【LIVE】キミだけのVirtualアイドル配信中♡

『先輩、実……アイリンのお姉さんがSN……探しているんです。……会って、貰――せんか?』

ロフト内はフローリングの床に、白い壁に埋め込まれた小窓。その真下にコンセントがあるだけの殺風景な内装だ。
ロフトに上がってから急に、スマホの電波が弱まる。ザアザアと荒いノイズが、好見の声と混ざり合ってスピーカーから吐き出される。
事故現場であるロフトは成人男性には狭いが、小柄な成人女性なら横になれるくらいのスペースがある。
ああそういえば、配信で見たアイリンは小柄で華奢だった。

『先輩?』
「ああ、悪い。ちゃんと聞いてる。……それ、明日以降でも良いか?」
『――いい……けど。もう夜、――』

どこからか焦げたような臭いが鼻を刺す。今まで平然と生活していたのが急に信じられなくなって、俺の心臓はバクバクと痛いくらい体に血液を送り始める。
なんで今まで、これに気づかなかったんだ……?

『なんか……電――先ぱ……今ど――』

耳元でザアザアとノイズが激しくなり、通信が不安定になる。

「好見。休日なのに色々と心配かけて悪かった。今度飯でも奢る。……じゃあ、切るぞ」
『待っ――!!今日……絶対にアイリン……LIVE配信は見ないで下さい!!”今”坂上アイリンが配信するなん……絶対、おかしい……!!――……!!』

ブツッと鈍い音を立てて、通話が強制的に途切れた。

「……悪いな。それは出来ない」

俺は彼女のファンとして、この部屋の現住人として、彼女の配信を見なければいけない。
スマホのロック画面は20時14分を指してる。大丈夫、まだ時間はある。

「コンセントはあそこか」

小窓の真下をスマホで照らすと、小さなコンセントプラグが照らされる。元は白かっただろうに、今は黒い煤だらけだ。
俺は立ち上がって、不自然なほど白い壁をなぞった。
上から新しい壁紙を張っただけの壁は、左端が少しめくれている。
少し躊躇したが、俺はそのめくれた端を引っ張って剥がした。

「ヒッ……!?」

露わになった塗り壁は、どす黒い煤に覆われている。
ぼこぼこと所々隆起して、まばらに黒と灰色が混ざり合う壁は人の顔の様にも見える。
コンセントプラグに向かって漆黒に染まる塗り壁は、8月20日の事故の痕が生々しく刻まれてる。

「アイ、リン……」

――本当に、君はこんな場所で死んだのか……?

呼吸の浅くなった俺は踵を返した。手早く梯子を下りてロフトを後にする。
何かに憑りつかれる様にノートパソコンを起動して、好見から送られたアイリンのチャンネルとSNSにアクセスした。

俺は画面に視線を戻し、食い入るようにアイリンが残した痕跡を追い駆けた――。