【初見さん歓迎】全世代アイドルソング歌みた配信ちゅ~♡#坂上アイリン/Virtualアイドル
仕事帰りに推しの生配信を肴にビールをあおる日々に、どこか味気なさを感じていた冬の日。
そんなタイトルの動画がおすすめ欄に上がって来た。
「……へえ」
左上には赤い文字で【LIVE】と記載されている。つまり、今生放送中の動画だ。
いつも見ている推しの配信者は今日はお休み。
どうせ、寝るまで動画サイトの海をぼーっと眺めるだけなんだ。
「たまには新しい子でも漁りに行きますかねー」
そんな気持ちで、俺はその子の配信をクリックした。
◇
『あっ!1人来てくれた!会えて嬉しい~!』
画面いっぱいに飛び込んできたのは、吸い込まれそうな焦げ茶色の瞳。
アイドルグループのセンターみたいなキラキラしたピンクの衣装に、黒髪ロングのストレートヘアー。量産型の3Dモデルは、正直あまりクオリティは高くない。
まあ、個人勢ならこんなもんだよな。
画面の向こうの彼女が俺に向かってぱちっとウインクする。
『それじゃあ自己紹介始めるねっ!私、坂上(さかがみ)アイリン!歌って踊るのが大好きな、キミだけのVirtualアイドルだよー!よろしくね♡』
キミだけとかさっむ……っておい。マジで俺1人じゃん。
何気なく同時接続欄を見ると、そこに表示されていたのは"1人"。
つまり俺だけだ。
よくよく見れば、LIVE中のコメントも0件だ。
「うわー……まじ?……だる、帰ろ」
ヤバい動画クリックしちまった。
面倒だからブラウザバックのボタンを押そうとした瞬間、
『あ!待って待って帰らないで!』
アイリンが困った顔で俺に向かって手を伸ばした。
……今どきの配信者って、こっちの挙動分かるのか?配信したこと無いから分からないが。
『ねえ、キミの好きな歌教えて?私、キミの為だけに歌って踊るから!』
「……」
"キミの為だけ"。
そう言われると悪い気はしない。
アイリンの透き通る様な声は聴き心地が良い。現実に居そうな素朴な顔も結構タイプだし、どうせこっから先は寝るだけ。
「……じゃあ、無難なアイドルソングでいいか」
取りあえず誰もが知ってる超有名アイドルソングのタイトルを打ち込んだ。
俺のコメントを見たアイリンが、ぱあっと顔を輝かせた。
『わあっ!私この曲大好き!』
『任せて任せてっ!アイリンオンステージ、スタート!』
俺がリクエストした曲のイントロに合わせ、アイリンが歌って踊り始める。
歌は上手いし、ダンスは華があって目を引く。
……へえ、悪くないじゃん。
『リクエストありがとう~!どうだった?』
≫良かったよ
『やったあ!今日は24時まで配信予定だから、まだまだリクエストしてねっ!え~っと、ケイ……さん?』
アイリンに呼ばれて、不覚にもちょっとときめいた。
俺のユーザーネームは、本名そのままのKEIだ。
『ねえねえケイさん!私、昭和から令和までい~っぱいアイドルソング歌えるからさ!遠慮しないでリクエストしてくれたら嬉しいなっ!あ、ネットで有名なバーチャルシンガーの曲でもOKだよ!』
それは守備範囲が広いな。
なんだか楽しくなって、俺は定番のアイドルソングを数曲リクエストした。
アイリンは俺のコメントに応え、ニコニコ笑顔で俺1人の為に歌って踊ってくれた。
そう、今日のLIVE配信は結局最後まで視聴者は俺1人のままだった。
『明日も23時から配信するから会いに来てねっ!ずっとずーっと、待ってるからね!』
≫おつー
俺がコメントすると、アイリンは猫の様な瞳をニコっと細めた。愛嬌たっぷりに笑顔を振りまいて、カメラに近づいて配信を切った。
俺は黒くなった画面を見ながらぐぐっと伸びをした。
いや……意外とイイなコレ。
今の推しは大手Virtualアイドル事務所に所属している、名の知れた有名配信者だ。
コメントしても高速で流れるだけだし、リクエストが通った事も無い。
でも、アイリンには俺しかいない。
キラキラした笑顔も、全身をしなやかに使った華があるパフォーマンスも、全部俺一人の為だけにやってくれた。
そんな経験は、俺の推し活人生で初めての事だった。
「……推し変、するかも」
手元の温くなったビールをあおって、俺は自然と笑みを浮かべた。
画面の中のアイリンのチャンネルにカーソルを進め、”チャンネル登録”をクリックした。
その瞬間。
――ドンッ。
背後のロフトの方から音がした気がして、振り返って上を見た。
「……気のせいか」
大方上階の音だろう。
このマンション、駅近だけど壁も床も薄いんだよな。
1DKロフト付きにしちゃ破格だから、文句は言えないけど。
