記録 - 2025年3月、川瀬家の83日間

【映像記録 #001】
日付:2025年3月3日 19:42
撮影者:川瀬誠(かわせまこと)
場所:自宅リビング
ファイル名:IMG_0001.MP4
[画面は暗く、手ブレが激しい。天井、床、壁が目まぐるしく映る]
誠の声:「あー、これ、録画できてる? 赤いランプ...ああ、ついてるな」
[カメラが安定する。リビングのソファが映る。テレビの音。誰かがバラエティ番組を見ている音声]
美咲(みさき)の声(キッチンの方から):「誠さん、何してるの?」
誠:「いや、ちょっと...記録残そうかなと思って」
[カメラがキッチンの方へパン。エプロン姿の美咲が振り返る。手には菜箸。困惑した表情]
美咲:「記録? 急にどうしたの?」
誠:「田中さん、亡くなったじゃん。会社の。同い年なのに、心筋梗塞で」
美咲:「ああ...そうだったわね」
誠:「でさ、考えたんだよ。俺らの日常って、何も残らないじゃん。写真だって最近撮ってないし。子供たちもあっという間に大きくなって...」
[カメラが再び美咲を捉える。美咲は苦笑している]
美咲:「まあ、いいけど...変なの撮らないでよ。すっぴんだし」
誠:「大丈夫、大丈夫」
結衣(ゆい)の声(2階から):「お父さん、何してんの?うるさい」
誠(カメラを2階に向けながら):「記録だよ、記録! 降りてこい!」
結衣の声:「やだ。勉強中」
(れん)の声(さらに奥から):「俺も撮るの? やだよ、恥ずかしい」
誠:「恥ずかしがんな。家族の記録なんだから」
美咲:「ほら、みんな嫌がってるじゃない。ご飯できるから、それより手伝って」
[カメラがキッチンへ向かう。揺れる画面]
誠:「わかった、わかった。でも続けるぞ、これ」
美咲:「はいはい。三日坊主にならなきゃいいけど」
[映像終了 / 録画時間:1分47秒]


【映像記録 #002】
日付:2025年3月3日 20:15
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0002.MP4
[ダイニングテーブルに並ぶ四人の家族。カメラは誠の定位置、テーブルの端に固定されている]
誠の声:「じゃあ、川瀬家の記念すべき最初の晩餐です」
蓮(13歳、中学の制服姿):「晩餐って...普通の夕飯じゃん」
結衣(17歳、ジャージ姿):「お父さん、マジでこれ続けるの?」
誠:「当たり前だろ。お前らが大人になったとき、絶対いい思い出になるって」
結衣:「思い出は思い出のままでいいんだけど...」
美咲:「まあまあ。お父さんがやりたいならやらせてあげなさい。さ、冷めないうちに食べよ」
[四人が箸を取る。肉じゃが、サラダ、味噌汁の並ぶ食卓]
蓮:「いただきます」
誠:「いただきます。あ、蓮、今日学校どうだった?」
蓮:「普通。あ、でも野球部の練習きつかった。先輩が厳しくて」
誠:「そっか。でも頑張れよ。結衣は?」
結衣:「別に。勉強」
誠:「もうちょっと詳しく」
結衣(箸を止めて):「だから勉強。受験生なんだから当たり前でしょ」
美咲:「誠さん、尋問みたいにならないの」
誠:「いや、記録として残したいじゃん」
結衣:「記録なら日記でも書けば?」
蓮(笑いながら):「お父さん、嫌われてる」
誠:「お前もな」
[家族が笑う。自然な会話が続く]
美咲:「明日、蓮の授業参観よね」
蓮:「あ、そうだった。お母さん来る?」
美咲:「もちろん。お父さんは?」
誠:「仕事あるから無理。ごめんな」
蓮:「別にいいよ。お父さん来ても何もしないし」
誠:「おい」
[再び笑い声]
[15分ほど食事シーンが続く。何気ない日常会話]
美咲:「ねえ、このカメラいつまで回すの?」
誠:「バッテリーあるかぎり」
結衣:「マジで?」
誠:「嘘。もうすぐ止める。でもさ、こういう普通の時間が一番大事なんだって」
美咲:「...そうね」
[美咲の表情が一瞬、曇る。しかしすぐに笑顔に戻る]
[映像終了 / 録画時間:23分12秒]


