「何でこうなる……」
俺は放課後、矢島に連れられ、海岸沿いをドライブしていた。
昼間、確かに矢島には断りを入れた。
ちゃんと履歴にも残っている。
それなのに、矢島はそれを綺麗に無視して、俺を強引にドライブに連れて行った。
「矢島さん、俺、断りましたよね?既読もついてますし」
矢島は答えず、突然、俺の頭を撫でた。
驚いて身を強張らせると、矢島はさっと手を引っ込める。
引き際を理解している、大人のやり方だった。
「矢島さんって、恋愛に馴れてるんですか?」
「どうしてそう思うんですか」
「だって、恋愛を教える、なんて言っていたので」
「それは……俺と接してから判断して下さい」
「どうして、急に強引になったんですか。俺は、こんなこと頼んでないのに」
「本当にそうですか?鷺澤さんは、人に甘えるのが上手いんです。自覚して下さい」
「自覚って……」
矢島に甘えたことというと、自分の決断を委ねたことだ。
「すみません、俺が間違っていました。自力で宇宙さんへの気持ちに答えを出すので、今からメッセージを送ることにします」
俺がスマートフォンを操作しようとすると、矢島は俺の手からスマートフォンを奪い取った。
「え、ちょっと……」
「恋愛というのは、本人の意思で抑え込めるものじゃないんです。落ちてしまったら、もうそこから元には戻れない。鷺澤さんが答えに迷うのは、自覚がないわけではなくて、その気持ちが恋じゃなく、憧れだからじゃないんですか?」
「……違います、俺は」
「即答できないなら、付け入る隙、ありますね」
「え?」
「飛ばします。掴まって下さい」
言うが早いか、矢島はいきなりアクセルを踏み、高速道路の方へ車を向かわせた。
「矢島さん、どこに行くんですか?」
矢島は答えず、運転に集中している。
俺は諦めて、言葉の意味を問うことにした。
「矢島さんは、俺のことどう思っているんですか?付け入るってどういう……」
「質問攻めですね」
「すみません」
「でも、俺のことに興味を持っているってことですし、一つだけ教えてあげます。俺は、恋愛に慣れていません。ただ一度だけ、好きになったことがあるだけで、それも上手くいきませんでした」
「その人のことは、今も好きなんですか」
矢島は俺の問いかけに、一瞬だけ沈黙した。
答えは決まっていても、言葉にすることを躊躇っていただけだと、矢島の口調で分かった。
「忘れることはできません。ただ、その人に鷺澤さんはよく似ています。驚くほどね」
矢島の目は、前を見据えているようで、遥か彼方を見ている。
俺は矢島の想いを知った時、その情熱に、悪寒に似た震えを覚え、奇妙な感覚を抱いた。
羨ましい、と思ったのだ。
矢島がはっきりとその人が好きだと思えること、そして。
「矢島さん」
いつの間にか、山道に入っていた。
俺はたった今抱いた感情を伝えるか迷い、悩んだ末に、ハンドルを握る矢島の手に触れた。
「変なこと、言っていいですか」
「……」
矢島はちらりと俺の手を見た後、左手をハンドルから離し、そっと手を包み込んできた。
矢島の手は大きくて温かく、どうしてか、やっと、という思いがした。
「俺、羨ましいと思いました。その人のこと」
矢島は、黙り込んだままだ。
暗くても分かる。矢島の顔には、喜色がない。
どこか苦しそうにも見えた。
「矢島さん?」
心配になって問いかけた、その瞬間だった。
目の前が唐突に開け、一面の星空が現れた。
「わあ……」
思わず感嘆の声を上げた時に、車はスピードを緩め、ゆっくりと停まる。
俺が満点の星空に見惚れていると、矢島は独り言のように言った。
「俺は、いつか鷺澤さんに、言いたいことがあります」
「言いたいこと、ですか」
「はい。でも、それはすごく勇気がいることで、きっと時間がかかります」
「待ちます。だって俺は、矢島さんのことが……」
俺の言葉を遮るように、矢島は俺を引き寄せ、抱き締めた。
言葉にしなくても通じたのだと、思った。
