【LIVE】キミだけのVirtualアイドル配信中♡

ガン、ガンッと音を立てて、俺は自分の部屋の扉の前に着いた。
すっかり日が落ちきって暗い。こんな日に限って、夜空には星の1つも浮かびやしない。
肩に担いでいた梯子をインターホンの隣に立て掛け、鍵をノブの中心の鍵穴に差し込んだ。

「……」

指先が微かに震え、鍵と鍵穴の接合部がカチカチと音を立てる。
多分これは、冬の寒さのせいじゃない。

「……行くか」

呼吸を整えて、俺は鍵を回して404号室の扉を開けた。

梯子と共に自室に入った俺は、すぐに壁際の電気を付けた。
1DKロフト付きの部屋は、入った時点でほぼ全てが見渡せる。梯子をロフトの真下の壁に立て掛けた瞬間、

――ヴー!ヴー!

「っ!?」

びくりと肩が跳ねた。机の上に放られたままのスマホから着信を知らせるバイブレーションが鳴り、狭い室内に響いていた。
俺は梯子から手を放して、繋がりっぱなしの充電ケーブルを引き抜いてディスプレイを見た。

【好見さんからの着信です】

「……やべ」

完全に忘れていた。
正直、今すぐにロフトを確認したい。だか、これ以上好見を放置するわけにもいかない。
少し逡巡したが、俺は梯子に手をかけながら、スマホの通話アイコンをタップした。

「もしもし」
『あー!やっと繋がった!!先輩マジでなんかあったんすか!?チャットも電話も出ねえし!』
「悪かった。ちょっと立て込んでた。……どうした、急用か?」
『……あの、聞きたいことがあるんすけど』
「なんだ?」

俺はスピーカーを耳に当てながら、ロフトへ繋がる梯子を空いている方の手で掴んで昇り始めた。
シーリングライトの傘が光を遮って、頭上のロフトの内装が見えない。

『えっと、……その……』

普段ハキハキしている好見が口ごもるのは珍しい。
待っている時間が惜しくて、俺はスマホを耳元から離してハンズフリー通話に切り替えた。
スマホのライトを点け、俺は最後の足場を上り切った。
前屈みになってロフトを覗き込む。同時に、好見が意を決したように声を上げた。

『”坂上アイリン”の事なんすけど』

その瞬間異様な空気を感じ、ゾクリと肌が粟立った。
ロフト内部を、スマホの頼りない明かりを左右に振って見渡す。

「……アイリンがどうした?」
『先輩、坂上アイリンと出会ったのって一週間前くらいっすよね?』
「ああ」

ロフトの入り口の右隣にあるサイドレールを掴む。
その瞬間、ざり、と不思議な感触がした。――焼けて変形した、鉄の感触だ。

『そっから毎日、アイリンは動画サイトでLIVE配信してるって……そう言ってましたよね?』
「そうだ。……なんで改まって、そんな事を聞くんだ?」
『先輩、聞いて下さい。”坂上アイリン”は、今年の8月20日から消息不明になっています』
「……は?」

何言ってるんだ?
そんなはずがない。だって、俺はアイリンと出会ってから毎日欠かさずに彼女のLIVE配信を見ているんだから。
ピロンッと無機質な電子音がして、俺と好見のメッセージチャットにURLが貼られる。
俺は好見との通話を繋いだまま、チャットアプリを開いた。

■2026.12.20 19:45~ 橘田と好見のメッセージチャット。

≫これが坂上アイリンのチャンネルです。↓
 https://virtual1196//irene810-official.com

≫SNSはこれ↓
 https://sakagami-aylin810//sns.com

『……違いますよね?先輩が教えてくれたURLと。先輩が教えてくれたURLには、俺も他の人も入れませんでした。……先輩以外入れないんですよ。”今の”アイリンのLIVE配信には』
「え……?」

俺は急いで送られたリンク先に飛んだ。
好見の言う通り、チャンネルとSNSの更新は8月19日を最後に不自然に途切れている。
”8月20日”から今日に至るまで、何の投稿も無い。
だが、チャンネルのアイコンやSNSのプロフィールアカウントは俺が出会ったアイリンそのものだ。
――8月、20日?
俺はさっき大家の部屋で見た調書を思い出す。

”司法解剖の結果、死亡は2026年8月20日とされる”。

背筋に冷や汗が伝う。
まさか、そんなはずは無い。
Virtualアイドルの失踪と、夏の大規模停電による404号室での前住人の死亡事故。
繋がりそうに無い2つの事象が、俺の中で1つの線を結んだ。

まさか坂上アイリンは――俺が今居る、404号室のロフトで死んだのか?