【映像記録 #003】
日付:2025年3月4日 07:20
撮影者:川瀬誠
場所:玄関
ファイル名:IMG_0003.MP4
[朝の慌ただしい玄関。結衣が靴を履いている]
誠の声:「おはよう、結衣」
結衣:「...おはよう。って、朝からカメラ?」
誠:「記録は続けるって言っただろ」
結衣:「マジでやんの。お父さん、暇人?」
誠:「失礼な。仕事行く前の記録だ」
[蓮が階段を駆け下りてくる]
蓮:「やば、遅刻する!」
美咲の声(キッチンから):「蓮、お弁当!」
蓮:「あ、忘れてた!」
[蓮がキッチンへ走る。結衣が呆れた顔でカメラを見る]
結衣:「毎朝これだから。じゃあ行ってきます」
誠:「おう、気をつけろよ」
[結衣が玄関を出る。入れ替わりに蓮が戻ってくる]
蓮:「行ってきまーす!」
誠:「蓮、制服のボタン外れてるぞ」
蓮:「マジで? あ、ほんとだ。ありがと」
[蓮がボタンを留めながら出ていく]
美咲(画面に入ってくる):「あなたも早く支度しないと」
誠:「わかってる」
美咲:「本当に続けるの?このカメラ」
誠:「うん。だめ?」
美咲:「だめじゃないけど...まあ、いいわ。好きにして」
[美咲がキッチンに戻る。カメラが美咲の背中を捉える]
誠の声(独り言のように):「大事な記録になるはずなんだけどな...」
[映像終了 / 録画時間:3分05秒]


【メモ書き】
発見日:2025年5月26日
発見場所:川瀬誠の書斎の引き出し
筆跡:川瀬誠
3月4日

記録を始めて2日目。
家族は半分呆れているが、俺は本気だ。
田中の葬式で、彼の奥さんが言っていた。
「何も残っていない。写真も動画も、ほとんど撮っていなかった」と。

俺たちの日常は、当たり前すぎて記録する価値がないと思われている。
でも違う。
この何気ない時間こそが、一番大切なんだ。

美咲も子供たちも、いつか俺に感謝するだろう。


【映像記録 #007】
日付:2025年3月7日 22:34
撮影者:川瀬誠
場所:寝室
ファイル名:IMG_0007.MP4
[寝室。ベッドに横になる誠の視点。カメラは三脚に固定されている]
誠の声:「今日も一日お疲れ様でした、川瀬家」
美咲の声(ベッドの反対側から):「ねえ、寝室でも撮るの?」
誠:「記録だから」
美咲:「でも寝てる間は何も起きないでしょ」
誠:「そうだけど...なんか、続けないと意味ない気がして」
美咲:「変なの」
[しばらく沈黙]
美咲:「ねえ、誠さん」
誠:「ん?」
美咲:「本当に、田中さんのことがきっかけなの? このカメラ」
誠:「...うん。まあ、それもあるけど」
美咲:「他に何かあるの?」
[沈黙]
誠:「...不安なんだ」
美咲:「何が?」
誠:「わかんない。でも最近、すごく不安で。この幸せがいつか終わるんじゃないかって」
美咲:「...」
誠:「バカみたいだろ。でも、形に残したいんだ。今のうちに」
美咲:「そう...」
[再び沈黙。時計の秒針の音だけが響く]
美咲:「じゃあ、おやすみ」
誠:「おやすみ」
[部屋の明かりが消える]
[暗闇の中、規則正しい寝息]
[映像は延々と続く。タイムコードが進む]
[23:45...00:00...00:30...]
[01:15、画面に変化はない。ただ暗いだけ]
[02:00...02:30...]
[02:47:13]
[突然、カメラの録画が停止する]
[映像終了 / 録画時間:4時間13分22秒]


