◯◯家の葬儀

猿楽探偵事務所(猿楽学による蟹沢奈美へのインタビュー録音書き起こし)

「始めるよ」
「あ、あの、インタビューって言われましても何を答えていいのやら。そもそも必要です? 録音までしてますけど」
「こういうの探偵っぽくていいよね?」
「ぽいって。猿楽さんは探偵ですよね?」
「こら、質問を質問で返さない! 気の利いた返しをしようなんて思わずリラックスして」
(大袈裟に深呼吸をする音)

「では1問目、蟹沢君はどうしてライターになったの?」
「……そうですね、言葉には力があると思いたかったのかもしれません。ていうか、むしろ猿楽さんこそ小説家に」
「インタビュアーは僕。蟹沢君は質問しちゃいけないよ」
(発言時、猿楽氏の声音はかなり低い)

「言葉に力があると思いたかったって、裏切られた事でもあるの?」
(キャスター付きの椅子が動く音)
(蟹沢氏が返答まで2分沈黙)
「無理したり、脚色して話さなくてもいい。僕はよく出来た作り話が嫌いでね」
「あ、いえ、話したくないと言うより覚えていない感じなんです。改めて聞かれるとなんでだっけ? みたいな」
「そう、理由なんて必要ない場合もあるかもね。何か飲む? メロンソーダ、トマトジュース、水道水の中から選んで」
「えっと、トマトジュースを゙下さい」
(席を立つ音)
(ここで猿楽氏の音声は途切れるが、飼い猫と戯れていると思われる) 
(猫の威嚇の声)

「そうそう、蟹沢君はブッシュの呼び方は決めたかい? ブッシュドノエル、都度呼ぶのは面倒だろう」
「わたしもブッシュと呼んじゃダメですか?」
「うーん、名前は魂を縛るでしょ? 色々な響きで呼び掛けてあげた方がいいんじゃないかな」
(蟹沢氏の沈黙が約1分)
「はは、蟹沢君は顔に気持ちが出やすい。人間は名前と魂をしっかり繋いでおかなきゃ、すぐ死にたくなっちゃうでしょ? だから僕は実名で執筆していたんだ」
※猿楽氏は過去に自死企図あり
※蟹沢氏が把握していたかは不明

「……名前、思い浮かびません。ネーミングセンスがないので」
「僕はブッシュ、たまに来る友人はノエルと呼んでいるからーー君は“ド”でドうだい?」
※ドでドうだい?はギャグの可能性あり
※蟹沢氏は無反応
「ド」
「言い難ければ“童貞”にすれば?」
「いや、どちらにせよ言いにくいです」

※これより猫の名付けについて60分以上話し合う。2問目までのやりとり(猫)を割愛し、報告書を作成する。
※修正
サビ猫(オス)は重要と指摘、画像要求あり。