あなただけが教えてくれた

 矢島が出題した問題に八割ほど正解した俺は、背中を押されるかたちで復学した。
 もともと、高校に行かなくなった期間は、入学してから二か月ぐらいだったのもあり、クラスメイトから好奇な視線を向けられながらも、授業にはついていくことができた。
 ただ、やっぱりなかなかクラスに馴染めなかった。
 宇宙のことを忘れるとは決めたけれど、一人きりでいると、どうしても思い出してしまう。
「宇宙さん……」
 昼休みに、机の下でfriendsのアプリを開き、宇宙と最後にやり取りした内容を見返す。
 俺は、震える指で何度もメッセージを打とうとして、何度も躊躇い、思い止まる。
 気を抜くと涙が浮かんでしまいそうになった時、目の前からクラスメイトの一人が覗き込んできた。
「あの、大丈夫?泣いてる?」
 はっと顔を上げると、その拍子に右目から一筋の涙が伝い落ち、声をかけてきたクラスメイトに見られてしまう。
「わっ、本当に泣いてた。平気?」
「えっ、と、その……」
 言い淀んでいるうちに、そのクラスメイトは自分のポケットを探って、何かのキャラクターがプリントされたハンカチを取り出した。
「こんなんしかないけど、使って」
「いいよ、悪いし」
「いいからいいから」
 半ば押し付けられるかたちで、そのハンカチを受け取る。
 優しさが沁みて、さらに涙が浮かんできた。
「ほらほら、拭いて拭いて。汚していいから」
 背中をさすられ、しゃくり上げると、また別のクラスメイトがやって来た。
「どしたん?」
「分からん。でも途中から学校に来てる時点で、いろいろ抱えてるんだと思う」
「だよなあ。なあ、鷺澤君だっけ?」
 頷くと、声変わりの最中と思われる掠れた声で、そのクラスメイトは続けた。
「俺、間宮啓太(まみやけいた)。で、このお節介でおかんみたいなのは山笠良平(やまがさりょうへい)
「おかんって何だよ」
「お節介は認めるんだ。まあ、それは置いといて。鷺澤君、ちょっと風に当たりに行かね?」
「風って言ってもお前、外雨降ってるから」
「そういう時は雨に濡れたくなるだろ?」
 俺を置いてテンポよく会話を重ねる二人を見ていると、羨ましくなってきた。
 俺もこんなふうに話せていたら、もっと、宇宙と仲良くなれていたかもしれない。
 もしかしたら、実際に会って、もっともっと仲良くなって、その先には……。
 その先には?俺は、何を望んでいるんだろう。
「鷺澤君?悩みあるなら話し聞くよ」
「馬鹿、お前、簡単に人に言えないことあんだろ。これだからお節介は……」
「何だよ、別にいいだろ」
 喧嘩を始めそうになる二人を見て、俺はゆっくり口を開いた。
「二人に、頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
 俺の頼みを聞くと、二人はそんなことでいいのか、という目をした。