「何か、嬉しそうですね」
矢島の車に乗り込んだ途端、怪訝そうに聞かれた。
「俺のボイスメッセージを、友達が聞いてくれて、続きを聞きたいと言ってくれたんです」
心から嬉しくて話した。
矢島は一緒に喜んでくれると思ったのに、なぜか素っ気なく返された。
「そうですか、よかったですね」
「何でそんな態度なんですか?やっぱり今朝のあれですか?」
「それもありますが……」
矢島が俺の方をちらりと見た後、深い溜息をつきながら、ハンドルに額をつけた。
「矢島さん?今朝のあれは、俺も確かに悪かったなと思います。でも」
「違います。これ、口にするのとメッセージじゃ全然難易度違いますね」
「え……それってどういう」
重ねて問いかければ、矢島は顔を隠したまま、唸るように言った。
「妬いた……んです」
「やい……え」
「俺、嫉妬深いんです。いけませんか」
早口で言われて、俺も恥ずかしさが込み上げてきた。
同時に、俺は一瞬、宇宙と矢島が重なるような感覚を覚えた。
すれ違うきっかけになったあの台詞。
でもそれを思い出した途端、俺は気がついた。
「やっぱり、矢島さんは宇宙さんとは違います。別人です。だって、メッセージで、俺は矢島さんの話を宇宙さんにした時、妬いたと言われたんです。そんなこと、自分に対しては普通言いません。別の存在に対して言う台詞です」
俺は自分の言葉に納得したが、矢島は否定した。
「違います。それは普通はそうですけど」
「違いません。だって、それに宇宙さんと矢島さんは違いすぎます」
「どこがどう……やめましょう。この話は今は。数日後に、また聞かせて下さい」
数日だけでこの感覚が変わるとも思えなかったが、喧嘩になりそうだったので、俺も気持ちを切り替えることにした。
「今日は、どこに行くんですか」
「鷺澤さんは、水族館好きですか。それとも、動物園がいいですか」
尋ねられた時、俺は幼い頃に両方行きたくても連れて行ってもらえなかったことを思い出した。
いつも、一人きりで遊んでいた。
「……両方行きましょう」
俺の返事を待たずに、矢島は車のエンジンをかける。
家庭教師をしてもらっている際に、そんなことを話したかどうかは覚えていないが、流石に何か察したのだろう。
休日に勉強を教えに来てもらう時も、いつも家に誰もいないことくらいは。
「俺のことを話したことはありませんでしたね。勝手に話すので、BGMとでも思って聞き流して下さい」
「いいえ、ちゃんと聞きます」
俺がきっぱりと言い切ると、矢島はほんの僅かに笑みを浮かべた。
「俺は子供のころから、愛想のない子でした。それは、自分で言うのもなんですけど、無駄に容姿が良かったせいで、両親が俺を人形扱いしたせいもあります。口を開こうとすれば、あなたは黙っていればいい、黙っていた方が綺麗だからと言われました。でもそれも、俺が相手を気遣ったり、そういう優しさを振り撒けない人間だったから、両親はそう言ったのでしょう」
「周りと、無駄な争いを生まないようにしたんですね。俺に対しても、最初はそんなでしたし」
矢島は今度こそ普通に笑う。自虐的な笑いだった。
だから俺は、付け足した。
「でも今は全然違います。それに、優しさって人それぞれです。矢島さんは……、宇宙さんの言葉ですけど、不器用なだけです。だから、前にも言いましたけど、本当は優しい人です。それに気づかないご両親は、もったいないことをしましたね」
矢島は黙り込む。
不要なことを言ったと思ったが、矢島の方を見た俺は、驚いて息を飲んだ。
矢島が、一筋の涙を流していたからだ。
俺は何と声をかけていいか悩んだ末に、矢島の真似をすることにした。
黙ったまま、何も言わないことにした。
それを矢島は望んでいると感じたのだ。
矢島の車に乗り込んだ途端、怪訝そうに聞かれた。
「俺のボイスメッセージを、友達が聞いてくれて、続きを聞きたいと言ってくれたんです」
心から嬉しくて話した。
矢島は一緒に喜んでくれると思ったのに、なぜか素っ気なく返された。
「そうですか、よかったですね」
「何でそんな態度なんですか?やっぱり今朝のあれですか?」
「それもありますが……」
矢島が俺の方をちらりと見た後、深い溜息をつきながら、ハンドルに額をつけた。
「矢島さん?今朝のあれは、俺も確かに悪かったなと思います。でも」
「違います。これ、口にするのとメッセージじゃ全然難易度違いますね」
「え……それってどういう」
重ねて問いかければ、矢島は顔を隠したまま、唸るように言った。
「妬いた……んです」
「やい……え」
「俺、嫉妬深いんです。いけませんか」
早口で言われて、俺も恥ずかしさが込み上げてきた。
同時に、俺は一瞬、宇宙と矢島が重なるような感覚を覚えた。
すれ違うきっかけになったあの台詞。
でもそれを思い出した途端、俺は気がついた。
「やっぱり、矢島さんは宇宙さんとは違います。別人です。だって、メッセージで、俺は矢島さんの話を宇宙さんにした時、妬いたと言われたんです。そんなこと、自分に対しては普通言いません。別の存在に対して言う台詞です」
俺は自分の言葉に納得したが、矢島は否定した。
「違います。それは普通はそうですけど」
「違いません。だって、それに宇宙さんと矢島さんは違いすぎます」
「どこがどう……やめましょう。この話は今は。数日後に、また聞かせて下さい」
数日だけでこの感覚が変わるとも思えなかったが、喧嘩になりそうだったので、俺も気持ちを切り替えることにした。
「今日は、どこに行くんですか」
「鷺澤さんは、水族館好きですか。それとも、動物園がいいですか」
尋ねられた時、俺は幼い頃に両方行きたくても連れて行ってもらえなかったことを思い出した。
いつも、一人きりで遊んでいた。
「……両方行きましょう」
俺の返事を待たずに、矢島は車のエンジンをかける。
家庭教師をしてもらっている際に、そんなことを話したかどうかは覚えていないが、流石に何か察したのだろう。
休日に勉強を教えに来てもらう時も、いつも家に誰もいないことくらいは。
「俺のことを話したことはありませんでしたね。勝手に話すので、BGMとでも思って聞き流して下さい」
「いいえ、ちゃんと聞きます」
俺がきっぱりと言い切ると、矢島はほんの僅かに笑みを浮かべた。
「俺は子供のころから、愛想のない子でした。それは、自分で言うのもなんですけど、無駄に容姿が良かったせいで、両親が俺を人形扱いしたせいもあります。口を開こうとすれば、あなたは黙っていればいい、黙っていた方が綺麗だからと言われました。でもそれも、俺が相手を気遣ったり、そういう優しさを振り撒けない人間だったから、両親はそう言ったのでしょう」
「周りと、無駄な争いを生まないようにしたんですね。俺に対しても、最初はそんなでしたし」
矢島は今度こそ普通に笑う。自虐的な笑いだった。
だから俺は、付け足した。
「でも今は全然違います。それに、優しさって人それぞれです。矢島さんは……、宇宙さんの言葉ですけど、不器用なだけです。だから、前にも言いましたけど、本当は優しい人です。それに気づかないご両親は、もったいないことをしましたね」
矢島は黙り込む。
不要なことを言ったと思ったが、矢島の方を見た俺は、驚いて息を飲んだ。
矢島が、一筋の涙を流していたからだ。
俺は何と声をかけていいか悩んだ末に、矢島の真似をすることにした。
黙ったまま、何も言わないことにした。
それを矢島は望んでいると感じたのだ。