俺は放課後、矢島に連れられ、海岸沿いをドライブしていた。
昼間、確かに矢島には断りを入れた。
ちゃんと履歴にも残っている。
それなのに、矢島はそれを綺麗に無視して、俺を強引にドライブに連れて行った。
「矢島さん、俺、断りましたよね?既読もついてますし」
矢島は答えず、突然、俺の頭を撫でた。
驚いて身を強張らせると、矢島はさっと手を引っ込める。
引き際を理解している、大人のやり方だった。
「矢島さんって、恋愛に馴れてるんですか?」
「どうしてそう思うんですか」
「だって、恋愛を教える、なんて言っていたので」
「それは……俺と接してから判断して下さい」
「どうして、急に強引になったんですか。俺は、こんなこと頼んでないのに」
「本当にそうですか?鷺澤さんは、人に甘えるのが上手いんです。自覚して下さい」
「自覚って……」
矢島に甘えたことというと、自分の決断を委ねたことだ。
「すみません、俺が間違っていました。自力で宇宙さんへの気持ちに答えを出すので、今からメッセージを送ることにします」
俺がスマートフォンを操作しようとすると、矢島は俺の手からスマートフォンを奪い取った。
「え、ちょっと……」
「恋愛というのは、本人の意思で抑え込めるものじゃないんです。落ちてしまったら、もうそこから元には戻れない。鷺澤さんが答えに迷うのは、自覚がないわけではなくて、その気持ちが恋じゃなく、憧れだからじゃないんですか?」
「……違います、俺は」
「即答できないなら、付け入る隙、ありますね」
「え?」
「飛ばします。掴まって下さい」
言うが早いか、矢島はいきなりアクセルを踏み、高速道路の方へ車を向かわせた。
「矢島さん、どこに行くんですか?」
矢島は答えず、運転に集中している。
俺は諦めて、言葉の意味を問うことにした。
「矢島さんは、俺のことどう思っているんですか?付け入るってどういう……」
「質問攻めですね」
「すみません」
「でも、俺のことに興味を持っているってことですし、一つだけ教えてあげます。俺は、恋愛に慣れていません。ただ一度だけ、好きになったことがあるだけで、それも上手くいきませんでした」
「その人のことは、今も好きなんですか」
矢島は俺の問いかけに、一瞬だけ沈黙した。
答えは決まっていても、言葉にすることを躊躇っていただけだと、矢島の口調で分かった。
「忘れることはできません。ただ、その人に鷺澤さんはよく似ています。驚くほどね」
矢島の目は、前を見据えているようで、遥か彼方を見ている。
俺は矢島の想いを知った時、その情熱に、悪寒に似た震えを覚え、奇妙な感覚を抱いた。
羨ましい、と思ったのだ。
矢島がはっきりとその人が好きだと思えること、そして。
「矢島さん」
いつの間にか、山道に入っていた。
俺はたった今抱いた感情を伝えるか迷い、悩んだ末に、ハンドルを握る矢島の手に触れた。
「変なこと、言っていいですか」
「……」
矢島はちらりと俺の手を見た後、左手をハンドルから離し、そっと手を包み込んできた。
矢島の手は大きくて温かく、どうしてか、やっと、という思いがした。
「俺、羨ましいと思いました。その人のこと」
矢島は、黙り込んだままだ。
暗くても分かる。矢島の顔には、喜色がない。
どこか苦しそうにも見えた。
「矢島さん?」
心配になって問いかけた、その瞬間だった。
目の前が唐突に開け、一面の星空が現れた。
「わあ……」
思わず感嘆の声を上げた時に、車はスピードを緩め、ゆっくりと停まる。
俺が満点の星空に見惚れていると、矢島は独り言のように言った。
「俺は、いつか鷺澤さんに、言いたいことがあります」
「言いたいこと、ですか」
「はい。でも、それはすごく勇気がいることで、きっと時間がかかります」
「待ちます。だって俺は、矢島さんのことが……」
俺の言葉を遮るように、矢島は俺を引き寄せ、抱き締めた。
言葉にしなくても通じたのだと、思った。

