてはならなかったってことなのか。

俺は項垂(うなだ)れて暫く動けなかった。