【映像記録 #008】
日付:2025年3月8日 02:47
撮影者:不明
場所:寝室
ファイル名:AUTO_REC_001.MP4
[画面が真っ暗]
[かすかな音。電子機器の起動音]
[徐々に映像が浮かび上がる。寝室。前の映像と同じアングル]
[ベッドで眠る誠と美咲のシルエット]
[規則正しい寝息]
[00:00:00...00:01:00...00:02:00...]
[00:03:22]
[画面右下、ベッドの足元]
[何かが動く]
[人の形をした影]
[しかし誰もいないはずの場所]
[影は静止している。じっと、ベッドを見つめているように見える]
[00:04:15]
[影が消える]
[何も変化のない映像が続く]
[00:09:47]
[カメラが突然停止]
[映像終了 / 録画時間:9分47秒]


【映像記録 #009】
日付:2025年3月8日 07:05
撮影者:川瀬誠
場所:寝室
ファイル名:IMG_0009.MP4
[目覚まし時計の音]
誠の声:「んん...朝か...」
[カメラを手に取る誠。ピントが合っていない]
誠:「あれ? バッテリー切れてる...」
美咲の声:「何?」
誠:「カメラ。昨日の夜、フル充電したはずなのに」
美咲:「つけっぱなしだったんじゃないの?」
誠:「いや、タイマーで4時間で切れるように設定したんだけど...」
[カメラの設定画面を操作する音]
誠:「変だな...録画時間が...」
美咲:「どうしたの?」
誠:「昨日の夜の録画、4時間13分で終わってるんだけど、その後にもう一つファイルがある」
美咲:「誤作動じゃない?」
誠:「かもな...」
[カメラを三脚に戻す音]
誠:「まあいいや。見てみるか、後で」
美咲:「ねえ、誠さん」
誠:「ん?」
美咲:「...なんでもない。気をつけて行ってらっしゃい」
[映像終了 / 録画時間:2分18秒]


【テキストメッセージ履歴】
送信者:川瀬結衣
受信者:佐藤美月(さとうみづき)(友人)
日時:2025年3月8日 12:23
結衣:ねえ、最近ウチのお父さん、変なんだけど
美月:どうしたの?
結衣:毎日カメラ回してる。家族の記録とか言って
美月:え、それヤバくない?
結衣:マジでうざい。朝も夜もずっと
美月:盗撮みたいじゃん
結衣:だよね。でもお父さん、最近様子おかしいんだよね
美月:どういうこと?
結衣:なんか...怯えてる? みたいな
美月:お父さんが?
結衣:うん。夜中に何度も起きてるみたいだし
美月:ストレス?
結衣:わかんない。でも家の雰囲気がちょっと変
美月:大丈夫?
結衣:たぶん。お父さんの気のせいだと思う
美月:そっか。気をつけてね
結衣:うん、ありがと


【映像記録 #015】
日付:2025年3月8日 20:48
撮影者:川瀬誠
場所:書斎
ファイル名:IMG_0015.MP4
[誠の書斎。パソコンのモニターが明るく光っている]
[カメラは誠の横、デスクの上に置かれている]
誠の声:「えーっと...昨日の夜の映像を...」
[マウスをクリックする音]
[モニターに再生される映像。真っ暗な寝室]
誠:「何も映ってないな...」
[早送りする音]
誠:「...これ、何時間撮ってんだ? 10分弱か」
[さらに早送り]
誠:「...ん?」
[再生速度を通常に戻す音]
[モニターを凝視する誠]
誠:「...これ、何?」
[マウスを操作する音。映像を巻き戻す]
誠:「...いや、ノイズか? それとも...」
[同じ箇所を何度も再生する]
誠:「...気のせいだよな」
[しばらく沈黙]
誠:「美咲?」
美咲の声(廊下から):「何?」
誠:「ちょっと来て」
[足音。ドアが開く]
美咲:「どうしたの?」
誠:「これ見て」
[椅子に座る音]
美咲:「何を見ればいいの?」
誠:「ここ。ほら、ベッドの足元」
[沈黙]
美咲:「...何も見えないけど」
誠:「よく見て。影みたいなのが...」
美咲:「ノイズじゃないの? 暗いから」
誠:「でも、形が...人みたいじゃない?」
美咲:「...」
誠:「なあ、変だよな?」
美咲:「...誠さん」
誠:「ん?」
美咲:「最近、疲れてない?」
誠:「いや、別に」
美咲:「寝不足なんじゃないの?夜中に何度も起きてるみたいだし」
誠:「...起きてたかな」
美咲:「起きてたわよ。昨日も、一昨日も」
誠:「...」
美咲:「カメラのことばっかり考えてるから。少し休んだら?」
誠:「でも、これ...」
美咲:「ただのノイズよ。心配しすぎ」
[美咲が立ち上がる音]
美咲:「早く寝なさい。明日も仕事でしょ」
誠:「...うん」
[ドアが閉まる音]
[一人になる誠]
誠(独り言):「...ノイズか」
[モニターを見つめる]
誠:「...でも」
[映像終了 / 録画時間:5分42秒]


