あなただけが教えてくれた

 そうやって心を入れ替えて矢島を出迎えたが、ものの数分と立たずに呆気なく打ち砕かれた。
「ここ、さっき教えました」
「はい、そうですね……。すみません」
「………」
 また溜息をつかれた。俺が悪い。何度も同じ個所で躓いていて、一向に勉強が進まないから。
「謝らなくていいです」
「でも、俺が何回も間違えているから、怒っているんですよね?」
 尋ねると、矢島が俺をじろりと見て、眉間に皺を寄せる。
「怒って……?俺が……?」
 なぜかそのまま黙り込まれた。
 これほど不機嫌な空気を出されているのに、怒っていると指摘すると、間違いを言われたような反応をされる。
 まだ接し始めて日が浅いのもあるが、母より扱いづらい相手は初めてだった。
「一つだけ言わせてもらいますと、鷺沢さんだけが悪いわけじゃありません」
「え……」
「教え方を変えます。こちらは解けますよね?」
「あ、はい」
 矢島が指差した問題は、俺が得意とする方程式を扱ったものだった。
 すらすらと問題を解けば、次々と俺が得意な問題ばかりを解かされていった。
 少しずつ自信が湧いて来たところで、矢島は腕時計を見て立ち上がる。
「矢島さん……?」
「時間になったので帰ります。次回までに、分かる問題だけ解いていて下さい」
「分かりました」
 俺の返事を聞くと、矢島はそのまま帰って行った。