俺はノートパソコンをシャットダウンして、床に敷かれていた布団に潜りこんだ。
仕事帰りに推しの生配信を肴にビールをあおる日々に、どこか味気なさを感じていた冬の日。
そんなタイトルの動画がおすすめ欄に上がって来た。
「……へえ」
左上には赤い文字で【LIVE】と記載されている。つまり、今生放送中の動画だ。
いつも見ている推しの配信者は今日はお休み。
どうせ、寝るまで動画サイトの海をぼーっと眺めるだけなんだ。
「たまには新しい子でも漁りに行きますかねー」
そんな気持ちで、俺はその子の配信をクリックした。
◇
『あっ!1人来てくれた!会えて嬉しい~!』
画面いっぱいに飛び込んできたのは、吸い込まれそうな焦げ茶色の瞳。
アイドルグループのセンターみたいなキラキラしたピンクの衣装に、黒髪ロングのストレートヘアー。量産型の3Dモデルは、正直あまりクオリティは高くない。
まあ、個人勢ならこんなもんだよな。
画面の向こうの彼女が俺に向かってぱちっとウインクする。
『それじゃあ自己紹介始めるねっ!私、坂上(さかがみ)アイリン!歌って踊るのが大好きな、キミだけのVirtualアイドルだよー!よろしくね♡』
キミだけとかさっむ……っておい。マジで俺1人じゃん。
何気なく同時接続欄を見ると、そこに表示されていたのは"1人"。
つまり俺だけだ。
よくよく見れば、LIVE中のコメントも0件だ。
「うわー……まじ?……だる、帰ろ」
ヤバい動画クリックしちまった。
面倒だからブラウザバックのボタンを押そうとした瞬間、
『あ!待って待って帰らないで!』
アイリンが困った顔で俺に向かって手を伸ばした。
……今どきの配信者って、こっちの挙動分かるのか?配信したこと無いから分からないが。
『ねえ、キミの好きな歌教えて?私、キミの為だけに歌って踊るから!』
「……」
"キミの為だけ"。
そう言われると悪い気はしない。
アイリンの透き通る様な声は聴き心地が良い。現実に居そうな素朴な顔も結構タイプだし、どうせこっから先は寝るだけ。
「……じゃあ、無難なアイドルソングでいいか」
取りあえず誰もが知ってる超有名アイドルソングのタイトルを打ち込んだ。
俺のコメントを見たアイリンが、ぱあっと顔を輝かせた。
『わあっ!私この曲大好き!』
『任せて任せてっ!アイリンオンステージ、スタート!』
俺がリクエストした曲のイントロに合わせ、アイリンが歌って踊り始める。
歌は上手いし、ダンスは華があって目を引く。
……へえ、悪くないじゃん。
『リクエストありがとう~!どうだった?』
≫良かったよ
『やったあ!今日は24時まで配信予定だから、まだまだリクエストしてねっ!え~っと、ケイ……さん?』
アイリンに呼ばれて、不覚にもちょっとときめいた。
俺のユーザーネームは、本名そのままのKEIだ。
『ねえねえケイさん!私、昭和から令和までい~っぱいアイドルソング歌えるからさ!遠慮しないでリクエストしてくれたら嬉しいなっ!あ、ネットで有名なバーチャルシンガーの曲でもOKだよ!』
それは守備範囲が広いな。
なんだか楽しくなって、俺は定番のアイドルソングを数曲リクエストした。
アイリンは俺のコメントに応え、ニコニコ笑顔で俺1人の為に歌って踊ってくれた。
そう、今日のLIVE配信は結局最後まで視聴者は俺1人のままだった。
『明日も23時から配信するから会いに来てねっ!ずっとずーっと、待ってるからね!』
≫おつー
俺がコメントすると、アイリンは猫の様な瞳をニコっと細めた。愛嬌たっぷりに笑顔を振りまいて、カメラに近づいて配信を切った。
俺は黒くなった画面を見ながらぐぐっと伸びをした。
いや……意外とイイなコレ。
今の推しは大手Virtualアイドル事務所に所属している、名の知れた有名配信者だ。
コメントしても高速で流れるだけだし、リクエストが通った事も無い。
でも、アイリンには俺しかいない。
キラキラした笑顔も、全身をしなやかに使った華があるパフォーマンスも、全部俺一人の為だけにやってくれた。
そんな経験は、俺の推し活人生で初めての事だった。
「……推し変、するかも」
手元の温くなったビールをあおって、俺は自然と笑みを浮かべた。
画面の中のアイリンのチャンネルにカーソルを進め、”チャンネル登録”をクリックした。
その瞬間。
――ドンッ。
背後のロフトの方から音がした気がして、振り返って上を見た。
「……気のせいか」
大方上階の音だろう。
このマンション、駅近だけど壁も床も薄いんだよな。
1DKロフト付きにしちゃ破格だから、文句は言えないけど。
俺はノートパソコンをシャットダウンして、床に敷かれていた布団に潜りこんだ。