【音声記録 #001】
日付:2025年3月8日 23:15
録音者:川瀬蓮
場所:蓮の部屋
ファイル名:Voice_001.m4a
[ベッドに入る音。布団の擦れる音]
蓮の声(独り言):「明日、数学のテストか...嫌だな」
[しばらく沈黙]
蓮:「...お父さん、最近変だよな」
[寝返りを打つ音]
蓮:「カメラばっか。何が楽しいんだろ」
[あくび]
蓮:「まあいいや。寝よ」
[部屋の明かりを消す音]
[沈黙]
[規則正しい寝息]
[00:15:00経過]
[突然、何かが落ちる音。ドサッ]
蓮:「んん...何?」
[起き上がる気配]
蓮:「...教科書か。落ちたのか」
[再び横になる音]
[沈黙]
[00:23:47]
[かすかな音]
[誰かが話している?しかし聞き取れない]
[蓮の寝息は規則正しいまま]
[00:24:15]
[はっきりと、声]
「...かえして...」
[女性の声。老婆のような、しわがれた声]
[蓮は眠ったまま]
[00:24:30]
「...みさき...かえして...」
[声は消える]
[以降、何も起きない]
[録音終了 / 録音時間:2時間47分03秒]


【映像記録 #019】
日付:2025年3月9日 07:30
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0019.MP4
[朝食の風景。トーストとコーヒー、目玉焼き]
誠の声:「おはよう」
結衣:「...おはよう」
蓮:「おはよ」
美咲:「はい、お味噌汁」
[四人が席につく]
誠:「今日も一日頑張ろうな」
蓮:「お父さん、今日もカメラ?」
誠:「ああ」
結衣:「いつまで続けるの?」
誠:「習慣になるまで」
結衣:「はあ...」
[食事が始まる]
[しばらく会話なし。スプーンやフォークの音だけ]
美咲:「...ねえ、蓮」
蓮:「ん?」
美咲:「昨日の夜、何か音しなかった?」
蓮:「音? 何も聞こえなかったけど」
美咲:「そう...」
誠:「どんな音?」
美咲:「いや、気のせいかもしれないけど...廊下を歩く音みたいなのが」
結衣:「お父さんじゃないの? 夜中に起きてたでしょ」
誠:「俺は起きてない」
結衣:「嘘。トイレ行ってたじゃん。私も目が覚めて」
誠:「...そうだっけ?」
美咲:「ほら、やっぱり」
誠:「でも、俺が歩いたのは一回だけだぞ」
美咲:「じゃあ、他の音は...」
[沈黙]
蓮:「家、古いし。木がきしんだんじゃない?」
美咲:「...そうね」
[再び食事の音]
誠:「...なあ」
全員:「?」
誠:「最近、何か...変なこと、ない?」
結衣:「変なことって?」
誠:「いや、なんとなく。雰囲気っていうか」
蓮:「お父さんが一番変だよ」
誠:「...そうか」
美咲:「誠さん、本当に疲れてるのよ。今日、早く帰ってきて休みなさい」
誠:「...うん」
[朝食は静かに終わる]
[映像終了 / 録画時間:8分15秒]


【発見された手書きメモ】
発見日:2025年5月26日
発見場所:美咲のハンドバッグの中
筆跡:川瀬美咲
3月9日

誠の様子がおかしい。
カメラのことだけじゃない。
何かに怯えているような目をしている。

昨日の夜の音。
誠の足音じゃなかった。
もっと軽い、女性のような足音。

でも家には私と結衣しかいない。
結衣は部屋から出ていなかった。

じゃあ、誰?

