あなただけが教えてくれた

 付き合うことになった、と誰かに告げることはないし、そう思っていいかも分からない。
 宇宙への気持ちに答えを出すという一つの問題を解決したら、もっと難解な問題が表れた。
 しかも、そう容易く人に話せることではない。
「俺は……」
 どうすればいいんだろう。
 幾度目かも分からない溜息をついた時、間宮と山笠が近づいてきた。
「また、何か悩んでるね」
「山笠、そっとしておいた方がいい」
「でもさ。鷺澤君、俺が言った言葉で悩んでる?」
 優しく気遣ってくれる山笠に、俺は首を振った。
「違う。俺は、ただ……」
「あのさ、もしかしてだけど、鷺澤君は二人のことが好きになった?」
 言い当てられ、俺は言葉に詰まる。
「なんで……」
「分かるよ、今までの話を聞いていたら」
「え、まじか。それは悩むな」
「うん、でも、もう一人とは、もう……」
 知らず、目に涙が浮かんだ。
「鷺澤君、俺も二人を好きになったことあるよ」
 ふいに、山笠が打ち明けた。
「え、ほんと?」
「まじかよ。俺知らなかった」
「誰にも言わなかったからね」
 苦笑を浮かべる山笠は、急に大人びて見えた。
「その時、どうしたの?」
 前のめりになって尋ねれば、山笠は頬を指で掻いた。
「俺はずるかったから、両方に気持ち伝えた」
「ええっ」
「そうしたらさ、なんと両方からOKもらって付き合うことになった」
「えええっ」
 俺と間宮が声を合わせて驚けば、山笠は笑いながら続けた。
「馬鹿なことをしたって、今なら分かる。でもその時は、どっちが一番とか優劣はつけられなくて。そんな時、片方に俺が二人と付き合っていることを気づかれてさ。修羅場になると思うだろ?でも、違ったんだ。その子は、私を一番に好きなら、二番目がいたっていいって。でも俺はそれに答えを出せなかったから、結局終わった」
「もう片方とは?」
「そっちの子は、はっきりとしたことは分からないけど、ある時から急に冷めた態度を取るようになって、そのまま疎遠になった。たぶん、気づかれたんだろうな。俺は、そこでようやく、欲張ったら駄目なんだって分かった。二兎を追う者は一兎をも得ずってね」
「でも、じゃあ何で鷺澤君にあんなことを言ったんだ?」
 間宮の言うことももっともだった。
 そんな経験をした山笠が、なぜ俺に矢島から恋愛について教わることを勧めたのか。
 矛盾している。
「だって鷺澤君は、そのSNS上の人とは、まだ一度も会ったことないみたいだったし、やり取りも途絶えているみたいだったから、それなら、もう一人の人と上手くいった方が、前を向けていいと思ったんだ」
「山笠、でもさ、結果として鷺澤君は板挟みの状況になっている。お前の言葉がきっかけだ」
「そうだね、ごめん、鷺澤君」
「ううん、結局、俺は断ろうとしたんだ。それでも強引に連れられて……」
 ふと、山頂で矢島が告げた台詞が蘇る。
「いつか、言いたいことがある。それはすごく勇気がいることで、時間がかかる……あれって、どういうことだったんだろう」
 それに。
 矢島は何かを抱えていると感じた。俺のことを、二番目かもしれないけど、想っていて、想いが通じ合ったはずなのに。
「やっぱり、一番にはなれないってことなのかな……」
 俺の呟きは、二人には意味が通じなかったのだろう。揃って首を捻っていた。