あなただけが教えてくれた

「初めまして。今回、こうして動画を上げることにしたのは、日ごろの悩みや、日常の何気ないことを誰かに聞いて欲しかったからです」
 自分の声以外しんと静まり返った部屋で、スマートフォンのボイスレコーダーアプリを使い、自由気ままに喋り始める。
 数分ほど話したところで、録音を止めてパソコンを操作した。
 自作のホームページに先ほどの動画をアップすると、椅子の上で大きく伸びをする。
 すごいことをしたわけではないけれど、心地いい達成感が身を包んでいた。
 俺は高校に入学して早々に、学校に行かなくなった。
 もともと、受験に失敗して行きたい学校じゃなかったのもあるけれど、運動部に強制的に入らせようとする校風が肌に合わなかったからだ。
 その上、クラスメイトとも馬が合わず、気がつけば孤立していた。
 幸か不幸か、両親は共働きで、仕事が忙しすぎて、俺が学校に行かなくてもまるで気にしない。
 一人きりで大半の時間を過ごす中で、気がつけばSNSが居場所になっていた。
「動画をこちらのホームページにアップしました。声だけですが、良かったら聞いて下さい」
 利用者の多い、呟きを書き込めるSNSアプリ、「friends」にコメントとホームページのリンクを載せた。
 するとすぐさま、アプリ内で友達になっている秋晴(しゅうせい)からコメントが来た。
「今から見る!ホームページ作れるとかすげえ。後で作り方教えて!」
「後でDMで教える!」
 返信しながら、自然と口元が緩む。
 やっぱりSNSはいい。現実では作れない友達ができる。
 スマートフォンを机に置き、明日はどんなことを動画に上げようかと考えていた時だった。
 アプリの通知音が鳴り、DMの受信を伝えた。
「秋晴かな」
 うきうきしながらDMを見るが、秋晴からではなかった。
宇宙(そら)?」
 初めて見る相手だった。SNSなだけに、いわれのない誹謗中傷や、気持ちの悪いメッセージを送りつける輩もいる。
 緊張しながらメッセージを開くと、そこには思いがけない言葉が綴ってあった。
「初めまして。先ほど、ホームページを拝見させていただきました。俺は紫悠(しゆう)さんの言葉を聞いて、とても共感しました。次の動画も楽しみにしています」
 心が温かくなり、無意識のうちに目尻に涙が浮かんだ。
「あれ、何でだろう」
 自分でもよく分からないけれど、この宇宙の言葉は本当に本心から伝えてくれている言葉だと感じたからかもしれない。
 俺はいつもすぐにメッセージに返信する方だけれど、言葉にできない感情が込み上げたせいか、すぐには返せなかった。
 すると、それから十数分経った頃に、再び宇宙からメッセージが届いた。
「良かったら、またこうしてDM送ってもいいですか?」
 これに対して返信を待たせるのは良くないな、と思って、急いで返信を打つ。
「はい、もちろんです!メッセージ待ってます。あと、感想ありがとうございます。とても嬉しくて涙が出ちゃいました」
 勢いに任せて送信した後に、涙のことは言わなくてよかったなと思ったけど、すぐにその後悔は掻き消された。
 宇宙から届いた次のメッセージによって。
「可愛いですね」
「……っ」
 瞬時に、自分の顔が熱くなった。
 スマートフォンをベッドに投げ出し、顔を覆う。
 誰も見ていないのに、宇宙には見られているような気がした。