...考えすぎかもしれない。
誠の不安が伝染したのかも。


【映像記録 #025】
日付:2025年3月9日 22:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0025.MP4
[リビング。家族四人がそれぞれ思い思いに過ごしている]
[美咲はソファで編み物。結衣はダイニングテーブルで勉強。蓮はテレビでゲーム]
[カメラは誠が手持ちで撮影している]
誠の声:「平和な夜だな」
蓮:「お父さん、邪魔」
誠:「邪魔って、撮ってるだけだろ」
蓮:「画面に映り込む」
[カメラが美咲に向く]
誠:「美咲、何作ってるの?」
美咲:「マフラー」
誠:「誰の?」
美咲:「あなたの」
誠:「マジで?」
美咲:「冗談。蓮の」
蓮:「え、俺の?」
美咲:「来年の冬用」
蓮:「気が早い...」
[カメラが結衣に向く]
誠:「結衣、勉強頑張ってるな」
結衣:「...」
誠:「無視すんな」
結衣:「集中してるの」
誠:「そっか」
[カメラが窓に向く。外は真っ暗]
誠:「...」
美咲:「誠さん?」
誠:「ん?あ、ごめん」
美咲:「どうしたの?」
誠:「いや...外、見えた気がして」
美咲:「外?」
誠:「人影みたいなの」
[蓮がゲームを止めて窓を見る]
蓮:「どこ?」
誠:「いや、気のせいかも」
結衣:「お父さん、最近気のせい多すぎ」
誠:「...そうだな」
美咲:「ねえ、誠さん。明日、病院行かない?」
誠:「病院?」
美咲:「最近、様子おかしいから。検査でも受けたら?」
誠:「大丈夫だよ」
美咲:「大丈夫じゃないわよ。寝不足だし、幻覚まで見て」
誠:「幻覚じゃない」
美咲:「じゃあ何?」
誠:「...わかんない」
[沈黙]
蓮:「お父さん、ストレス?」
誠:「...かもな」
結衣:「だったらカメラやめれば?」
誠:「それはできない」
結衣:「なんで?」
誠:「...記録しないと」
美咲:「何を?」
誠:「...今を」
[再び沈黙]
美咲:「...わかったわ。でも、もし体調悪くなったら、すぐ言ってね」
誠:「うん」
[カメラがリビング全体をパンする]
[画面の端、廊下の暗がり]
[一瞬、何かが映る]
[白い服を着た人影]
[しかし誠は気づいていない]
[カメラが美咲に戻る]
誠:「じゃあ、今日はこの辺で」
[映像終了 / 録画時間:6分33秒]


【重要記録】
日付:2025年3月9日 23:47
自動保存された映像ログより抽出
ファイル名:AUTO_REC_002.MP4
[深夜のリビング。すべての明かりが消えている]
[かすかな街灯の光だけが窓から差し込む]
[録画開始から3分]
[廊下から、足音]
[ゆっくりとした、規則正しい足音]
[リビングに誰かが入ってくる]
[影]
[人の形をしているが、細部は判別できない]
[影はソファの前で立ち止まる]
[じっと、何かを見ている]
[5分経過]
[影が動く]
[ダイニングテーブルに近づく]
[椅子に手をかける]
[一脚の椅子を、ゆっくりと引く]
[そして、座る]
[影は座ったまま、動かない]
[10分経過]
[突然、影が消える]
[何も残っていない。椅子だけが引かれたまま]
[録画終了 / 録画時間:15分07秒]
【この映像は、5月26日まで誰にも発見されなかった】